洗濯の日
じりじりと肌を焼く太陽の下、多くの人々は汗を流しながら必死に働く。
家族を養うために、己が生きるための金を得ようと皆必死に働いていた。
そしてシオウも
「休憩終わり! 仕事に取りかかれ野郎共!」
「「「「イエッサー!」」」」
「いえっさ~!!」
なぜか兵士達に混ざりながら荷物の運搬や武具の手入れなどをしていた。
本来の予定では今頃ダンジョンで魔物と戦っているはずだったのだが、流石に12歳という身体に成長しても武器1つ持たず、それもガリガリに痩せたみすぼらしい姿ではダンジョンに通すことはできないと言われた。
そして、そんなシオウを見かねた兵士が無理やり宿舎に連れていかれ、なぜかそこで荷物運びの仕事を与えられることとなった。
なんともお節介で面倒見の良い兵士がいたものだと思わないでもないが、別にこの兵士が善意でシオウに親切を働いたわけではない。
見た目12歳と言う年齢まで貧民区に住んでいたということは、それなりに悪事に手を染めているだろうとその兵士は考えていた。
故に犯罪者を捕まえた実績が欲しかっただけにすぎない。
そして言葉巧みに耳障りの良い言葉を並べて兵舎に連れていき犯罪歴を調べたのだ。
軽犯罪者一人捕まえた所で別に自慢できる手柄になる訳でもないが、それでも労せず捕まえれば仲間や上司達への心証は良くなる。
何が出世の足掛かりになるかわからず、こういう地道な努力が大事なのだ。
そんな下心でシオウを連れて来たのだが、結局シオウは何も悪いことにも手を染めておらず、この歳になるまでまっとうな手段で貧民区を生き残った極めて珍しい者として、犯罪判別の魔道具が判断してしまい、兵士の思惑通りにはいかなかった。
そして、そのまま解放となるのが一般的だが、兵士はそのまま返してしまっては罪なき子供を引っ立てた無能と思われることを恐れ、無理やりシオウを日雇いの雑用依頼を受けた探索者として処理した。
しかもその雑用依頼で発生する報酬をかすめ取ったのだ。
兵士からすれば微々たる金であるが、目的は金ではなく、ただイラつきをぶつけたかっただけ。
貧民区のガキには餌と小銭を渡せばいいと考えていた。
故にシオウを兵士達の雑用係として一時的に仕事をする事になった。
その際シオウの否応など関係なく、半強制的であったのは言うまでもない。
「おぉ・・おぉぉ」
まあ、半強制的に連れて来られ、本来の報酬よりも安い賃金で仕事させられているシオウだが、その顔には別に不満はなく、鼻歌交じりで渡された大量の洗濯物を洗っていた。
その理由は少ない給料でもちゃんと支払われることを約束されたからだ。
本当に微々たる金額ではあり、料理屋の安い定食が一回食べられる程度だが、シオウにとってはその定食を一回食べられるお金を得られる時点で文句などあろうはずがなかった。
「おい貧民のガキ! コイツも洗っとけ!」
そんなシオウに、今の体格のシオウより年上の青年が偉そうに大量の洗濯物を押し付ける。
青年からしたら汚くみすぼらしい格好のシオウを下に見るのは当たり前。
そう言う価値観を両親や国が植え付けているので咎められるものはいない。
ただ、この青年の上司は貧民と言うだけで下に見る事を良しとしない人であるため、見つかれば何かしらの罰を言い渡されるだろう。
ただ今この場にはそれを咎める上司はいないので、青年はこれ幸いにとシオウを蔑む。
本来下っ端の青年がすべき仕事でもある洗濯を全て押し付け、自分はサボる気満々であった。
「いえっさ~」
まあ、シオウはそんな悪意ある言葉を言われたり、仕事を押し付けられようとも、気の抜けるような返事をするだけである。
己が貧民であることは真実であり、別に本当のことを言われているだけなので怒りようがないからだ。
というより、物理的な暴力を振るってこないだけでも十分優しい人だと思っているほどだ。
仕事を押し付けられるのは少し頭にくるが、殴られて殺される危険性がないだけマシである。
「えいしょ、えいしょ」
一人では到底終わらないであろう積み上げられた洗濯物。
他にも大量の武具を磨いておけと押し付けられたシオウは、文句ひとつ発することなく淡々と作業をこなす。
ただ洗うだけで飯が食える。
ただ武器を磨くだけで飯が食える。
命の危険もなく、ただお掃除と言う簡単な仕事を行うだけで飯にありつける。
そんな簡単な事で飢えなくて済むならこれほど嬉しいことはないと考え、シオウは人知れず笑みを浮かべていた。
「あらあら、新人さん?」
「えいしょ、えいしょ・・・・えいしょ?」
必死に洗濯物を洗っていると、誰かに声を掛けられ顔を上げる。
「随分と真面目にやってるようね。あまり根詰めすぎると最後までもたないわよ」
「うぇ? だれ?」
兵士の鎧に身を包んだ巨漢のおじさんらしき人がシオウに声を掛ける。
なぜおじさんらしきなのかと言うと、頭全体を覆い隠してしまうほどの鎧兜を身に着けているため、低い声だけでおじさんと判断しただけだ。
話し方が女性ポイけど・・・。
「わたしはアドット。ここの兵達の・・そうねまとめ役みたいなものよ。よろしくね新人さん」
「・・・・ぼくはシオウ。えっと・・今日だけの洗濯係? 違った。雑用係です。よろしくです」
何故か挨拶をされたので、シオウは失礼にならないように心掛けながら、頭を下げる。
できるだけ反感を買わないように丁寧な言葉遣いを意識しているせいで、どこかたどたどしいのは仕方がない。
「もっと楽に話してくれていいのよ。わたしそういうの気にしないし」
