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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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熊男の視線


 報酬がかなり下がったことに不満を覚えながらも、貧民区に住んでいながらも仕事を与えられるだけ運がいいと考え、シオウは必死に割り振られた仕事をこなしていく。


 テストに使われた物と同じような羊皮紙に魔物の名や、必要素材、報奨金を何回も、何枚も書いていく。

 文字数は多くないが見本となる依頼書を一枚渡され、どのように書くか一度だけ教えられただけなので、初めは一枚書くのに20分近くかかったが、それでも一枚書き上げた。

 そして何度も書いて書き方を学べば後は慣れたモノで、最終的には一枚書くのに5分と掛からなくなっていた。


「なかなか、いい拾い物のようだな」


 真面目に仕事をこなしているシオウを見て熊男は満足げに頷く。


 自尊心だけが高い大人に教えるよりも素直で大人しい性格の子供に仕事を教える方が覚えは良く楽だ。


 写本のような仕事は力の無い女でも、老人でもこなせる仕事。

 必要なのはこちらの話を聞く従順さと丁寧さと根気強さ。

 雑で集中力がなく、反発する者には任せられない。

 その点を考えれば、子供であるシオウに集中力があるか甚だ疑問ではあったが、今のところ手を抜くことは無く真面目に字を書き続けているので問題ないだろう。

 ただ半日と様子を見ていないので長期採用するかはまだ決められないが、それでも今のところシオウは熊男に好印象を抱かせていた。


「・・後は手癖が悪くねぇかだな」


 ぼそりと呟きながら熊男は僅かに鋭い視線をシオウに向ける。


 貧民区に住む者は、総じて手癖が悪い。

 怪我や病気で働きたくても働けない状態だったり、色々と事情はあるのだろうが、それでも他人の金を盗むことを許すほどこの世の中甘くはない。


 皆日々の糧を得るために身を粉にして働いているのだ。

 その金を盗むことは、その者の命を奪うことと同じこと。

 窃盗は人殺しと同じく重罪であることはこの世界に生きる人であれば誰もが知っている事だ。

 それを知っていながら、人の物に手を出す者が多くいるのが貧民区の住民。

 金を盗まれてその後生活ができなくなり物乞いに落ちていった者も少なくない。

 子供と言えど、安易に警戒を解くなどできる訳もなかった。


「できた! あ、あの! で、できたよ」


 そんなことを考えていると、また一枚書き終えたシオウが確認して貰うために熊男に持っていく。


「間違いはないな・・・だが、文字の大きさが少し異なっているぞ。それと間隔も読みやすいように均等にするように心がけろ。更に言えば僅かに文字の角度が斜めになっている。本を書く仕事を任せて欲しいなら文字を丁寧に書くだけではなく、全体的に奇麗に見えるように書け」

「うぅ・・・・は~い」

「だが、先程よりも文字が綺麗だ。ちゃんと意識して書いていることは良い事だぞ。次も手を抜かず書けるなら同じような仕事を与えてやる。やるか?」

「うん! やる!」

「そうか、なら次はコイツだ。頑張んな」

「うん! 頑張る!」


 怒られながらも最後には己の努力を認められたシオウはフンスと鼻を鳴らしやる気を見せ、新たな仕事をこなすために元の場所へと戻っていった。

 悪意無く、悪巧みも考えていないような、純粋無垢な子供に見える。

 できることなら、この目に映る通りの子供であってほしいと願う熊男であった。





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