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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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公国と帝国は戦争中


「一人で戦うな! 数の有利をいかし確実に一人づつ殺していくのだ!」


 指示に従い、公国の兵士達は一人の帝国の兵士に対して最低でも五人で挑む。

 帝国の兵士は強い。

 帝国では下級扱いの兵士であっても、公国では熟練兵士として扱われるほどに、兵士の質が違っていた。


 故に数で劣っている帝国であっても一方的に公国に負けることはなかった。

 帝国の兵が一人殺されれば、公国の兵は五人以上殺される。

 最下級扱いされている兵士でそれだけの数を殺して死んでいくのだ。

 それが普通に兵士扱いされている者ならばどれほどの手練れかわかるだろう。

 そして何より


「根性のねぇ奴等だな。少し手足を切られたくらいで戦意喪失するとはな」


 ここには帝国が騎士と認めたザンザがいた。

 帝国の騎士一人と相対する時は、最低でも小隊であたれ。

 そう言われているほどの手練れが。


「つまらねぇ。つまらねぇ。こうも弱いと欠伸が出てくるぜ」

「なら、寝てないさいっ!」


 そんな手練れに一人の兵士が挑む。

 今までの兵士よりも数段動きが早く、剣を振るう力も強い。

 何よりそれなりの場数を踏んでいるのか、動きに無駄がない。

 帝国でも中級兵士と認められるほどに強かった。


「ほぉ、公国にも暇潰しになるくらいの奴がいたか。しかもデカい女で頑丈そうだ。こりゃあ連れ帰ったらタングラの奴がよだれを垂らすほどだぜ」


 今騎士に襲い掛かった兵士はアドットという女兵士だ。

 巨人の血を少し受け継いでいるのか普通の男性よりも背も身体も大きく、身分による差別的意識も薄い。

 そして何より、仕事を押し付けられていたシオウに相応の対価を支払い、シオウが貧民から抜け出せる手助けをした女兵士であった。


「おい女、俺と来い。お前を賭けの景品にすればタングラとマジの殺し合いができるかもしれねぇからな」

「ゴミクズの景品なんて御免被るわ。勝手にゴミ同士で好きに殺し合ってなさい」

「いうねぇ~。気の強い女はますますタングラの好みだぜ。いいね、いいね~。マジで連れ帰ってアイツと楽しい殺し合いするための道具にしてやる」


 相変わらず理解できない帝国人の思考。

 殺し合いを何かのスポーツと考えており、人の命も己の命も軽く見ている。

 全く持って狂人共の思考は理解できない。


「ぐっ! おうらっ!」

「おぉ~強い強い。女にしてはなかなかに強い」


 力強く剣を振るい的確に急所を切り裂こうとする。

 だが当たらない。

 何度もフェイントを交えても、近くの兵士が襲い掛かる隙を狙っても、全ての攻撃が見切られていた。

 何より。


「ほら、次の武器を用意しろよ。待っててやるから」


 数回打ち合うだけで剣が折れる。

 相手は今にも折れてしまいそうな細剣を使い、こっちは頑丈で分厚い剣を使っていると言うのに。


(武器にまで魔力を纏わせることができる魔装の使い手とは・・・・つくづく帝国の騎士は気に食わないわ)


 アドットは死体から数本剣を奪い、襲い掛かる。


「それだけの力がありながら! なんで人攫いなんてしてんのよ! 子を攫われた親の気持ちがわからないの!」

「あ~、そういやそんな理由で戦争吹っ掛けて来たんだっけか。たかがガキの千や二千攫ったからってなんだってだ。テメェ等女がまた産めばいいだけだろ」

「ざけんじゃないわっ!」


 帝国との戦争は民達からの強い要望。

 子を奪われた親達の怒りと悲しみが起こした戦争であった。


 故にこの船には正式な兵士だけではなく、子を奪われた親達も民兵として参戦していた。

 徴兵せずとも己の子を奪い返すために、意味もなく焼かれ、殺された友の仇を取らんがために、恨みと憎しみでもって公国の市民達が動いたのだ。


「怒る理由がわからねぇな。そもそも奪われたくないなら奪われないようにすればいいだけのことだろ。そんなに大事なら守れるように強くなれ、たったそれだけの事もできないなら死ね。それだけの事だろ」

「そんな事がまかり通ると思うな! クソッタレの非常識を振りかざしたいなら帝国内だけでやってろ! わたし達の国に持ち込んでくるなっ!」

「だったら安心しろ。戦争が始まった時点で公国はぶっ潰して、帝国の下僕にしてやる。そうすりゃ俺等の非常識が常識になるぜ。血筋だ身分だに囚われた面白くもない公国ではなく、力ありし者が上に立つ正常な帝国にしてやる」

「お断りよ!」


 拾った剣はすでに折られているが、アドットはそれでも攻める。

 不慣れな槍でも、木の板でも、帝国兵の死体でもなんでも使って戦い続けた。

 だが戦いを続けられたのは


「ふむ、もういいか」


 ザンザがアドットとの戦いに飽きるまでのことであった。

 決して早くはない動きであるが、それでも面白いくらいにアドットの身体を傷付けていく。

 己の意志に反して自ら刃に向かって動くように。


「か・・・はっ」


 立っていられないほど、剣が握れないほどに手足を切りつけられ、最後に思い切り腹に膝蹴りをくらいアドットは力無く床に転がり意識を失った。


「おい、コイツを捕まえておけ」

「はっ!」


 そう近くの兵士に命じた。

 これでタングラとマジの殺し合いができる。

 アイツが欲しいモノを手に入れたのだ。久しぶりに血がたぎるほどの殺し合いができる。

 そう思うとザンザは嬉しさのあまり笑みをこぼし、これほどの幸運が訪れたことにクソッタレの神にでさえ感謝しそうなほどだ。

 だが、その感謝はアドットを捕えられたことでは無く、ある者と再び出会えたことに感謝することになる。


「このバカッ! アドットさんを離せっ!」


 行き成り現れた乱入者にアドットを捕えようとしていた兵士は殴り飛ばされ、アドットは奪われた。

 獲物を横からかっさらわれて普通なら怒る所だが、


「く、クハハハハッ! なんだなんだ! 今日は何ていい日だ! あばずれ女神が俺にケツでも振ってるかのようだぜっ!」


 現れた乱入者がザンザにとってアドット並みに楽しめそうな相手だったため、怒るどころか更に笑みを深めることとなった。


「いいねぇ。今日は良い日だ。クソ面白くもねぇ公国の相手かと思えばお前が現れるとはなぁ。なぁ~シオウよぉ~!!」





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