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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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熊男と従業員


 パンを食べたシオウは仕事へ戻る。

 何枚も何枚も渡される安い仕事に文句ひとつ言わず、淡々とこなしていく。

 文字を間違えないように、綺麗な文字を書くように、大きさや文章が曲がらないようにと細心の注意を払いながら必死に仕事をこなしていった。


「・・・お前明日も来い」

「いいの!」

「ああ、中々真面目に働いているみたいだからな。だからと言って、少しでも手を抜いたりしたら、もう呼ばねぇぞ」

「わかった! 手を抜かない! いっぱい頑張る!!」


 そして、その頑張りが認められ、またこの場所で仕事をする事を認められることとなった。

 そのことが嬉しく、シオウは無駄に頬を緩ませながら、必死に働いて得た報酬の52シルバーを握り締めながら、日が落ち始めている帰り道を歩いて行った。


「ふむ、なかなかに良い拾いだった」

「なんか嬉しそうですね。魔館長」


 多くの従業員が帰路につく頃、シオウが手掛けた依頼表を眺めながらそう呟く熊男。

 その呟きに答えるように、一人の従業員が声をかけた。


「その依頼表、あの子供が書いたものですよね。それ買い取ってもらえるんですか?」

「買い取れねぇ物を作らせるバカを雇うように見えるか?」

「いや~、魔館長は結構人がいいんで、あの子供に同情でもしたのかと・・」

「同情で仕事を任せる程俺は甘くねぇ」


 熊男は外見のわりに、かなり面倒見が良い熊であるが、だからと言って無条件で誰にでも優しくしているわけではない。

 今回の子供、シオウが貧民区にいる子供の割には真面目で素直な性格で、更に言えば最低限の仕事を任せられる程度の知識があったから、面倒を見ただけにすぎない。


 仕事ができても、生意気でサボるような者であった場合、熊男は有無を言わさず叩きだしていただろう。

 結局はそれなりに仕事ができて扱いやすい人材であれば、身分関係なく雇い入れているだけだ・・と熊男は言う。

 それが人によっては偏見もなく優しく面倒見のいい人だと見られているようだ。


「だが、アイツの勤勉さは認めないとな。見て見ろ、子供の癖に一日でここまで上達しやがった。このままひと月もやらせれば、簡単な書物の書き写しくらい任せても良くなりそうだ」


 そういうと、シオウが書き続けた仕事の束を男に差し出す。

 その束を男はペラペラとめくり、どこか感心したような声をだす。


「確かに本を書かせるにはまだまだですけど、結構綺麗に書けていますね。これなら魔館長の言う通りひと月位でそれなりの戦力になりそうです」

「アイツが飽きずに真面目に取り組んだ場合ってのが条件に追加されるけどな」

「大丈夫じゃないですか? あの子、貧民区の子供のようですし、あそこから抜け出すために必死に働くと思いますよ」

「そうあって欲しいものだがな・・」


 どこかのギルドの登録料金や毎月の税を支払うだけの稼ぎが得られれば、すぐにでも貧民区から抜け出せることだろう。

 ただその金を稼ぐ方法が限られている。


 今回のような仕事につける貧民区の者などそうはいないし、そもそも文字を書ける者が貧民に落ちるはずもなく、よしんば書けたとしても貧民区に住んでいると言うだけで信用は無く、雇われることは無い。

 シオウが仕事を貰えたのは、たまたま熊男がそういう身分を気にしないおおざっぱな性格であったからに他ならなかった。

 シオウはただ運が良かっただけだ。


「・・それより、仕事は終わったのか? 確か水魔導書の納期は後二月だったはずだが?」

「流石にまだ終わりませんて、あれ無駄に長い記述以外にも、魔力をアホほど使う魔法陣の写しもあって、簡単には進ませてもらえないんですから」

「なら無駄口叩いでないで少しでも魔力回復に努めろ。そしてさっさと終わらせろ。でないと結婚資金がいつまでたっても貯まらんぞ」

「いや~、それはわかってはいるんですけどね。人には限界ってのがありましてね・・」

「気合でやれ。根性でどうにかしろ。言っておくが期限までに仕上げて来なかったら罰金を支払ってもらうぞ。奴隷に落ちても取り立てるからな」

「真面目に頑張っている可愛い部下にそんな殺生なこと言わないでくださいよ~」

「甘えたこと言う前に死ぬ気でやれ。今回お前が受け持った仕事はそれほど重要な仕事だ。大変な分報酬もバカ高いんだ。気張れよ」

「うい~す」


 男はあまりやる気が無さそうな返事を返すが、すぐに懐から青い飲み物を飲むと、ポキポキと指の骨を鳴らしながら己の席へと戻り、作業を再開した。

 男が飲んだのは魔力を回復させる薬である。

 そして今書いているのは大量の魔力を必要とする魔導書。

 文字が書けるのは勿論の事、古代語を理解しながら、インクと魔力を混ぜ合わせ、合わさった魔力インクを維持させたまま紙に記していく高等技術。

 それ故、高等技術を要して作られた魔導書は属性によって魔法の補助をする魔道具となる。

 男が手掛けているのはこの店でも一・二を争うほどの、高額な書物を書き記す仕事であった。


「さて、そろそろ俺も次の仕上げねぇとな。ああ、忙しくて肩が凝るぜ」


 そして熊男も己の仕事をこなすために、肩を軽く回しながら羽ペンを手にした。




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