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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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危険の後はまったり遊ぼう


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

『シオウ頑張りなさい! 頑張って漕いで!!』


 あれからお姉さんが操る柔らかハンドに甘えながらゴロゴロしていたシオウだが、今はそんなまったりと過ごしてはいられない状況に陥っていた。


 必死に船を漕ぐシオウ、その背後には人生で初めて見るとても大きな渦が広がっていた。

 船が大渦の波に乗り、一気に引き寄せられる。

 波に乗ってしまった時点で、普通ならばそこで終わるものだが、幸いシオウのバカ力のおかげで大渦に引きずり込まれることは無かった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 全然前に進まないよーーーっ!」


 ただまあ、ほんの僅かにシオウの漕ぐ力が優っているだけで、中々抜け出せずにいるが。


『安心してシオウ! 少しずつだけどちゃんと前に進んでるわ! このまま頑張り続ければいつか抜け出せるわよ!』

「いつかって、いつまでーーっ!!」

『それは!・・・・・とにかく頑張るのよ』


 スズメの涙もいいほどの拮抗ぐあい。

 なのでお姉さんも明確にどれくらいで抜け出せるかわからなかった。


「うえぇぇぇ! お姉ちゃんが誤魔化した~! もうヤダーッ! 疲れたよ~!」


 シオウの体力的にもまだまだいけると思うが、流石に見知らぬ場所で一夜過ごしたストレスと、なんだかんだ寝不足であった為、八歳児の精神では少々辛いものがあった。


『しょうがないでしょ! わからないんだから! それよりここから抜け出せたらご褒美上げるから頑張りなさい! そうね。私にできる事なら何でも聞いてあげるわよ!』

「うえ!? ご褒美! な、なんでも!?」


 そしてそんなシオウの精神状態を知ってか、お姉さんはすぐにシオウのやる気を起こさせるために餌を用意する。


『そうよ! 何でもお願い聞いてあげるわよ!』


 普通なんでもお願いを聞くなど、色々問題がありそうな条件を口にするべきではないのだが、


「じゃ、じゃあお姉ちゃんと遊びたい! そのお手手でね。一緒にジャンケンとかして遊びたい!」


 対象が子供であるので問題ないだろう。

 更に言えば少々可哀想な子供の我儘などたかが知れている。


『それくらいどんと来いよ。ここを無事抜け出せたらいくらでも遊んであげるわ。だから頑張ってここを抜け出すわよ!』

「あいあいさ~!!」


 たかがジャンケンをしたいがためにシオウは必死になるが、よくよく考えてみればこの子はそのジャンケンをする友達もいなければ、遊べる環境でもなかった。

 遊びと言うのに飢えているのもあるが、誰かと遊ぶと言うのにも相当飢えているのだろう。







「二本だから三本! うや!? お姉ちゃん早いよ! そんなに早く指の数減らしたり増やしたりしないで!」


 無事大渦の波から抜け出したシオウは早速お姉ちゃんと色々なジャンケンで遊ぶ。

 今は親が出した指の数と合わせて五本になる遊び、五出しジャンケンと言うので遊んでいた。

 他にも、相手に負けた方が勝ちと言う大阪ジャンケンや、わざわざ海の中に入ってジャンケンをしたりして遊んだ。


 今更ながら、柔らかハンドは水中でならそれなりに形を保っていられるようで、ちょこっと手の形を変えても崩れないようだ。

 身体のほとんどが水出てきているからなのかな?


『甘いわよシオウ。巷ではこれくらい素早くできて当然なのよ。これくらいのスピードについて来れないと、私以外の人と勝負する時に負けてしまうわよ。全敗してしまうわよ』

「えぇ!? みんなこんな早くできるの!?」


 どうやらお姉さんは遊びと称してシオウの脳の回転を少しでも高めよと無理難題を吹っかけているようだ。

 年相応以上に計算はできるシオウだが、それでもお姉さんからしたら遅い。

 ちゃんと計算できるが、一本指をだしたら即座に四本だすと言うのを考えるのではなく、当たり前のように身体が動き、当たり前のように認識してもらいたいようだ。

 それくらいできてもらわなければダメだと考えている為、


シャシャシャシャシャシャシャシャッ!


 残像ができる程に指を動かし続けていた。

 うん、その動きを見るだけでも難しいと思うんだがな・・。


『そうよ。これが普通なのよ。だから素早く見て、素早く計算して、素早く答えを導きだしなさい。ジャンケンという遊びはとても奥が深く、そしてとてもレベルの高い極意の遊びなのよ』


 シオウの性格を知ってか、食指が動きそうな言葉を並べて煽り出した。


「ご、ごくいの遊び!? な、なんか、カッコイイ!」


 案の定、無駄にカッコいい言葉だけに引かれて、言われるがままに動き出す。


『そうよ。ジャンケンの遊びと言うのは極意の遊び。どこかのハンターさんもジャンケンを武器に数多の強敵を屠って来たのよ。それだけジャンケンという遊びは奥が深いの』

「しゅ、しゅごい」


 いったいお姉さんは何を言っているのか理解に苦しむし、お姉さんの言っていることを半分も理解できていないシオウだが、なんか凄い事を言っているのはわかる。

 決してお姉さんが凄い風に話しているので、その空気に飲まれている訳ではない・・・と思いたい。


『わかったなら行くわよ。頭をフル回転させながら素早く答えを出しなさい!』

「あいあいあっ!? お姉ちゃん早い早い! まだ始めていいよっていってない!」

『ほらほら、そんなこと言ってるうちにどんどん私が勝っちゃうわよ』

「ああ、ああああ! 二! 三! 一! 五!」


 そしてお姉さんの思惑通りシオウは高速で動きだす指を見つめては問題に答えていくのだった。

 もはや遊びではなく勉強になりつつあるのだが、まあ本人はなんだかんだと楽しそうなので問題ないだろう。


「一! 四! 一! 二! 五! 四! 三! 二! 一! ZERO!」

『・・・・シオウ。ZEROじゃなくてゼロって言ってみて?』

「う?・・・ゼロ?」

『ええそうよ・・はい、これは?』

「ZERO!」

『・・・・・・・何でゼロだけそんな発音良いのかしら』


 そして遊んでいくうちにシオウの新たな一面を見つけることになり、嬉しいやら悲しいやらなんとも言えないお姉さんなのであった。




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