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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第四章 嫌われていても守りたいモノ
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珍しくはないけど世には珍しいスライムです


 ガタゴトガタゴトと荷車が揺れる。

 舗装などされていないためとても道が悪く、時々ガゴッ! と荷車が跳ねるほどだ。


『うぺっ!? もぉっ!! もっと丁寧に運んでよ! 眠れないじゃん!』


 そんな荒道を行く荷車の上になぜかシオウは乗っていた・・・というか、壺に押し込められて捕まっていた。

 陸地が見えてからゆらゆらのんびり漂っていたら、犬耳を生やした漁師さんに見つかってしまったのだ。

 そして、そのまま面白いクラゲを手に入れたとかいわれて捕まってしまった。

 うぅ、僕はクラゲじゃないのに・・・。


『まったく、よくこの状況で眠れるわね。神経が太いと言うかなんというか』

『だって逃げたくても逃げられないし、今クリッカーで遊んじゃダメなんでしょ? お姉ちゃんとお話したいけど、今はお話する時間を減らすのはマズイって言うから我慢してるんだよ? だったらもう寝るしかないんだもん!』

『それはそうだけど、普通はこの状況では眠れないと思うんだけどなぁ・・』


 今の状況はかなりマズイ。

 どれくらいマズイのかと言うと、ダンジョン以外では魔物という不思議生物は現れない設定になっているからだ。

 ダンジョン内じゃないと魔物は生きられない? みたいだよ?

 だから人の世界と魔物の世界がちゃんと組み分けされているとか何とか・・・要するに魔物はダンジョンの外に出てこられないのだ。

 魔物を外に持ち出そうとしても、ダンジョンの外に連れ出した瞬間、強制的に魔石になってしまうらしい。

 だから今の僕の姿を誰かに見られるのはとてもマズイ。

 下手したらダンジョンから魔物を連れ出す実験材料にされてしまうかもしれないから・・・・・とお姉ちゃんが言っていた。

 そうなんだ~としか思えないんだけど。


『それよりどこに連れていかれているのかなぁ? 怖い所じゃないといいなぁ~』

『そうね。変な所じゃないといいわね・・・・まあ、もし変な所であってもその時は頑張って逃げればいいだけよ』

『・・・逃げたけど捕まったんだけど』

『・・・そうだったわね』


 一度網から抜け出し逃走を謀ったが、残念なことにこのスライムボディはそこまで素早く動けない。

 ポヨポヨ跳ねるだけで、下手したら子供でも捕まえられてしまうほどだ。

 だからこの身体のままだとどうやっても逃げられない。


『どうにか人の身体を修復しないといけないわね。じゃないといつまでたっても逃げられないわ』

『うん、そうだね。その為にもご飯をいっぱい食べないといけないんだけど・・・・ご飯くれないよぉ~!』


 せっかく陸地に戻って来たのにこんなことってないよ。

 久しぶりに美味しいモノが食べられると思ったのにっ! と不満そうにしながらフルフルと身体を揺らす。

 まあ、ぴったり壺の中に入っているので本当に揺れているわけではないが。


ガタゴンッ!


『うだっ!? もう! だからもっと丁寧に運んでってば! びくっとするでしょ! まったくこっちの話全然聞いてくれないんだから!』

『それはそうよ。こっちの声は聞こえないんだから』

『うえ!? そうなの!?』

『そんなの当たり前でしょ。スライムは呼吸しない魔生物なのだから声を発する器官は存在しないわ。シオウだって今呼吸してないでしょ?』

『う?・・・・あっ、本当だ』


 結構その姿になる機会があったのに、やっぱり気付いていなかったのかと呆れるお姉さん。

 お姉さんが呆れるのがわかったのか、シオウは少し慌てながら弁解を始めた。


『で、でも! クリッカーの中のみんなはお話してたよ! いっぱいおしゃべりしてたよっ!』

『あれはフィクション・・・え~と・・・・・クリッカーの世界はそう言う感じの緩い世界なのよ。だからみんなお話しできるだけ。この世界のスライムはお話できないでしょ?』


