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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第一章 能力がその子を変えるまで
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初めての羊皮紙


 立札を読んだ次の日、シオウは恐る恐るギルドの隣にあると本屋を伺っていた。

 できるだけ不審に思われないように、そして邪魔ならないように道の端っこで店を眺める。


 先程から数人の男達が出入りしては、戻って来なかったり、なぜか怒って出て来たり、怒鳴り声と共に叩きだされたり、飛びかう凶器と共に叩きだされたり、気絶したまま放りだされたり色々な事が起きていて怖い。

 酷い時には魔法みたいなもので吹き飛ばされたり、火の玉に追いかけられたりして追い出されているので、伺っているだけでもシオウはビクビクと怯えていた。


「やっぱりやめようかな・・・」


 前向きと言う訳ではないが、興味があった為、一度くらい仕事をしてみてもいいかなと考えていたシオウだが、半日近く店から追い出される大人達と、その追い出され方を見て怖い人がいるのだと思い、逃げ腰であった。

 それ故に、徐々に店との距離が開いていったのは必然と言えよう。


「おいお前、さっきからウチになんか用か?」

「ひぐっ!? え、だ、だれ?」


 行き成り後ろから声をかけられ振り返ると、いつの間にか片目が潰れた赤い毛の熊獣人の男が立っていた。

 全身の毛が真っ赤な炎のように赤く揺らいでいる。


「お前はウチの店になんか用かって聞いてんだ。まさか俺の店で盗みでも働こうってのか?」


 ギロリと眼力だけで人を殺してしまうほどの睨みをきかせながら問いかけてくる熊男に、シオウはブンブンと首を振り否定する。


「ち、ちがうよ! ぼ、ぼく、文字書けばお金くれるって書いてあったから見てただけだよ!!」

「ほう、書いてあったか・・・それは本当か?」

「ほ、ほんとだよ! 一枚書けば50シルバーくれるんでしょ! 四枚書けば美味しいパンと交換して貰えるし、一冊書けば100,000シルバー貰えるから、一杯ご飯食べられるよ! だから・・えっと・・・それだけだよ」

「ほほう、なるほどな」


 シオウの言葉を信じたのか、信じてないのかわからないが、熊男はシオウを無遠慮に観察する。

 鋭い眼光でジロジロと睨まれ続けるシオウはまるで蛇に睨まれた蛙のように身動き一つ取れず、冷汗を流す。


「なら、テストしてやる。ついてきな」


 ついてこいと言いつつ、シオウの腕を掴み無理やり店まで引きずる。

 掴まれた腕を振り払うこともできず、シオウは怯えながらも抵抗することはなく店へと入った。

 そして、店の奥まで引きずられていくと、一つの机に無理やり座らされた。

 机の上には羊皮紙と羽ペンなどが置かれている。


「今から俺が言う言葉を書いていけ。それができりゃあ仕事をくれてやる」

「・・・・こ、これ、なに?」


 いままで地面に文字を書くことしかしてこなかったシオウ。

 羊皮紙や羽ペンなどに触れる機会などなく、初めて見る道具に首を傾げていた。


「羊皮紙とペンだろ。まさか上等な紙を使わせてもらえるとでも思ったのか?」

「う? かみってなに?」

「・・おい、マジで言ってんのか?」

「う?・・・う、うん」


 羊皮紙をツンツンとつついたりして、感触を確かめつつ怯えながらわからないと言わんばかりに首を傾げるシオウに、熊男は疑わしそうな視線を向ける。


「・・・・字は書けるんだよな」

「い、いつも地面に書いて練習してたよ」

「・・・地面ねぇ・・まあ、貧民区の子供なら仕方ねぇか。いいか、それはこうやって使え」


 ガシガシと頭を掻きながら、熊男は仕方が無さそうにシオウに羽ペンにインクの付け方を教え、羊皮紙にさらさらと文字を書き始めた。

 たったそれだけの事にも関わらず、シオウは初めて見る光景に感動を覚え、目を輝かせる。


「使い方はわかったか」

「うん! うん! やってみたい!」


 遊びじゃないのだが、と思いつつ怯えが薄れたうちに羽ペンを持たせ書かせてみることにした。


 シオウは羽ペンにインク付けると、羊皮紙に好きな言葉を、というか食べてみたい料理名や店に置かれている野菜や果物などの名を書き出していった。

 他に何か書く物はないのかと思うだろうが、基本シオウの頭の中にあるのは食べられる物・食べたい物しか存在しない。

 環境が環境であったために仕方がない事ではあるが、もう少し感受性豊かになって欲しいものである。


「・・・・・・」


 そんなシオウの行動を咎めることなく熊男は静かに眺めた後、


「おい、もっとキレイに書けねぇのか?」


「きれい?・・・きれい・・・・これみたいに書けばいい?」


 シオウの字を指摘する。

 別に読めないほどではないが、綺麗な字と言う訳でもない。

 本にするにはもっと綺麗で読みやすく書いてもらわなければならないので、指摘したのだ。


「そうだ。俺が書いたくらいに綺麗に書いてもらわねぇと、金は払わねぇぞ」


「おかね・・うん、わかったよ」


 金が貰えないという言葉に、シオウは一番上に書かれている熊男の文字を見ながら、できるだけそれに似せるように書いていった。


「で、できた! はい!」

「ほう・・・・・・」


 熊男の文字に比べればまだまだだが、それなりに不快ではない程度の綺麗な文字になったことに、熊男は感心したように頷いた。


「いいだろう。なら、テストを始める。ゆっくりでいいから聞き漏らさず、綺麗に書いてみろ」

「うん!」


 熊男は色々な言葉を発していき、シオウはそれを耳にしながら、綺麗に文字を書くように意識しながら羊皮紙に書き記していった。


「ふむ、まだ荒いな・・・まあ売り物の本を書かせることはできねぇが、依頼書なんかはお前にも書かせてもいいか。お前名前は」

「し、シオウ!」

「そうかシオウ。なら少しばかりお前に仕事をくれてやる。手抜きしやがったら報酬は無いと思え」

「て、てぬき?・・・てぬきってなに?」

「・・・綺麗に、そして間違えねぇように文字書かねぇとだめだってことだ」

「う?・・・うん、綺麗に書くし、間違えないよ」


 文字が書けている事を確かめた熊男はシオウに簡単な仕事を任せることにした。

 まあ売り物にする本を書かせる気は一切なく、本来の依頼金より少ない賃金で頭の悪い探索者達が読む程度の依頼書を書かせるつもりである。


 それが少し不満であったシオウだが、それでも本の一ページを書くよりも文字数が少なく、支払われる金額も1シルバー支払われるので根気強く書き続ければその日の食べる分くらいは十分稼げると思い黙った。


 それにこの熊男の人はシオウが貧民区に住んでいると知っていながらも、こうやって仕事を与えてくれるのだ。

 なので、まずは信用に応えるために頑張るべきと思い、シオウは黙々と仕事をこなしていった。





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