「う?・・・うん、わかった・・あっ! 違った! いえっさ~」
楽に話せと言われ、その言葉に疑問を浮かべることは無く、シオウは言われるがままに返事をした。
ただここでは返事をするときは「イエッサー」と独特な返事をしなければならないと言われていたのを思い出し、すぐに言い直す。
そんなシオウの行動が面白かったのか、巨漢のおじさんらしき人は図太い声でケタケタと笑う。
「普通に話しているときは、その返事はしなくていいのよ」
「そうなの?」
「えぇ、だって楽しくおしゃべりしていて、そんな返事されたら肩が凝っちゃうじゃない。楽しくないおしゃべりなんてしたくないわ」
「肩が凝る?」
返事1つで肩が凝るのかと疑問に思ったシオウは、いえっさ~、いえっさ~と何度も呟きながら、己の肩が凝っているか確かめだした。
その行動がツボに入ったのか、巨漢のおじさんらしき人はまた笑い出す。
「全然肩凝らないよ?」
「あははっ、また変わった子がいたものね。返事1つで肩が凝る訳無いじゃない」
「う??」
ならば何故肩が凝ると言ったのかわからず、シオウは首を傾げる。
からかったのだろうかと考えるも、目の前の人からはそんなくだらない事をするような人にはなぜか思えず、ならば何故笑われているのかわからずシオウは更に首を傾げた。
「そんなに首をかしげていると、首が折れてしまうわよ」
「・・おぉ! 大変! 大変!」
「そこまで必死になるほどのことじゃあないと思うけど?」
「首まがったら大変だよ? 真っ直ぐじゃないとご飯がちゃんと食べられなくなるじゃん!」
「そこを気にするなんて、ふふっ、本当に面白い子」
おじさんらしき人は予想していなかった受け答えに小さな笑みを浮かべる。
ただ、その笑みはフルメイス姿であるためシオウには本当に笑っているのかはわからなかった。
「それで何か用? 追加のお洗濯でもあるの?」
「それはいいわ。わたし自分のモノは自分で洗うようにしているの。わたしにとってとても大事なお洋服だからね」
「大事?・・・絹の服なの?」
「残念ながら普通の麻よ。ただ、大事なお洋服だから自分の手で綺麗にしてあげたいのよ」
「ふ~ん、そっか」
自分のお気に入りを大事にしたいと言うのはなんとなく理解できたシオウは、特に突っ込むことはしない。
というより、仕事が減ったのだから文句を口にする意味もなかった。
「・・・?? あれ? ならなんでここに来たの?」
「ん? ああ、それは見回りよ。皆サボらずにちゃんとお仕事しているかの確認にね」
「??・・・・っ!? ぼく! ちゃんとお仕事してるよ! サボってないからね! ほら! ゴッシゴッシしてるもん!」
サボっていたと判断されて報酬が減らされたらたまったものじゃない。
そう思って、シオウは必死に洗濯物を手に取り洗いだす。
「大丈夫。大丈夫よ。別に貴方がお仕事サボっていたなんて思ってないから安心して」
「ほ、ほんと? お金減らさない?」
「ふふ、えぇ、減らしはしないから安心しなさい。だけど、貴方って探索者ギルドから依頼を受けて来たんでしょ? そこまで慌てなくてもいいんじゃない?」
ギルドから依頼を受けたならば、最低賃金は支払われる。
流石に何もせずにサボっていればその限りではないが。
「違うよ? ぼくは探索者じゃなくて貧民だよ?」
「あら? ギルドからの依頼を受けたわけじゃないの?」
「うん、ダンジョン入ろうとしたらなんか変な所に連れていかれて、変なの触って、その後ここでお仕事するように連れて来られたの」
「連れて来られた?・・・ちょっと詳しく話してみなさい」
「う?・・・うん」
よくわからないがなぜか凄まれた感じがしたので、シオウは己がなぜここで洗濯をしているのかの経緯を話しだした。
「ふ~ん、そう。そういうことだったの。このわたしがいるのに規律を乱すバカがいるのね。そう、そういうことする。ふふふ、舐められたものねぇ」
「う、うん」
心底頭にきているという声色で呟くので、シオウは、ぼく関係ないと言わんばかりに視線を洗濯物に戻し、ジャブジャブと洗い出した。
「あら? あらあら、ごめんなさいね。怖がらせちゃったわね。大丈夫別に貴方に対して怒ってないから」
「ほ、ほんとう?」
「えぇ、だから怖がらなくていいわよ・・・まあ、あの子達にはちょっとおしおきするけど」
「う??」
「なんでもないわ。お仕事邪魔しちゃってごめんなさいね。大変だろうけど頑張りなさい」
「??・・いえっさ~」
何がしたかったのかよくわからないが、おじさんらしき兵士の人は行ってしまった。
最後に、つたない敬礼して了承の挨拶をしたら、なぜか笑われたが気にしない。
そんな、よくわからない兵士との出会いに首を傾げながらも、シオウはその日山のような洗濯物や武具を陽が落ちても綺麗にし続けていった。
アドット
鎧に身を包んだ女兵士
中身はハーフ巨人族の女性であり、声が低いのは被っているフルメイスが地声を低くする魔道具であるためだ。
男社会で女の兵士は舐められるため、第一声で女だとバレないようにしている。
ただ女性らしさの口調はどうしてもなくならないので、第一印象としては男性と言うより、オカマとして見られがちである。
戦闘能力は高く兵士10人が束になっても軽々と跳ね除けられる実力と怪力の持ち主であるとか。
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