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クリッカーの転職物語  作者: タヌキ汁
第三章 強者へと至るその代価
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夜の海


 満天の星空。

 森の中にいた時は木々が邪魔で見ることができなかった綺麗な星空が広がっていた。


「今日は雲一つないや。キレイだなぁ~」


 8年とちょっと生きてきたが、早々見ることなど無かった夜空。


 貧民区で暮らしていたときは日が落ちる前に住み家の穴に息を潜め、探索者として働けるようになってからも暗くなる前にダンジョンに逃げ込んだ。

 帝国に連れていかれても訓練場?から出してもらえなかった。


 騎士達から逃げだせた後は空を見る機会はあったが、基本森の中で暮らしていたので、生い茂った木々に空は覆い隠されて見えなかったし、見ようとも思わなかった。

 そもそも日が落ちたら寝るのでこうやって見る機会など無かったのだ。


 けど今日は船が揺れるので目がさえてしまい、ちょっとだけ夜更かししている。

 それに夜更かししているとお姉ちゃんに怒られるかもと心配していたが、


『シオウ。あそこの星とあそこの星を繋げるとカラス座になるのよ。わかる?』


 今日は怒られることなく、お星さまの説明をしてくれていた。

 柔らかハンドを使い、シオウの目線に合わせて星と星を繋ぎ、最後は柔らかハンドの形を変えカラスの輪郭を作り教えてくれる。

 星と星を繋げても全くカラスには見えないと思っているが、そこら辺は気にしない。


『そしてあっちにはハト座があるわね。それに天秤座も・・・・・・・この世界の星座っって季節感全無視してくるわね。まあいいけど』

「季節・・・かん?」

『なんでもないわ。それよりまだ眠くならない?』

「う~ん・・・おめめパッチリ!」

『そっか~。いつもと違う環境のせいで眠くならないのかもしれなわね。けどシオウのことだからすぐに適応してすぐに眠れるようになるわよ』

「う?・・・うん! 任せて!」


 褒められているのかよくわからないが、自信満々に頷いておいた。

 褒められているんだよね?


『それよりごめんね。そろそろお話しできる時間が無くなるわ』

「あ・・・うん・・・」

『もう、そんな悲しそうにしないの。前より話せる時間は長くなったでしょ?』

「そうだけど・・・・・やっぱりまだ少ないなぁ・・・って」


 定期的にお話しできるけど、それでも少ない。

 ちょっとした雑談も多く話せるようになったけど、それでも少ない。

 お姉ちゃんは僕と話せる時間配分を考えて、話せない時間の方が多い。

 だから足りない。

 もっといっぱいお話したいし、お話して欲しい。


『ごめんね。けどまた明日になれば話せるようになるからね?』

「うん、じゃあ頑張って眠るね」

『ええ・・あっ、けどお話しできないけど柔らかハンドは動かせるみたいだから、シオウが寝る間で頭撫でて上げるわ』

「うえ!? ホント!! やったーっ!!」

『ふふ、ほら暴れないの。ほら、わかったらゆっくり眼を閉じなさい。明日になればまたお話しできるようになるんだから』

「うん! おやすみ!」


 おやすみと言いながらも、待ち遠しそうに目をぱっちりと開けていた。

 言葉と行動が全く真逆であることにお姉さんは笑いながらもゆっくりとそのシオウの頭を撫で始める。

 冷たくて、ポヨポヨしていて人の手とはかけ離れた感触だが、それでもシオウは幸せそうに目を細める。


「うへへへへ~」


 だらしなく頬を緩ませるのは、まあ仕方がないことであろう。

 身体は成長しても中身はまだまだ幼い八歳児。

 親に甘えていておかしくない年なのだから。


「お姉ちゃん。ありがとうね。お姉ちゃんずっと一緒にいようね。ずっと一緒にいてね?」

『ええ、ずっと一緒にいるわよ』

「うん、ずっとずっと一緒にいようね。どこかに行っちゃヤダよ。ママとパパみたいにいなくなっちゃヤダよ?」

『ええ、シオウの傍を絶対離れないわ。だから安心して眠りなさい』

「うん、ずっと一緒だもん。一人ぼっちにしないでね」

『ええ、ずっと一緒にいる・・・・・・』

「おねえちゃん? おねえちゃん?・・・・あっ、お話しできなくなっただけだね。うん、わかってる。そこにいるのはわかってるから寂しくないよ。それにスライム達もいるから寂しくないよ・・・・・・寂しくないもん」


 途中で声が聞こえなくなり、シオウは一瞬心細くなったが、すぐに頭を撫でられ頬を撫でられたりして、傍にいるよと教えて来てくれたので寂しさはすぐに薄れる。

 更にクリッカー画面を呼び出し、楽し気に跳ねるスライム達を抱きしめて更に寂しさを紛らわせた。


 森の中で聞きなれた虫の声が聞こえず、風で葉がこすれ合う音もしない。

 風が届ける音は聞きなれない波の音と船がきしむ音だけ。

 月明かりがあれども見渡す限りの海が広がり、そして夜であるためとても暗い。


 いつも過ごしていた森とは全く違う環境。

 慣れない暗闇にいつもよりも恐れを抱いているシオウは、その世界に少しでも慣れるために、ただジッと恐れに耐え続けた。


 初めて海の上で一夜を過ごす。

 その恐怖は言いようのないほどであっただろうが、それでも貧民区で過ごした経験を生かし、息を潜めるように耐え続けた。


『・・・・・・・・・・』


 その感情を感じ取っているお姉さんは、静かに傍にいると教えるように頭を撫で続けた。






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