ダンジョンへ
あれから買取所のおっさんと酔っ払い探索者軍団のバトルは続き、更にその熱気にあてられたのか、多くの探索者達が殴り合いの喧嘩を始めてしまった。
喧嘩する理由は俺のツマミを取ったとか、お前ばかり女にモテてムカつくとか、今屁をこいただろとか、しょうもない理由であった。
まあ、最終的にはギルド長らしきお爺さんが現れて、全員に魔法で作った拳骨でもって黙らせ、その騒ぎは治められていた。
ちなみに、お仕事もせずにおしゃべりに興じていた受付嬢達は、眼鏡をかけた秘書っぽい人に強制的に正座をさせられお説教されていた。
そしてシオウもその空気にあてられて、同じように正座をしてしまったのは仕方がない事であろう。
「うぅ~、ひどい目にあった~」
ギルドに届け物をしただけなのに、なぜか一緒にお説教を聞く羽目になったシオウは肩を落としながらダンジョンへと向かっていた。
ただし肩を落とすシオウの首には、探索者ギルドに所属しているギルドカードがぶら下がっていた。
アドットに依頼された手紙には特殊な暗号が使われており、もしも届けたお金が減っていなければギルドの登録をして欲しい旨と、登録料は届けたお金で賄って欲しいと書かれていた。
アドットからのちょっとしたお節介でもあり、己の部下が起こした償いでもあった。
故に、本来ならば棄民であるシオウがギルドの登録をするのにかかる1万シルバーという登録料金は無くなり、簡単に探索者になることができたのだった。
運がいいと言うこともあるが、それ以上に一時の欲に流されず、依頼をちゃんとこなした結果であるだろう。
まあ、シオウの場合は欲以前に、簡単なお仕事でお小遣いが貰えるとしか考えていなかっただけだが。
銀の空
見上げた空を見て、シオウはそう思った。
空の雲が、太陽が、空に浮かぶ全てが銀色だ。
そして銀の光に照らされて緑色の木々や、色鮮やかな花々や土色の大地も泉でさえも全てが銀色に染まっていた。
ここはダンジョン一階層、シオウの身体が大きくなっても貧民区に住んでいたと言うだけで、入ることが難しかった場所。
そんなダンジョンの中をシオウは目を擦りながら眺める。
「う~~~ん・・どっち行こう」
見渡す限りの銀世界。
大地や木々が同色であるとはいえ、色の濃さまでは違っているおかげでなんとなくそこに何があるのか理解できる。
違和感はあるが慣れればどうってことないだろう。
まあ、それでもあまり長くいると目が回りそうなので、あまり長居したくない場所ではあるが。
「魔物いな~い」
しばらく気の向くままに歩んでいたシオウだが、なんとも代わり映えしない風景に飽きてしまっていた。
あのイジワル三兄弟から魔物を倒すと魔石が手に入ることは知っているのだが、その肝心な魔物がどこにもいない。
そもそもシオウは魔物の姿形をあまり知らない。
スライムやゴブリンと言った一般的に知られている最弱の魔物や、ドラゴンなどの有名な魔物ならば両親からお話で聞いたことがあるが、オーガなど中級の魔物やあまり認知されていない魔物の姿はしらない。
そのせいで先程から銀の草の上で寝転んでいる巨大な芋虫や木の上にぶら下がっている丸い芋虫がいるのだが、シオウにとっては魔物としてではなく、ただの大きな虫としか認識していなかった。
一応虫型の魔物がいることは知ってはいるが、知っているだけだ。
襲ってこない限り魔物ではないと本人は思っている。
ここはダンジョン一階層『銀世界』
この『銀世界』の魔物達は人を襲わず、ただのんびりと過ごしているだけの平和な階層だ。
ただし、そんなのんびりとしている魔物を見つけることは困難であることをシオウは気付いていない。
寝転がっている巨大な芋虫は草と同化し、丸い芋虫も木の実や葉に擬態しているなどとは思いもしないだろう。
そして、それらの魔物達を簡単に見つけられてしまう、シオウの身体が人外離れしている事を本人は気付くことは無かった。
それがどれほど異常な事なのか彼が気付くことはまだまだ先の話である。




