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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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久しぶりのご対面


「アドットさん! アドットさん! 目を覚ましてよっ!」


 シオウは意識のないアドットを担ぎながら帆柱を登ると、帆にまたがりながら必死に呼びかける。

 だが、何度呼びかけてもアドットは目を覚まさない。

 ガクガク揺らしても目を覚まさない。


「アドットさん! アドットさん! むぅ~ダメだ起きない・・・あっ、そうだ! お水お水!」

『ちょっと待ちなさいシオウ。人の目があるのだから、安易に能力を見せてはいけないわ』

「そんな事よりアドットさん助けるの!」

『・・なら私がやるわ。魔法で作ったように見せるからシオウは手を出しちゃダメよ』

「わかった!」


 こうも強く言い張るシオウに強くでられるわけもなく、お姉さんは仕方なさそうに柔らかハンドの形を球体へと変え、アドットにぶつけ始めた。

 物を持つことすらできない脆い柔らかハンドは、人の身体に勢いよくぶつかるとバシャリと崩れては、元に戻ろうとする。

 元に戻る際人の手に生成されそうになるが、それもお姉さんが意識して操作しているおかげで人の手ではなく球体へと形を成すことができたのだった。

 お姉さんの言う通り遠目からならば水魔法を使っている様にしか見えないだろう。


「・・・・・・・・ん・・・・」

「アドットさん! アドットさん! 起きてっ!!」


 バシャン、バシャンと何度も水をぶっかけたおかげか、アドットは意識を取り戻し始めた。

 だから


「アドットさん! アドットさん!!」


 だからもう水をかける必要はなく、そんなに力いっぱい揺らさなくてもいいのだが、限度を知らないシオウは止めることはない。


「アドットさん! アドットさん! アドふきゅっ!?」

「ゲホゲホゲホゲホッ!!」


 そして意識を取り戻したアドットが一番初めにやったことは、シオウを止めるための拳骨だった。

 止めるなら口で言えと思うだろうが、今のシオウに口で言ってもなかなか止まる事は無かっただろうから、これが一番いい対応だったのかもしれない。

 まあ、怪我しているのでそれほど強く叩かれることはなかったが。


「何でブツのっ! いたっ・・・くはないけど、びっくりするじゃん!」

「溺れる程水をかけるのが悪いんでしょっ! って、貴方シオウじゃないの。何でここに?」

「何でって、アイツ等から逃げてきたから?」

「アイツ等・・・ああ、アイツって!? 高いっ!?」


 己が今どこに運ばれたのかわかっていなかったアドットは、シオウが指さす方を見て驚き思わず、帆柱にしがみ付く。

 まさか気絶している間にこんな足場の悪い所に連れて来られるとは思いもしないので、アドットの反応は当然と言えよう。

 別にアドットは高い所が苦手なわけではない。


「い、いつつ」


 手足が切られていると言うのに、驚きのせいで加減することなく柱にしがみ付いてしまった、アドットは苦痛を漏らす。

 シオウは心配そうに視線を向けるが生憎と薬草や包帯などの治療道具は持ち合わせていない。

 だって怪我なんて早々しないし、怪我をしても能力を使って治してしまうから。


「えっと、えっと・・・・あっ! 僕のお洋服包帯代わり?にはならないかな? えっと止血する為に使って! はいっ!」


 寒さをしのぐための大事な服だが、アドットの治療の為なら惜しくはないと思い、シオウは服を脱ごうとしたが、それはアドットに止められた。

 気遣いはありがたいが、流石に汚れた服を包帯代わりにすると逆にバイ菌が入って危ない。

 それに血止めの薬なら持っているし、簡単な回復魔法ならアドットも使える。


「おいおいおいおい! シオウ! いつまでもそんな所にいないで降りてこいよっ! 久しぶりに遊ぼうぜぇ!!」

「うえ~、何でザンザがいるんだ。お前嫌いだからあっち行けっ! あっかんべーーーーーっだ!!」


 下の方でザンザが爛々と細剣を手にしてマストを蹴飛ばしている。

 蹴られるとグラグラ揺れる気がするから蹴るのやめてよね!


