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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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勝利を掴め


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 シオウは攻める事を止めない。

 拳を振るい、蹴りを放ち、体当たりをしていく。

 なんでもいいからザンザにダメージを負わせようと攻撃の手を緩めることはなかった。


「・・・ぬう」


 だが、何度殴りつけてもザンザは怯まない。

 殴っている感触はあるのだが、やはり魔装と言う技を使っているせいか、普通に殴ってもダメージを与えられないのかもしれない。


「逃げている間にまた強くなったじゃないか。力も速度も以前よりも上がっているぞ。お前本当に人族か? 亜人か獣人の血でも混ざってんじゃねぇのか?」

「僕は! 純粋な! 人族! だぁ! うにっ!?」


 シオウの攻撃がさほど効いていないせいか、余裕そうにザンザは話しながら、攻撃してくる。

 攻撃を受け流すなど器用な技術を持ち合わせていないシオウは、身体能力任せで無理やり回避を繰り返す。


「嘘ついてるようには見えないが、どうにも納得いかねぇな。まあいいか、流れる血の色だけはどの種族も変わらねぇしな」

「ぐっ!? がぅぐぅぅううっ!?」


 回避し損ねた細剣がシオウの肩に深々と刺さる。

 刺した後グリグリと嫌がらせの様にイジメてくるのは変わってない。

 ホントコイツのこういう所嫌い!

 他の騎士は思い切りやってくるだけで、ここまでしないのに!


「僅かに肉の感触も変わったな。筋肉が着いたと言うより、筋肉が成長したって感じだ。クククッ、しかも僅かにだが骨に魔力を纏っているな。なるほど、それで貫通しにくくなっているのか」

「意味わかんないこと言うな! こんの! いい加減痛いだろっ!」


 突き刺さった細剣を無理やり引き抜き蹴りを放つ。

 ザンザが衝撃で一歩下がる・・・が、やはりダメージは与えられず、お返しに蹴りをくらった。

 馬に蹴られた様な威力に悶絶しながら吹っ飛ぶ。


(力が・・・違い過ぎる)


 攻撃力・防御力・技術、そのどれもが劣っている。

 唯一優っているのは速さだけだが、


「ほら、次行くぞ」

「くっ、だりゃ!」

「相変わらず直線的すぎるな。もう少し駆け引きを覚えろ。素人が」

「げふっ!?」


 それも経験や技術で埋められてしまった。

 こっちの動きを読まれ、最小の動きで最高の結果出す。

 全てにおいて今のシオウがザンザに勝てる所などありはしなかった。


(また負ける・・・・・・・いやだぁ!)


 負ければまた酷い目に合わされる。

 痛い目に合う。

 絶対負けたくない。

 そう思い必死に抵抗するが、どうしても勝ち筋が見えない。

 勝ちたいのに、勝つために何をすればいいのかわからない。


「こんのっ! 潰れちゃえ! チンチン殴り!」

「そんなとこよりも、頭の方が殴りやすいぜ?」

「えっ? ぎっ!? ぐっ!? うがががっ!?」


 突き出した拳を払われ体勢を崩されると、顔面に拳が突き出された。

 一発目はシオウの勢いを利用されて殴られ。

 二発目は仰け反る態勢を床に叩きつけるように叩かれ。

 最後は床に叩きつけられると同時に何度も何度も殴られた。

 船の床が抜ける程に。


「くたばれクソ騎士」


 シオウが自力で抜け出すまで殴られ続けるのかと思ったが、そうではなかった。

 応急処置をすませたアドットが、無理に身体を動かし加勢に入る。

 一瞬とはいえ動きが止まった。

 その好機を生かすために、


「魔装!」


 アドットもザンザが使用している魔装を使う。

 一刀振る程度の時間しか使えないが、巨人族の怪力と魔装と言う未知の力。

 その力が合わさった力は普通の人族では発揮できないような爆発的な一撃を発揮することとなる。

 この一撃でもってザンザを殺す。

 そう思っていたのだが、


「殺気を消せ。アホが」


 そううまくはいかなかった。

 アドットが隙を探っていることなどザンザは気付いていた。

 そして気配を消して近づいていることも。


「ッッッッッ!?」


 首を飛ばそうと振るわれた剣は軽々と受け流され、何度も両手を突き刺され、殴り飛ばされる。

 わざわざ突き刺すのではなく腕を切り飛ばすこともできただろうに、そうしなかったのは斬るより突く方が好きだからだろう。


「ゴノッ!!」

「うおっ・・・はっ、流石だな。いい根性だ」


 殴られ無くなった瞬間、痛みをこらえてザンザを蹴り上げる。

 いつまでも人の上に乗っかるな!


