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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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運のいい人達の話


「シオウッ!!」


 組み付いて海に落ちていく姿に、シオウが何をするつもりなのか理解し止めようとしたアドットだが、その声が届くことはなく、シオウは騎士と共に海へと落ちていた。


「あのおバカッ!」


 誰にでもできるが、誰もやろうとは思わない戦法。

 海に引きずり込み、共に溺れ死ぬ。

 死を免れぬ兵士が取るような捨て身の戦法をシオウが行ったことをすぐにアドットは気付き、無理やりにでも連れ戻そうとするが、血を流し過ぎたのか、立ち上がろうとしても立つことができないでいた。

 海の上であるため鎧は着ていないのだが、それでも己の身体が鉛のように重く動けない。


「このデカ女を捕縛すればいいのか?」

「ああ、ザンザの旦那がそう言ってたからな。面倒だが、やらねぇと無意味に殺されちまう」

「き、貴様等・・・くっ」


 鎖を手に近づいてくる帝国兵にアドットは剣を持ち抵抗しようとするが、ザンザに何度も剣を突き立てられ傷付いた両腕は物を握る力さえなく、何もできないまま縄で拘束されていった。


「・・・・血止めくらいしておいた方がいいよな?」

「死なれて俺等が殺されるのも困るしな。ポーションでもぶっかけとけ」


 がっしりと鉄の錠を付けられ、身動き一つ取れなくなった後、手足の傷にポーションをかけられた。

 兵士が使用するポーションのおかげで血が即座に止まる。

 流石に傷が塞がることも痛みが引くこともないが、おかげで出血多量で死ぬことは無くなったが、アドットにとって状況は最悪であった。


 捕まった兵士が他国でどんな扱いをされるか、そして女である時点で何をされるかなど理解していた。

 身体がデカいぶん一般女性よりは需要は少ないだろうが、それでもあの騎士の口ぶりから己を求めている汚らしい奴がいることはわかっている。

 本当に最悪だ。

 だからどうにかして抜け出してコイツ等を殺さなければならない。

 幸い一番面倒な騎士はいなくなったのだ。

 シオウの死を無駄にはしない。

 そう思って必死にもがくアドットだが、残念なことに最悪はまだ続いていた。


ゴウンッ


 行き成り海が大きなうねりをあげ、それと同時に天高く水柱が打ちあがった。

 そして打ち上げられた水柱から一つの影が船に落ちてきた。

 落ちてきた一つの影は運悪く船の縁に腹や胸を強く打ち付けている。

 アレは絶対どこかしらの骨が折れただろう。


「ごふっ!・・・ゲホゲホゲホゲホッ!」


 ただ怪我をしても腹を叩きつけられたことはその男にとって運がよかったのだろう。

 胃の中にまで入っていた水を無理やり吐き出す結果になったのだから。


「ああクソ。やられたぜあのクソガキ。マジで死ぬとこだったぞ・・ゲホゲホッ!」


 打ち上げられた影の正体は先程シオウが海に引きずり込み溺れて倒したはずのザンザだった。


「お前・・・お前! なぜ死んで!!」


 シオウが命懸けで倒した相手が、無事だったことにアドットは声を荒げる。


「死んでたまるか。まだまだ遊びてぇんだからよ。つか・・あ~あ、やっぱりぶっ壊れちまったか」


 肩を落とすザンザの手には愛用の細剣に所々穴が開いていた。

 刃の中心や外側に、まるで虫食いにでもあったかのように楕円形の穴が所々に開いている。

 どうやったらそんな壊されかたをするのか。


「やはり剣で魔法を扱うのは難しいな」


 そう言うとザンザは愛用していた細剣をなんの躊躇もなく海に捨てた

 どうやら、意識が失う寸前に愛用していた細剣に全魔力を込め暴走させ、爆発を起こしたようだ。

 膨大な魔力を暴走させれば爆発が起こる。

 この世界での常識であり、故意的に爆発させないのもこの世界の常識なのだが、非常識な価値観が正常の帝国人にそれを求めてはいけない。

 そして、その爆発だがザンザは別に己が助かりたくて起こした訳ではない。

 敵であるシオウを、爆発でもって殺そうとしただけだ。

 己だけ死んでたまるかという執念からの行動であるのだが、まあ結果的にザンザは生きながらえることができたのだった。


「・・・しかし今回は俺の負けか・・・・ちくしょう、久しぶりに負けちまったぜ。しかも、格下に負けるなんてな」


 生きていれば負けではないと言う人もいるだろうが、ザンザにとっては敵の前で意識を失い、最後のあがきとして魔力暴走を起こした。

 しかも格下相手にだ。

 それはザンザにとっては負け以外の何物でもなかった。


「・・・・・・・・・・・・チッ」


 面白くなさそうに舌打ちすると、ザンザは傍にいた兵士から剣を奪い取り、捕らえられているアドットの元に向かう。

 そしてアドットに向かい剣を振り下ろした。


「ッツ!?・・・・・・??」


 だがアドットが剣に斬られることはなく、代わりに縄を斬られていた。


「・・・これは何のつもりかしら?」

「何のつもりもクソもあるか。俺との勝負にあのガキは勝った。ガキがどうなったかは知らねぇが、勝者には褒美を与えるもんだ。それがウチのやり方だ。つうことでお前を守ろうとした奴の願いを叶えてやる。今回だけは見逃してやるからさっさと失せな」

「ふざけるな! 誰がアンタ等帝国のクズ共の情けなんか受けガッ!?」


 アドットの反論は許さず、ザンザは海にアドットを蹴り飛ばした・


「これでいいだろ」


 大南原に放り捨てて何がいいのかわからないが、どうやらザンザにとって自らの手で殺さなければ良いと言う考えのようだ。


「さて、後は帰るだけだな。おいテメェ等! さっさと片付けねぇか! クソおせぇとテメェ等もぶち殺すぞ!」


 そう言うとザンザは予備の剣を取りにゆったりとした足取りで船内へと戻っていった。

 もしも戻ってくる間に本当に戦いが終わっていないようなら、その時は全員皆殺しにするかと物騒な事を思いながら。





「くっ・・・・まったく、情けない限りだよ」


 そして海に投げ出されたアドットだが、運よく大量に食料が積まれた変な丸木舟にしがみ付くことができ、溺れて死ぬようなことはなかったのだった。

 それは誰が作った丸木船かはわざわざ語るまでもないだろう。




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