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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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初めてのお買い物


 働き続けて固くてあまり美味しくない安いパンが一つ買えるお金を手にすることができたシオウは、一度食事休憩の時間を貰い、稼いだお金を大事そうに握り締めながら、ご飯を買いに出かけた。

 初めての買い物で、お金の使い方とかよくわかっていないが、いつもお店を除き、お客さんが買い物をする姿を見ていたので、初めての買い物であってもあまり恐れてはいなかった。

 そして何より最初にお金を手に入れたらどこでパンを買うのかも決めていた。


「うぅ・・・人いっぱい」


 そこは10日に一度ゴミ捨て仕事を貰いに行く小料理屋であった。

 この小料理屋のパンはそこらのパン屋よりも柔らかくて美味しい。

 小さなお店であっても、その美味しいパンのおかげか繁盛していた。

 そして、そんな繁盛しているお店に貧民区の子供が無遠慮に寄り付くのは良くない噂が広がる原因になる。

 そう思い、シオウはただ遠くから眺めることしかできずにいた。


「パン・・・食べたいなぁ」


 遠くにいるにも関わらず、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 それ故、シオウはいつもの癖で臭いだけでもお腹いっぱい食べたつもりになろうと口をパクパクと動かしながら、涎をすすっていた。


「?・・・・・・しおう」


「う?・・・・あっ、シェミちゃん」


 不意に名を呼ばれ振り返ってみれば、柔らかなウェーブのかかった綺麗な金髪の女の子が荷物を抱えながら立っていた。

 シオウよりも頭一つ分くらい背の高い彼女ではあるが、彼女はシオウより年下である。

 まあ満足な食事がとれないシオウの身体が平均よりも小さいのは仕方がない。


 そして、シオウに声を掛けた彼女の名前はシェミ

 以前貧民区に迷い込んだ女の子で、シオウが家まで案内してあげた子であり、先程まで涎を垂らしながら眺めていた小料理屋の一人娘である。

 そんな経緯があったので、本来知り合いになることがないミラ達と知り合い、10日に一度のゴミ出しを受けられるようになったのだ。


「シェミちゃん。なにしてるの?」

「・・・おかいもの」


 シェミはこれだよと言うように小さな声で呟きながら、荷物を見せたのだが、不意に荷物が重かったせいかバランスを崩してしまい、そのまま前のめりに倒れそうになる。


「わわっ!」


 眉一つ動かさず、倒れそうなシェミをシオウは慌てて、荷物越しに支える。


「・・ありがと」

「ん~ん。いいよ。だけど、一人だと大変そう。手伝う?」

「あとちょっとだから大丈夫・・・それよりしおうは何してるの?」

「えっ、・・・えへへ、えっとねぇ~。今日はパン買いにきたんだ!」


 そう言いながら、シオウは小さな手で絶対無くさないようにと握っていたお金を自慢するように見せる。


「これどうしたの?」

「働いて稼いだんだ! ご飯食べたらまたいっぱい文字書いてお金貰うんだ!」

「もじ? しおう文字書けるの?」

「うん! 書けるよ!」

「すごい」

「えへへ~」


 僅かに目を見開き、本当に尊敬するような視線を向けるシェミ。

 本当に小さな変化だが、シオウはその変化に気付き、照れくさそうにしながらも、褒められたことが嬉しいのかニマニマと頬を緩ませた。


「じゃあ、ごはん食べてお仕事がんばらないと」

「うん! 頑張る! がんばる・・・けど」


 チラリとお店に視線を向け、言いずらそうに顔を顰めるシオウに何が言いたいのか理解したシェミは、ちょっと待っててと伝えると家に戻っていった。

 そして、すぐにバスケットを抱えてシオウの元へと戻ってくる。


「はい、パン」

「ありがとう! あれ、これって・・わ~!! これうまうまパン! これうまうまパンだよね! あっ、だけどお金足りない・・・」

「大丈夫。このうまうまパンは、ちょっと焼き過ぎてしっぱいしたパン。売れないうまうまパンだから私達が食べなきゃいけないパン。だからそれくらいで売っても大丈夫」

「そうなの? とっても美味しそうなのに・・」


 シェミの言う通り、バスケットに入っているパンの表面が真っ黒く焦げている。

 それくらいで売り物にならないなんてもったいないなぁと思いつつ、バスケットから漂う香ばしい匂いに、シオウは無意識に涎を啜る。


「パパが焼いたとっても美味しいうまうまパンは売れないけど、しっぱいうまうまパンなら売ってあげられる・・・いる?」

「いる!」


 固くてぼさぼさした安いパンしか買えないと思っていたのに、失敗したとはいえ柔らかくて美味しいうまうまパンが買えることに、シオウは迷わず握っていたお金をシェミに差し出す。

 そのお金をシェミは数えもせずにポケットに仕舞うと、バスケットのパンをシオウに渡す。

 両手でパンを大事そうに抱えながら、だらだらと涎を垂らすシオウ。


「私もお仕事がんばる。シオウも食べてお仕事がんばる」

「うん! ありがとうシェミちゃん! またね!」

「ん、またきて」


 小さく手を振った後、シェミは足早に家へと帰っていった。

 その姿を見送った後シオウは、その場でパンに齧り付く。

 焦げ付いている為、表面が少し苦くて、サクサクというよりパリパリしている部分があるが、中はフワフワでほのかな甘みを感じる。


 いつも食べているような、カビの生えたパンや、固くてパサパサしたパンじゃない。

 運が悪ければお腹が痛くなるようなパンじゃない。

 そんなご飯と比べ物にならないほどの美味しい物が今自分の口の中に入っている。


 シオウの目から自然と涙が流れた。


 「うまい」それ以外の言葉などでてこない。


 ただのパンであるが、シオウにとっては年に一度食べられるかというほどのご馳走。

 食べてもお腹が痛くなるのを心配しなくていい。

 安心したご飯を食べられることだけで幸福なのに、いつも食べている物と比べられないほど美味しいのだ。

 食事でここまで幸せを感じたことは本当に数えるほどしかない。


 美味しいものでお腹を満たせられる喜びに、シオウは思わず感極まり泣きだす。

 グスグスと鼻を鳴らしながら、必死に残りのパンを口に詰め込んでいった。

 表通りで人の目がある為、取られるなどと言った心配はしていないが、意地の悪い奴はどこにでもいる。


 貧民区の子供に絡み、面白半分でパンを踏みつぶす奴がいない訳ではない。

 故にシオウはできるだけ早く、パンを口に詰め込んでいった。

 誰にもこの幸せを奪われないように・・・。







「シオウ君にパンあげられてよかったわね」

「あげてない。売ったの」

「あら、それにしてはお金が足りないような気がするけど?」

「あれはしっぱいさくのパンだから、これでいいの」

「失敗作と言うより試作品かな? あれは貴方がお小遣いで作ったパンでしょ? やっとまともに焼けたパンだものね」

「だけどうれない。ダメなパン。だから仕方ないの」

「そうね。パパのパンより安くなっちゃうのは仕方ないわね。だけどもう少しお金貰ってもいいと思うんだけどなぁ~。それじゃあ材料費にしかならないし」

「いいの! 私のお小遣いでつくったんだもん!」

「そうね。貴方が作ったんだもんね・・・誰のために頑張って美味しいパンを作ろうとしたのかしらねぇ~。ふふふっ」

「むにぃ~、なでなでしないでよ~!」





 最後まで読んで頂きありがとうございます。


 感想や評価を受け付けておりますので、良かった点や悪かった点などを教えてもらえればと思います。


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