「うぅ~! いた~い!!」


 幸い鼻は折れていないが鼻血がでている。

 ツーンとしてとっても痛いよ。


「素手での攻撃は苦手とはいえ、痛いですむとかやっぱりクソ頑丈だな。やっぱお前面白れぇや」

「ウゥッー!! うるせぇ! 絶対ぶっ飛ばしてやる!」


 獣のように威嚇し強気にでるが、それは虚勢でしかない。

 イヤでも理解させられる。

 ザンザと己の力の差に。


『くっそー! やっぱりコイツめちゃんこ強い! 全然こっちの攻撃効かないっ!!』

『シオウ落ち着きなさい。頭に血が上った状態ではどんな戦いにも勝てなくなるわよ』

『でも!』


 このまま放っておくと、また無謀にも真正面から突撃しそうなシオウに、お姉さんは待ったとかける。


『いいから落ち着きなさい。せっかくアイツを倒せる方法が思い浮かんだのにそれを聞かずに負けたいの?』

『うえっ!? ほんと!!』

『ええ本当よ。流石に殴って倒すことはできないけど、勝たせることはできるわ』

『それどういう事?』

『時間がないから詳しくは説明しないわ。ただ私の言うことを信じて動いてもらえる? 痛くて苦しいかも知れないけど、絶対にアイツを倒すことができるから』

『う?・・・・・信じればいいんだね? わかった! 痛くても苦しくてもなんでも来いだよ! それで勝てるなら安いもんだ!』


 よくわからないが、お姉ちゃんに考えがあるらしい。

 ならば信じよう!

 お姉ちゃんが信じろと言うなら疑うなんて絶対しないもんね! むんっ!!


「またヘンなポーズ取りやがって・・・・結構余裕そうだな」

「当たり前だ! 僕には秘策があるんだもんね! ザンザなんかけちょんけちょんにしてやるもんね~だ!」

『調子に乗らないの!』

『あう・・・ごめんなさい』


 そしてどうにかなるとわかると、すぐに調子に乗るシオウ。

 こういう所は子供らしいと言うか、なんというか。


「ほぉ、ならその秘策をさっさと見せてみろよ。でなけりゃ・・・・死んじまうかもしれねぇぜ?」


 勝てると言うならやってみろと言うようにザンザは笑みを浮かべながら襲い掛かる。

 先程よりも迫力が数段上なので、あの程度の子供だましの挑発に乗ってきたのかもしれない。


『攻撃よりも回避に集中! 相手の懐に潜り込む事だけを考えなさい! そこに勝機があるわ!』

『あいあいさ~っ!!』


 突っ込んでくるザンザを向かい打つべく、シオウも突っ込む。

 お姉さんの指示された通りに極力攻撃はせず、ただひたすら回避しながらザンザの懐に入ろうと足掻く。

 ただ言うは易しと言った所で、ザンザのような手練れの懐に入ることは至難であった。


「うぐぐぐぐっ!」

「おい! どうした! 避けてばかりいないでもっと手を出してこい! 逃げるのがお前の秘策なのかよっ!!」

『アホの挑発に乗せられちゃダメよ! ただ奴の懐を目指しなさい! シオウ! 貴方ならできるわよ! 頑張れっ!』

「ぐ、だああああああああっ!!」


 お姉さんの応援もあり、シオウは身体中切られながらも前に進み続けた。

 そして、


『入った! シオウ! 組みつけ! 逃がすなっ!』


 懐に入ったと同時に、そんな指示を受け、シオウは言われた通りにザンザに組み付いた。


「おっと・・・なんだ? 俺はガキにしがみ付かれて喜ぶ変態じゃねぇぞ?」

「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・『お姉ちゃん?』」


 ここからどうすればいいのだろう。

 このまま力いっぱい締め上げればいいのかな?


