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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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波が運んで来たのはイヤなモノ


 ひたすら両親と過ごした港町へと向かって南西へと船を進めた。

 何日も何日も進めて進めて、そして進んでいる途中で色々と嫌な物を目にする事となった。


「・・・・お姉ちゃん・・・これ」

『・・・ええ』


 波は色々なゴミを運んでくる。

 腐りかけた木の板だったりボロボロになった水袋だったりと、色々なゴミを波が運んでくるのだ。


 まあ中には海藻とかの美味しく頂けるゴミもあるので一概に、使えないモノばかりを運んでくるわけではない。

 そして今回はそんな使えるゴミを波が大量に運んで来てくれた。

 腐っておらず頑丈で水に浮かぶ木の板や真新しい樽をいくつも運んで来てくれたのだ。

 樽の中にはお酒や食料が入っているそんなお宝を。


「・・・・・・・・・」


 お酒はともかく食料が手に入ったのは嬉しい。

 果物とか食べ尽くしてしまい、ここ数日甘味を味わえる機会がなく、ずっと塩辛いお魚ばかりを食べているのだ。

 だからとても嬉しい。

 とっても嬉しい・・・事なのだが、シオウは手放しに喜ぶことはできなかった。


 果物が入っている樽を船に縛り付けた後、シオウはある木の板に向かって船を進める。


「・・・・・・・・・・・」

『・・・どう?』

「・・・ダメ、死んでる」

『やっぱりそっか』


 浮かぶ木の上には男の人が溺れないように木にしがみ付いていたようだが、その男の人はすでに息絶えていた。

 あちこち怪我をしている所を見るにその怪我が原因で血を失い死んだのだろう。


「・・・なでなで」


 シオウは死んでしまった男の人の頭を撫でて手を合わせると、そっと海に返した。

 腐敗して変な匂いを発していたが、その男の人には見覚えがあった。

 別に親しいわけでもなく、逆に嫌いな分類に入る人だ。

 だが、死んでしまったのなら優しくしてあげるべき、そう思っての行動である。

 できれば土に埋めてあげたいところだが、ここではそれも出来ないので諦めるほかない。


『知り合い?』

「うん・・・・前にね。兵士さんの雑用係のお仕事貰った時にね。僕に嫌がらせしてきた人。貧民育ちだってバカにして色々お仕事押し付けてきた人だよ」

『・・・・ふ~ん』


 シオウの言葉に、お姉さんは少し不機嫌そうになるが、嫌がらせしていた者はすでに死んでいるので、とくに何か言うことは無かった。


『ならそこらに浮かんでいる死体は港町の人達ってことでいいのかしら?』

「そうだと思うけど・・・あの港町にこんなに兵士はいなかったと思う。それにあの紋章って帝国のじゃない?」

『あらほんと。と言うことは帝国とシオウの街の兵士達が戦っているということでいいのかしら』

「多分そうだと思う」


 プカプカと浮かぶ人の死体。

 波が運んで来たのは有用なゴミだけではなく、できれば関わり合いになりたくない水死体を運んできていた。


『・・・これだと生きている人はいなそうね。衛生的にちょっとアレな場所だしさっさと行きましょ』

「けど・・・生きている人がいるかも」

『これほどの死体から生きている人を探すのは無理よ。それに助けられたとしてもこの船には大人を乗せる余裕はないわ。これはシオウが乗れるだけの船で、おとなが乗ったら沈んじゃうもの』