 本当はクリッカーの世界は作り物だと言いたいが、今のシオウにそれを言うのは少々憚られる。

 シオウにとってクリッカーの世界は本当に生きているスライム達が住んでいるもう一つの世界と認識しているのだから。

 そして、日々を生きるスライム達の日常をいつでもみれて、いつでも知覚できることは心の安寧にもつながっていた。

 なのでお姉さんは傷付けないように誤魔化しながら説明したのだが、


『う? けど僕このクリッカーの世界のスライムなんでしょ? なのに何でお話しできないの?』

『だからあれよ・・・姿はクリッカーのスライムだけど、構造もクリッカーのスライムだけど、この世界の世界観を壊さないためにお話しできなくなっているというか・・・・まぁそんな感じよ』

『??・・・・・よくわかんない! なんでなの? だって僕クリッカーのスライムの姿なんだよ! 可笑しいよ!』

『だからそれは、この世界観を壊さないためよ。ほら、この世界のスライムってお話しできないでしょ?』

『会ったことないからわかんないよっ! あと世界かんってなに? なんでそれを壊しちゃいけないの?』

『だから・・・・・・・う~~ん』


 子供のなんで、なんで攻撃に頭を悩ますお姉さん。

 こうなると終わりが見えなくなる。

 いっそのことクリッカーの世界は作り物だと言いたくなるのも仕方がないことである。


『・・・・・・・いいからそういう設定ってことで納得しなさい。はい無駄話はおしまい! 何かあったとき話せなくなったらイヤだからこれでおしゃべり終わりよ! ばいばい!』


 結局面倒だと思ったお姉さんは無理やり話を切り上げて逃げることを選択した。


『うえ~! お姉ちゃんなんでお話終わるの~! ねぇ! ちゃんと教えてよ~!!』

『・・・・・・・・・・・』

『ねぇったら~! ねぇねぇねぇ~~~!!』

『・・・・・・・・・・・』

『ねぇぇぇぇぇ~~~~!!』

『・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・・むぅっ!!』


 何度も問いかけても反応しないお姉さん。

 完全にシカトしているお姉さんにシオウは頬を膨らませながら拗ねだした。

 そうすればいつものように、仕方なさそうにしながら話しかけてくれると思ったからだ。


『・・・・・・・・・・・』


 だが残念かな。

 そうして拗ねてみせても話しかけてくることはなかった。


『・・・むぅ・・・・・・むぅ・・・・・ぐすん』


 それが寂しくて少し悲しくなる。

 もしかしたら嫌われちゃったかもと考えるともっと悲しくなる。


『・・・・・この程度で泣かないの。シオウは強い男の子でしょ?』

『な、泣いてないもん! ちょっと目にゴミが入っただけだもん!』

『・・・・・・・・・・』


 スライムに目なんてないでしょと思いながら、それを口にする事はしない。


『私はシオウの事が大好きだからね。絶対嫌いになんてならないからね』


 ただ変わりにシオウが今欲している言葉を与える。


『・・・・ほんと?』

『そんなの確認するまでもないわよ。私はシオウの事が一番大好きで大事なんだから。だから少し話せなくなったくらいで泣かないの。わかった?』

『だから泣いてないもん!』

『はいはい、そうだったわね。じゃあまた何かあったら声をかけるからまたね』

『・・・うん』

『・・・ああもぅ、大好きだってばシオウ。ずっとずっと傍にいるからそんな寂しそうな声出さないの』

『寂しくなんかないもん・・・・・僕寝る! おやすみ!!』


 未だにお姉さんとお話しできなくなることに不満はあれども、これ以上我儘を言うのもダメだと思いシオウは無理やり眠ろうとした。

 先程まで寝ていたので全然眠気など無いが、それでも眠ろうと努力するのだった。


『ええ、おやすみなさい。大好きな私のシオウ』

『・・・・・・・・うん』




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