『シオウよくやったわ! 次は息を大きく吸いなさい!』

「う?・・すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

「何してんだおまえ?・・・・キメェな離れろクソガキ」


 ガスガスと頭を殴りつけてくるザンザを無視して、シオウは言われた通り息を吸い、


『息を止めて!』

「うっ!」

『そしたらそいつを持ち上げろっ!』

「ふんぐっ!」

「うおっ!? てめぇいい加減に!」

『そのまま一緒に海に落ちろーーーっ!!』

「う?・・うううーーーーっ!!」

「何を!?」


 指示されるがままにシオウは海へと落ちていった。

 ドボーンと水しぶきが上がる。


『絶対放すなっ! 海の底へ! そいつを海の底へ引きずり込んでやりなさい! それであなたの勝利よ!』


 ザンザを逃がさないようにしがみ付きながら、必死に足を動かし、海の底を目指した。


「ぐぼぼっ! ごぼぼぼぼっ!」

『魔力を纏う魔装を使いこなせるアンタは強いわ。けどね魔装は攻撃力・防御力をあげるだけ! 本質的に人の身体が強化される訳じゃないわ! 魔装なんて頑丈な武器と鎧を身に纏っているのと同じこと! だからアンタはシオウの早さに経験と技術で補った!』


 苦しそうにもがくザンザにお姉さんの声は届いていないだろうが、今までシオウをイジメてくれた鬱憤を晴らすようにお姉さんの怒りの声は止まることはない。


『純粋な身体能力の高さはシオウの方が遥かに上! 握力も! 肺活量も! あらゆる耐性も! シオウの方が上なのよ! ウチの可愛いシオウを舐めんじゃないよっ!!』


 どこかヤンキーが入ってそうな口調のお姉さんだが、まあそれだけシオウの事が大事なのだろう。

 そしてシオウも、そんなお姉さんの声を聞いているのだが、特に驚くことはなくただ必死に海の底へと向かって足を動かし続けた。


 ただ深く潜るだけ。

 たったそれだけのことではあるが、それだけのことが普通の人間にとっては絶望でしかないだろう。

 何の装備もなく裸一貫で深海に行くなど地獄でしかない。

 そして、ザンザはそんな状況から抜け出すために、しがみ付くシオウの背に刃を何度も突き立て始めた。


「がぼっ!?」

『シオウ歯を食いしばりなさい! 今堪えなければ勝機を逃すわよ!』

「もが・・・・・・・ンンンンンンッ!!」


 だがシオウは何度突き立てられても決して放すことはなく、海の底へ底へとザンザを連れて行った。

 海が血で赤く濁ろうとも・・・。


「ん、んんん・・・・・・・・がぼっ」


 そして海の底に着くころにはザンザは窒息し、身体から力が抜けた。

 あっけなくも、ザンザは冷たい海の底で息絶えたのだ。


『・・・・・・・・・・・・・・』

『よくやったわシオウ! 私達の勝ちよ!』

『・・う・・・・・・ん』

『シオウ?・・はっ!?』


 だが勝利を掴むために支払う代償はかなり高い物となった。

 お姉さんの言われた通り我慢して、我慢して、我慢し続けた結果、シオウの身体は穴だらけとなっていたのだ。

 その姿で良く生きていたものである。


『シオウ今すぐスライムに姿を変えなさい! そして治療するのよ!』

『・・・・・・・・・・』

『シオウ! 頑張りなさい! それで生きられる! その為の力なんだから!』

『・・・・う・・・・』


 背中をめった刺しに刺され続けたシオウは、朦朧とする意識の中何とかお姉さんの言う通りに青スライムに姿を変え、一命を取り止めることができた。

 そして攻撃を受け続けたことで精神的に疲労したのか、身体は痛くなくとも心が眠ることを要求し、そのまま抗うことなく海の底で眠りにつくのだった。


 果たしてこのありさまで勝利と言っていいのかわからないが、ひとまず格上であるザンザを倒すことができたのだ。

 ひとまずは勝利したと言うことにしよう。


ピキッ


 ただ次はどうなるかはわらないが。






 最後まで読んで頂きありがとうございます。


 感想や評価を受け付けておりますので、良かった点や悪かった点などがあれば教えてもらえればと思います。


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