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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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縁切りは突然


 すみません。一つ飛ばして投稿してしまいました。


 兵士が騒ぎを聞きつけ訪れるまで、シオウは男に蹴られ続けた。

 そしてシオウは兵士に保護されることはなく、ただミラ達の店の端に転がされ放置された。


 兵士も別にシオウを助けるために来たわけではない。

 往来で騒ぎを起こされては通行の邪魔でしかないため、騒ぎを鎮圧しに来ただけだ。

 貧民区の子供がどこで死のうがどうでもいい。それがこの国での認識である。

 ただ、中にはそれを受け入れられない兵士が交じっていた為、裏道ではなく表通りの店の端に放置し、更には効果が薄いが僅かばかりの塗り薬をシオウの手に握らせていた。

 まだこの街の兵士達は貧民区の子供に対しての慈悲を持つ者が多くいるようだ。


「・・・・・・・」


 シオウは無言で兵士から渡された薬を、痛みを覚える場所に塗り出した。

 効果はさほどないが、それでも塗らないよりもマシである。

 それに薬など高価な物を買えないシオウにとってはとてもありがたい代物だった。


 そして薬を縫っていると、影が差す。

 また誰か殴りに来たのかと恐怖し、身を守るために体を丸める。


 お腹を蹴られるより背中を蹴られる方が痛くない。


 頭を蹴られるより手や足を蹴られる方が生きられる。


 反撃はできないが、そもそも反撃などしても大人の人には敵わない。


 ならば生きるために耐えるほかない。


 そう考えてのシオウの行動であったが、


「・・・っ」


 シオウの傍に立ち影を作ったのは、先程傍観することしかできなかったミラであり、ミラの視点からはシオウが蹴られてもいいように防御する姿になったのではなく、ただ傷だらけの子供が怯えながら必死に痛みから逃げようとするとても可哀想な姿にしか映っていなかった。


 貧民区の子供は苦しい生活を強いられる。

 そのことは知っていた。

 お腹を空かしているだろうことも、言われない暴力を受けていることも知っていたが、それを目にするのは初めての事であった。


「・・・・・・・」


 どう声をかけていいのかわからず、ミラは黙り込んでしまう。

 手を差し伸べることをしてはならない。

 手を差し伸べても助け出せない。

 手を差し伸べて変な輩に絡まれる可能性がある限り怖くて動けない。

 自分達の生活を壊す恐怖にも抗えず、手を差し伸べると言うたったそれだけのことができなかった。


「・・・?」


 そんなミラの心情などわからぬままシオウはいつまでたっても訪れない暴力に疑問符をを浮かべ、恐る恐る視線を向けた。

 そして、ミラとシオウの視線が合うと


「あっ! ミラさんだ~!」


 シオウは悪意無く、心底嬉しそうに笑みを浮かべ、丸まるのを止めた。

 ミラが己に対して暴力を振るわないだろうという信頼。

 ミラなら安心できると心から安堵する笑みを浮かべた。


 それがミラにとってどれほど嬉しかったか、そしてこれほど信頼してくれる子に対して何もしてやれない己の不甲斐なさを理解させられたミラは、悔しさと己の弱さに顔を歪めそうになる。


「えへへ~。ドジッちゃった」

「シオウ君・・・・」

「えへへ・・・・・・壁汚してごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい。もう近づきません」


 そういうとシオウは殴られて痛む身体を引きずるように立ちあがると、仕事場であるアウルーズ魔導書店へと向かった。


 貧民区に住む薄汚い子供が、小さな小料理屋の店とは言え、堂々と店の前で立ち続けていれば、それを良く思わない奴が出てくるし、もしかしたら食べ物を盗みに来たのではと思う者もいる。

 そんな奴等に絡まれることなど予想できていたのに、また美味しいパンが食べれるかもと浮かれ、自分が普通の人に成れたなどと心のどこかで思ってしまった。


 危機感が薄れていた。

 今回はただ蹴られただけ、あちこち痛いけど動けなくなるまで痛めつけられてない。

 そして何より死んでない。

 だから大丈夫。

 次はもっとうまくやる。

 そう思いながら、シオウは身体を丸める前に何度もお腹を蹴らズキズキと痛む場所を抱えながら、ゆっくりと仕事場へと向かった。





 足を引きずりながら歩み出すシオウを呼び止めようとしたミラだが、声をかける前にいつの間にか隣に立っていた夫に止められる。


 シオウが発した言葉と行動の意味、それはミラ達に迷惑をかけないため。

 ミラ達はただ自分達の店の前で騒ぎをおこされ、汚い貧民区の子供のせいで壁を汚されるのを嫌った。

 そして、騒ぎが収まっても未だに薄汚いガキが自分達の店の壁を背にして座っている。

 それが気に食わないから声をかけた。

 ただミラ達は「営業の邪魔だからさっさとどこかに行け」と言っただけで、心配して声をかけたのではない。


 そう周囲に思わせるためにシオウは頭を下げ、傷付いた身体を引きずって無理やり離れていったのだ。

 小料理屋で営むミラ達の生活を壊さないために。


 それを夫であるユクランは理解し、シオウの機転と気遣いを無下にせぬためにミラを引き止めた。

 8歳の子供とは思えぬほどに判断が速い。

 そして己の立場を理解したうえで、自分達に迷惑をかけないようにとする聡明さ。

 はからずともシオウの環境や境遇が今の彼を作ったのだろう。


 元々の性格が優しいのか、それとも無き親からそう育てられたのか最悪な環境でも他者に迷惑をかけぬために行動できる強さをシオウは持っていた。

 いつも自分は強いと言うシオウの言葉に、ユクランはこの時ばかりは心の底から同意した。

 そしてそんな子供の意思に従うことができない自分の弱さと、これでシオウとはお別れなのだと言うことを感じ取った。


 シオウが先程発した言葉に嘘はない。

 店の壁を汚したことも、騒ぎを起こし迷惑をかけてしまったことも、故意ではないが嘘ではなく現実であるため謝罪も心から出た言葉なのだろう。


 そして、もう近づかないというのも嘘ではない。

 人目を集めるほどの騒ぎをおこしてしまった。

 妻が謂れ無い暴力を受けるシオウに声をかけ、一時とはいえ止めに入ってしまった。

 往来が少ない早朝とはいえ、確実に人に見られてしまった。

 だからもうここにはこられない。


 もしも今回の騒ぎを耳にした貧民区のならず者達が、シオウに仕事を受けさせていたことがばれれば、シオウは狙われるだろう。

 どうにかして店に押し入る算段を、シオウを利用するための手段を、シオウと親しいと言うことがバレればシオウの命を引き換えに、店の金を差し出せと言ってくるかもしれない。


 貧民区の子供とは言え、親密になればそういう奴等を招き入れかねないのだ。

 そして、それを知っているシオウは今回の事で私達に迷惑をかけたくなく、尚且つ私達がシオウに対して犯罪者を見るような目で見て欲しくなくて距離を取ることにしたのだろう。

 そんな疑いを向けられて接して欲しくないと、そんな目を向けられる前に離れたのだと思う。


「・・・・・ごめんな」


 そんな目で見るつもりは無くとも、シオウの立場と自分達の立場がそう思わせても可笑しくないことを理解しているユクランはただ小さく謝罪の言葉を発し、今にも泣き出しそうなミラを店へと連れて行った。




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― 新着の感想 ―
[良い点] シオウ、とても心優しい子供ですね。 類は友を呼ぶでしょうか。心優しいミラさん、兵士さんを呼び寄せました。一方で貧民街の子供に向けらる悪意。 この対比が、この物語のダークな側面をより一層際立…
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