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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第二章 強くなり・・・そして
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探索ギルドへ


 夜遅くまで兵士の洗濯物や鎧を綺麗にしていた次の日。

 シオウは変わった。

 言っておくが、シオウが種族として格が上がった訳でも、男として大人の階段を上った訳でもない。

 ただ見た目が変わったのだ。


 粗末なズタ袋など身に着けておらず、安いがそれなりに頑丈そうな麻の服と古くて使い込まれた皮鎧、素足だった足には頑丈なレザーブーツを履き、腰には小さなこん棒を差していた。 

 見た目だけは貧民区の子供とは思えず、何処にでもいそうな探索者に憧れるヤンチャな子供にしか見えなかった。

 未だに税を納めていないために身分はなく棄民扱いだが、見た目だけなら平民の子供である。


 なぜ行き成り、シオウがこんな格好になったのか、その理由は本人にもよくわかっていない。

 ただ先日シオウに話しかけてきた、巨漢のおじさんらしき兵士、アドットが洗濯をした報酬と言って、お金の他に服やらこん棒やらをくれたのだ。

 全て安物で倉庫の肥やしになっていた物であるから気にするなと言われたが、その後ろにはシオウをここまで連れてきた兵士と洗濯物を押し付けてきた意地悪な兵士がなぜか恨みがましい視線を向けていたので、何か関係があるのだろう。