「そうなの?」

『ええ、そうよ』


 言い切るお姉さんだが、この船はそんな軟ではない。

 恐らく大人が後五人は乗っても沈むことはないだろう。

 だが、お姉さんからしたらシオウに意地悪をする街の住民に、無意味に襲い掛かってくる帝国の兵士。そんな奴等を助ける道理も義理もないと思っているのだ。


 因果応報。

 お姉さんからしたら、他人に優しくせず、人を蔑み、貶している者に手を差し伸べて貰えるなどと思うなと言う所だろう。

 何よりお姉さんにとって大事なシオウに危険や面倒が舞い込む事を良しとはしなかった。

 だからお姉さんはシオウに嘘をついたのだろう。


「じゃあ、仕方ないか・・・・・ごめんね」


 そしてお姉さんの言葉を疑うことなく受け入れたシオウは、一度浮かぶ死体に頭を下げると、食料が詰まった樽を回収しながらその場を後にした。




『ねえシオウ。港町に帰るのは一旦やめにしない?』

「う?? 帰るのダメってこと?」

『ダメと言う訳じゃないけれど、どう考えても今は帝国とシオウの港町の国が戦争している最中の様だし、そんなときに帰っても碌な目に合わないから一旦他の国でほとぼりが冷めるまで避難しておかないかって提案よ』


 海に浮かぶ水死体を見て、どう考えても今帰るべきではない。

 そう思っての提案なのだが、シオウはイヤそうに首を横に振る。


「ヤダよ。僕は絶対ママとパパがいたあそこに帰るよ」

『そうは言うけど、戦争なんてやってるところに行って危険な目に合ったら・・』

「ヤダ! 僕はあそこに帰るの! ママもパパが眠るあそこに帰るの!」


 あの町が好きと言う訳ではないが、それでもシオウにとっては両親と過ごした思い入れが強い場所だ。

 わざわざ遠回りをして帰らないという選択はない。


『別に二度と帰らないと言っている訳じゃないのよ? 時間をおいてからでもいいんじゃないかなって言っているの』

「ヤダッ! だって戦争っていろんなのが無くなっちゃうんでしょ? 僕が作ったママとパパのお墓だって無くなっちゃうかもしれないもん! そんなのヤダもん!」

『お墓は確かに大事よ。けどね。そんな危ない所に行って、もしもシオウが死んじゃったらどうするの? それこそシオウのママもパパも悲しむと思うわよ?』

「それは・・・そうかもしれないけど・・・けど、あの街にはね。ママとパパのお墓以外にもシェミちゃん達がいるんだよ? 優しくしてくれるミラさんも、美味しいパンをくれるユクランさんもいるんだよ? 兵士のアドットさんだって僕にお洋服とこん棒くれたし、ま、魔法書店? の熊さんも僕にお仕事をくれたんだよ? その人達を放って逃げたくないよ・・・」


 それを言われると、お姉さんは何も言えなかった。

 貧民と言う身分で差別されていた時期に優しくしてくれた人達はシオウにとって特別だ。

 その人達を見捨てることなどできる訳無い。


『・・・・・・・』


 ただ、お姉さんにとってはそんな人達なんてどうでもいいじゃないと言いたかった。

 優しくしてはくれたが結局は助けてはくれなかった人達、助けようと動いてくれなかった人達だ。

 幼子が一人貧民区で隠れながら必死に生きていると知っていながら、放置した人達などはっきり言って助ける価値なしと思っていた。


『・・仕方がないわね。ならさっさと向かいましょうか。それと、少しでも生存確率をあげるためにクリッカーのステージをあげておきなさいね。今までは海の上で不安定だし、無駄な体力を使わせたくなくてあまりやらせなかったけど、今からひと漕ぎワンタッチしなさい』

「ひとこぎわんたっち?」

『一回漕いだら、一度スライムを突きなさいってことよ。わかった?』

「え~! それじゃあいつまでもたどり着かないよ!?」

『それくらいなら今のシオウの身体能力ならできるわよ。ほら頑張って』

「むぅ~・・・・わかった」


 ただそれを馬鹿正直に伝えることなどできる訳もなく、できるだけ街に着く速度を落とす手段を命じるのだった。

 不満そうにするシオウだが、結局はお姉さんに言われた通り船を漕ぎながら南西へと進んでいった。

 そして・・・・


「お姉ちゃん・・・あれ・・・」

『ええ・・・・・・・・・まさかまだ戦っているとは思わなかったわ』


 少しずつ進んだ先には帝国の紋章が入った船と、帝国の紋章が入っていない船が争っているのを見つけることになった。





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