「さっさと降りてこい! さっさと俺に刺させろ! ついでにどうやって奴隷の首輪から逃げたのかも教えろ! そして俺に刺させろ! 更に俺に刺させろ! 血を撒き散らかしながらそれでも俺に挑んで来い! そして俺に刺させろ!」


 どれだけ僕を刺したいのかわからないが、やっぱりアイツは嫌いだ。

 どう考えてもアイツおかしいもん。

 じょうちょう不安定?・・・だもん!


「誰がいくかばーーかっ! ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 だからザンザに近づきたくないシオウはアドットを飛び越え、帆柱を更に上ると帆柱に抱き付いた。

 そしてそのままマストをへし折る。


「うんしょっ! と、おとととととっ!?」

「クハハハハハッ! すげぇ! なんだそれ! どんな怪力してんだ! あのクソガキはよぉ!」


 折れたマストを担ぎ何とか担ぎ上げるとシオウの怪力にザンザは楽し気に笑い、アドットはあり得ない力に目が点となっていた。


「くらえ、こんにゃろーーーーーっ!」


 そしてシオウはへし折ったマストをザンザ目掛けて投げつけた。

 まあ投げつけたと言うより下に落としたと言った方が正しいのかもしれないが。


「へへん! ちょっと痛い目見せてやる! 頭にタンコブ作っちゃえ!」


 絶対タンコブではすまないのだが、どうやらシオウの常識ではその程度ですむと思っているようだ。

 恐らく昔ダンジョンでおもいっきり木々にぶつかったり、殴られたときの経験談から来る価値観だと思うが、少々・・いや、かなりおかしいと言わざる得ないだろう。


「魔力を纏ってねぇ時点で紙切れ同然だっての」

「うわっ!? なんだそれ!」


 まあ、そんなシオウの非常識よりも、もっと可笑しい非常識が目の前にいる訳だ。

 折れてしまいそうな細剣でザンザは投げつけられたマストをまるで鉋屑の様に薄く切り裂いていった。


「じゅる・・・・・はっ! 違う違う!」


 一瞬鰹節みたいで美味しそうとか思ってしまったシオウは頭を振る。


『シオウお腹空いてるの?』

「うん。だってご飯食べようかなぁって思ってたらアドットさん見つけちゃったんだもん。拾った果物も食べる暇なかったし・・」

『そう、ならさっさと逃げてご飯にしましょ? まだ今のシオウじゃあの騎士には勝てないんだし・・・・それと人がいるときはちゃんと心の中で会話するようにしなさいね』

「う?・・・・・『あいあいさ~! って逃げちゃだめだよ! 今逃げたらアドットさん酷い目にあっちゃうじゃん!』」

『だったら彼女だけシュシュシュ号に連れていけばいいじゃない。ほらこれで問題ないわ』

『う?? シュシュシュ号は僕一人しか乗れないって言ってなかった? 大人を乗せると沈んじゃうって?』

『・・・・・・・・・・・・・そう・・・ね』


 そう言えばここに来る前に、そんなこと言ったなとお姉さんは気まずそうに頷く。

 あの時は水死体の中で生存者を探させるのが嫌だったし、何よりよく知らない大人を船に乗せたくなくて嘘をついたのだが、まさかここでそれが裏目に出るとは思わなかった。

 あれは嘘だと素直に伝えればいいのだが、多分怒るだろうし嫌われるかもしれない。

 それはお姉さんにとって死活問題であるので、打ち明けることは無かった。


『じゃあ何とかアイツに勝たないとね! よーし! 頑張るぞーー!!』

『・・・・そうね・・・・頑張りますか』


 むんっ! といつものように無駄に胸を張り気合を入れる。

 そんなシオウに、お姉さんは乗り気になったシオウを止められないと考え、気持を切り替えると、何とかあの騎士に勝てるように全力でサポートしようと思考を巡らせた。


「降りてこねぇなら降ろしてやるか」


 お姉さんと話をしていると痺れを切らしたザンザは、シオウ達が上ったマストに向かって剣を振るいだした。


「う? なにしてぇぇぇぇっ!?」


 一振り。

 たった一振りでマストは斬られた。あの細い剣でどうやってと思うだろうが、それも魔装という力によるものなのだろう。


「く、化け物め」

「あっ! アドットさん!」