 ただ、シオウに向けるそんな視線もアドットが振り返ると、怯えたように顔を伏せて子犬のように震えて、怖い目で睨みつけて来なくなった。

 なにがなんだかよくわからないが、貰えるものは貰っておくべきだと思いありがたく受け取る。


 そして受け取った際に探索者ギルドへのお使いもお願いされた。

 手紙とお金の入った袋とお使いの報酬であるたった一枚の銅貨(10シルバー)を渡される。

 お使いで渡された袋の中にはその大銅貨(一枚100シルバー)が何十枚も入っており、シオウの目から見ても大金であるのがわかる。


 子供に、それも棄民の子供にこんな依頼をすれば持ち逃げされても可笑しくない。

 だがアドットは「頼んだわよ」と言うだけで、依頼の契約もせずに行ってしまった。

 このままこのお金を盗んでしまってもばれることは無く、契約を交わしていない時点で盗んでも証拠がない為罪に問われることは無い。

 それを知っているシオウだが、盗むと言う判断は端から無く、運ぶだけでお駄賃貰えてラッキーなお仕事としか考えていなかった。






「おとどけ物です!」


 ギルドについたシオウは暇そうな職員に声を掛け、机の上にアドットから頼まれた手紙とお金の入った袋を置いた。


「あんだ? ボウズ。ここは買取所だ。報告なら受付でやれ」

「う?・・・・・おとどけ物です!」


 シオウは受付と言うのがわからず首を傾げ、一度周囲を見回してやはりよくわからず、もう一度大きな声で同じ言葉を吐いた。

 その行動に、いちから説明する方が面倒と思った買取所のおっさんは仕方なく手紙と袋を受け取った。


「アドットからギルド宛てに手紙とは随分と珍しいな」


 特に仲がいいわけではないが、ギルドと兵士はそれなりに付き合いがある。

 ただそれなりの付き合いであり、仕事以外でのやり取りは発生せず、仕事の依頼をする場合アドットは直接ギルドに赴く。

 そんな彼女が手紙を寄越すことに違和感を覚えつつ、買取所のおっさんは手紙を読み始めた。


「・・・・・・なるほど」


 手紙の中身を読むと顎を擦りながら、机に置かれた袋に手を伸ばし、中身を確認し始めた。


「おいボウズ、これを持って受付に行け」

「?? お仕事?」

「たかが数歩の距離で仕事もくそもあるかよ。バカかお前」

「数歩? 受付って・・・ここ?」


 渡された一枚の紙を持って、近くで座る職員の人を指差した。


「ちげぇわバカタレ。入り口近くの女共の所だ」

「入り口近く・・・・あの忙しそうなとこ?」

「あん?」


 この時間の探索者はほとんどダンジョンに行き、ギルド職員達は書類仕事に勤しんでいる時間だ。

 とりわけ忙しいなどと言うことは無い。

 そう思っておっさんは受付に視線を向けると、そこには昼間から酒を飲んだ酔っ払い探索者達が受付嬢達に絡んでいた。

 その光景を目にした、おっさんは舌打ちすると受付へと向かう。

 シオウはおっさんが親切にも受付に案内してくれるのかと思い、後を付いていった。


「邪魔だ! この腐れ共が! 仕事しくさらねぇクズ共が絡んでんじゃねぇ!」


 だがそれはシオウの勘違いで行き成り買取所のおっさんは、受付嬢達に絡んでいた酔っ払い達を、ぶん殴り始めた。

 それもたった一撃で全員を殴り飛ばしたのだ。

 そうたった一撃でだ。

 拳に触れてもいない人達全員、なぜか全員同じように殴り飛ばされ吹っ飛んでいった。


「イテェじゃねぇかクソ髭!」

「じゃかしい! 仕事の邪魔してんじゃねぇよ! テメェ等が邪魔するせいでシワ寄せがこっちにまでくんだっ! 女口説きてぇなら外でやりやがれ!」

「うるせぇ! もうちっとで口説き落とせそうだってのに邪魔すんじゃねぇ!!」

「なにが口説き落とせそうだ! 女を口説ける顔面になってから出直してきやがれ! テメェ等不細工にもほどがあんだよ!」

「て、てめぇ、それを言うか? あぁ! それを言うかこんにゃろう!!」


 そしてなぜか始まる買取所のおっさん VS 酔っ払い探索者軍団


 どう見てもおっさんの方が人数的に分の悪そうな状況なのだが、そんなこと知ったことかと言わんばかりに、探索者達とガチの殴り合いを始めてしまった。

 そんな殴り合いが始まったのを見て、シオウはすぐに受付嬢達がいる場所に逃げ込み、受付の下からその光景を怯えながら覗く。


「あら? ぼく震えてるけど大丈夫?」

「うん、大丈夫。だけどみんな怖いね」


 逃げ込んだ先の猫耳の生えた受付嬢から声を掛けられながら、シオウは今も喧嘩から目を放さず見続ける。

 怖いなら見なければいいのだが、どうにも怖いもの見たさと言う好奇心が勝ってしまい、覗き見を続ける。

 怖がりの癖に、こういう戦いを見るのは好きなシオウである。

 プロレスとかを見る感じに似ているな。


「そうね。ちょっと野蛮すぎるわよね。お姉さんとしてはもっとクールな細マッチョって人が好みなのに、ほとんどの探索者は頭が悪いし、下品だし、無駄に筋肉マッチョで嫌になるわ」

「?? 筋肉ないと魔物倒せないよ?」

「なにいってるのよ。筋肉なんてなくても魔力を上手く扱えれば筋肉なんてそこそこでいいのよ。いい、君はまだ若いから見た目の大きさで強いとか思うのだろうけど、無駄に肥大化した筋肉なんて醜いだけよ。適度に引き締まった筋肉。細く見えるのに脱いだら凄い! これが最高なんだかイニャッ!?」

「おおっ!?」


 なぜか猫耳受付のお姉さんが筋肉談義を始めそうになったとき、隣の犬耳を生やした受付のお姉さんが頭を叩いて止めに入った。


「あんたは子供に何言ってるのよ。バカなこと言ってないでさっさと仕事なさいよ」

「もうだからって殴ることないじゃないの! バカになったらどうしてくれるのよ!」

「どうせ理想の筋肉しかあんたの頭にはつまってないんでしょ? 少しはバカになってそんなくだらない事忘れちゃえばいいのよ」

「筋肉以外にも入ってますぅ~。今日のおやつを何にするかとか大事な事はちゃんと覚えています~」

「自慢できることじゃないわよ。それ」

「あんただって同じようなものじゃない。おやつとお肉しか頭に入ってないでしょ?」

「失礼ね。おしゃれも頭に入っているわ」

「それは私も同じよ」

「ねぇ~、何の話してるのぉ~。私も混ぜてよぉ~」


 そして、なぜかおしゃべりを始める受付嬢のお姉さん達。

 探索者は勿論の事、ギルド職員も随分と自由な人達ばかりなんだなと、子供ながらに思うシオウである。



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