転職したら怒られた
シオウは南西に向かってひたすら船を漕ぐ。
自分が生まれ育った場所にたどり着くために必死に漕いで、漕いで、漕ぎ続けた。
漕いで、漕いで、漕いで、漕いで、漕ぎ続けて・・・・休憩中に空を見上げてふと思った。
何かが足りないと、僕は何か大切な物を忘れていると、そう思った。
「なんだろう・・・何か忘れてるような」
『どうしたのシオウ?』
「・・うん・・・わからないけどね。ほら見て、何かが足りないの。ここに何かが足りないの」
そう言いながらシオウは自分が見上げる空に手を伸ばし、何かが足りないと必死にお姉さんに伝える。
だが、その何かを伝えられないのでお姉さんも何が言いたいのかわからず首を傾げていた。
「あれがないの! あれなの! あれ! あれっ! あれ! あれっ!! あ・・・・あっ! そうだよ! あれが足りなかったんだ!!」
思い出したくても思い出せないと歯がゆく感じていたが、何が足りないのか思い出し、シオウはすぐそれを作るために動き出す。
まずは準備体操をした後に、お魚取りだ。
できるだけ大きなお魚がいい。
そしてお魚を取り終えたら、お魚の血を集めていく。
その段階でお姉さんが止めに入るが、必要な事だからと強気で言い張るシオウに何も言えず、仕方なく押し黙り様子を見ることにした。
そして集められたお魚の血を使い、布団代わりにしていた獣の毛皮の裏地に何やら絵を描き、それをオールに括りつけると天高く掲げだした。
シオウがいったい何を作っていたのか。
勘のいい人ならばわかるだろう。
「できたー! 僕の海賊旗!」
そうシオウが作っていたのは己の海賊旗。
海と言えば海賊旗。
海の上で一番かっちょええのは海賊旗なのだ。
訂正しておくがシオウは海賊がカッコイイと思っているのではなく、海賊旗がカッコイイと思っているだけである。
あれだね。闇属性がかっこよくて好きだけど、正義の闇属性がイイみたいな感じだ。
「むふふ~ん! これでお船がもっとカッコよくなったもんね! それに今日から僕はキャプテンシオウだもんね! むふふふふ~ん!」
バタバタと揺れる海賊旗。
ドクロポイ絵が描かれ、周りにお肉やお魚、果物の絵が描かれたなんとも可愛らしい海賊旗。
ドクロもなんだかニッコリ笑顔で全く怖くないが、まあ欲望が忠実に再現されているシオウらしい海賊旗と言えなくないだろう。
ただし、
『・・・シオウ』
「う~? 違うよお姉ちゃん! 僕はキャプテンシオウだよ!」
『この・・オバカーーーッ!』
「うひゃぁっ!?」
そんなモノを大事にしない行動に怒らないお姉さんでは無かった。
「な、なんでお姉ちゃん怒ってるの!?」
『なんでもじゃないわよ! なんで大事な毛皮にイタズラするの!』
「イタズラじゃないよ! これは海賊旗なのっ!」
『海賊旗じゃない! これは少しでも寒さをしのぐための大事な防寒具でしょ! それをあんな風に雑に扱って!』
「だ、だって、良い感じの旗になれるのがこれしかなかったんだもん・・」
『だもんじゃない! まったく! こんな風に物を大切にしない子は悪い子ですよ!』
「悪い子じゃないもん! イタズラでもないもん!」
『言い訳しないの! あれはシオウの大事な身体を守るためのモノでしょ? 寒い中少しでも暖かくするための大事なお洋服でしょ? それをお絵描きに使って汚してもいいんですか?』
「うぅ~~~・・・・・・よくないです」
『そうね。良くない事ね。あれは寒い時や強い日差しから守ってくれる大事なモノよね。ならああいう風に使っちゃダメよね。ただでさえボロボロなんだから大切に使ってあげないといけないわよね?』
「・・・・・うん」
『うん、じゃないわよシオウ。悪いことしちゃったらなんて言うの?』
「・・・ごめんなさい」
『はい、許します』
初めてお姉さんに叱られてしまい、シオウは少し泣きそうだ。
怒られることはあったが、ここまでしっかり怒られたのは初めてのことだ。
まあ、お姉さんが怒るのも仕方がない。
ここは海の上。
寒いからと言って火を焚けるわけでも、雨が降ったからと言ってしっかり雨宿りできる場所がある訳でもない。
そして必要な物を森で探して得ることもできない海の上なのだ。
今ある物を大事にしなければいけない。
毛皮一枚程度で死に直結するとは思えないが、だからと言って物を大切にしないと言う結論に至る訳もない。
だからお姉さんは今回少し本気で怒ったのだろう。
『ほら、もう怒ってないから泣かなくていいのよ。ちょっと最近楽しいからふざけすぎちゃっただけなんでしょ?』
「う~うぅぅ~」
『はいはい、少し横になってお昼寝しなさい。頭撫でて上げるから』
「うぅぅ~、ほっぺスリスリも!」
『はいはい、わかったから』
まあ、怒った後は物凄く甘やかすので、それでちゃん反省するかは微妙な所だが。