 帆柱を掴んでいたアドットであったが、怪我をしているせいかうまく体勢と立て直せず落ちていく。

 それを見てシオウは慌ててアドットの元へと飛び、ギリギリのところで抱える。

 着地する時物凄くビリビリしたが、ちょっと驚いた程度ですんだ。

 ただアドットには辛い衝撃だったのか苦痛の声を漏らしていた。


「あっ!? ごめんなさい! アドットさん痛かったよね・・えっとね、すぐにね、お医者さんの所にね、連れてくからね、えっとね・・・・大丈夫なんだよ?」


 何が大丈夫なのかシオウ自身わかっていないが、すぐに治療をしてくれるお医者さんを探そうと動き出す。


「無視するなってんだ。寂しいだろうがよぉっ!」

「ぬぅっ!?」


 だが、当然の如くシオウで試し斬りするのを楽しみにしていたザンザが見逃すわけもなかった。

 顔目掛けて突き出される剣を紙一重でかわし後ろへと逃げる。


「いたい・・むぅ」


 かわしたと思ったのだが、頬が切られていた。


「やめろよなザンザ! ほっぺた切られるとご飯食べるとき痛いんだからな!」

「斬られて怒る理由がそれって・・・お前つくづく面白れぇよな」


 あんまりな理由に流石のザンザも呆れる。

 そんな風に呆れている間にアドットを降ろす。

 流石にアドットを担いでザンザと戦うことなんてできない。

 ただ、降ろしたところでアドットを守りながら戦うことは変わらない。

 シェミを助けた時と同じようなシチュエーションであり、嫌でもあの時味わった痛みや恐怖を思い出してしまい、シオウは恐れを抱く。


『・・・・・怖い』


 痛みへの恐怖と、碌に抗えなかった恐怖。

 あのときシェミを助けられたことや、誰かを守れるほど強くなれたことへの喜びもあったが、それと同じくらい己の身に降りかかった不幸を思い出し、シオウの身体は知らず知らずのうちに恐怖ですくんでいた。

 トラウマと言う程ではないが、あの時ボロクソに負けた経験がシオウの足枷となりつつあった。


『このアドットと言う女兵士はただ守られるだけの人じゃないわ。治療だって自分でこなして、治療が済み次第この女兵士は戦いに参戦してくるわ。そんな強い人よ。だからあの時とは全然違うわ。戦おうとしている人は貴方だけじゃない。抗おうとしている人は貴方だけじゃない』

『お姉ちゃん・・・』


 そんなシオウの心情を見かねて、お姉さんが声をかける。


『それにあの時と違ってシオウの傍には私がいるわ。シオウの中には私がいるわ。私がいる限りシオウは絶対一人ぼっちになんてならないわ。怖い時も嬉しい時もどんな時でもシオウの傍にいるわ』

『・・・・・うん、お姉ちゃんがいるから僕は一人ぼっちじゃないね』

『そうよ。一人ぼっちじゃないわ。だから怖くないわよ。私が付いているんだから』

『こ、怖がってないやい!』

『そうね。シオウは強い子だもんね。怖がりじゃないわよね?』

『うん! 僕は強い! とっても強いんだっ!』

『そうね。そして私も強いわ。だから強い私達でアイツを倒すわよ!』

『あいあいさ~!』


 一緒にいてくれると、一人じゃないと何度も言ってくれたおかげで、何とか恐怖に飲まれることなくいつもの調子を取り戻したシオウは、鼻息荒く、むんっ! と意味もなく胸を張った。

 それをやる意味はわからないが、シオウなりにその無駄な行動をすると自信が付くのだろう。


『あっ、シオウ右に避けなさい! バカが来た!』

「う? うひゃぁぁぁぁっ!?」


 お姉ちゃんとおしゃべりしているとどうにもそっちに意識が向いてしまうのか、迫ってくるザンザに気付けなかった。

 お姉ちゃんが教えてくれなかったら今頃、身体に風穴があけられていたよ。


「もう! 危ないだろ! やるならやるってちゃんと言えよ!」

「なら言ってやるよ。殺してやるから抗ってみせろ!」

「言われなくてもお前なんかに殺されてたまるかー! いっぱい拳骨してやるっ!」


 そして襲い掛かってくるザンザにシオウは怯むことなく挑んだ。

 いつもの調子で傷を負いながらも、一歩も下がることなく、今できる己の全力を出すのだった。





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