海の上での食事
「うぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐっ」
さんさんと太陽が照り付ける海の上。
いくら身体能力が強化され、抗体が強くなろうともこう暑いと喉が渇くというものだ。
なのでシオウは水を飲む。
今回ステージ40になって運よく現れた柔らかハンドの手から水を好きなだけ飲んでいた。
「うぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐうぐっ!」
『・・・飲むのは良いけど、水筒に入れて飲んだら?』
「うぐうぐうぐうぐ・・・うぐ?」
ただなぜかシオウは柔らかハンドの親指を加えるようにして飲んでいた。
「うぐぐっ! うぐぐぐ~!」
『・・・そう、まあいいけど』
シオウが何と言っているのかというと、こうやって親指を加えるとなんか落ち着くようだ。
誰もが赤子のころに己の指をしゃぶっていた時期があったことだろう。
そんな記憶のせいかなんかしゃぶりながら飲んでいると落ち着くのだ。
「ぷは~! うまいっ!」
『そう、良かったわね。さてそろそろ食事にしましょうか・・・といっても船に積んだ分も少なくなってきたし、そろそろ海で狩りでもする?』
「お~! 狩り~! 海で狩り~!!」
シオウにとって海で狩りをする事はちょっと楽しみであった。
船を作っている最中も、岩場で貝とか拾っていたのだが、お姉ちゃんがこれから嫌でも海の物を食べることになるから森の物を食べておいた方がいいというので、あまり食べないようにしていたからちょっと楽しみなのだ。
『それじゃあ、海に入る前に錨(蔦に石を括り付けただけのモノ)を降ろして準備体操をしましょう。初めは命綱が届く範囲までしか行っちゃダメだからね』
「あいあいさ~!」
そしてシオウは人生初の素潜りに挑戦することとなった。
釣りはしないのかって? 残念ながら餌はもう食ってしまったよ。
海の中に潜ったシオウ。
海の中で目を開けるのは川で目を開けるより辛かったが、それも慣れればどうってことなくなった。
しかも水の中がぼやけていたのだが、徐々にそのぼやけも無くなり、しっかり海の中を見ることができた。
「・・・・・・・・・・(ぽけ~)」
そして初めて海に潜ったシオウはただボケッと海の中を見ていた。
ただ青い。
青くて、青くて、底は青くて暗い。
綺麗な青に囲まれているのに、海の底だけはまるで夜が訪れたかのように暗かった。
まるで光の届かぬ海の底にいったら闇に飲まれて、戻って来られない。
そう考えてしまう程真っ暗な闇が広がり、人の恐怖を煽っていた。
「・・・・・・(じゅるり)」
まあ、クリッカーのおかげで視力が良くなりすぎているシオウにとっては、その暗闇の中にいるお魚のほうに意識がいっているので恐怖よりも食欲が優っているので、パニックになることはないが。
『シオウ。まずは海の中で自由に泳げるか練習してみたら? 海は川と違って波があるから海の中でもゆらゆら揺れてちょっと泳ぎにくいかも知れないわよ』
(そうだね。確かになんかすごい揺れてるよ。けどとってもおもしろいよ!)
まるでゆりかごに乗っているようで、なんかいい!
なんだろう。このまま海の中で寝てみたい。
『バカなこと考えてないの。それとどれくらい息止めて泳げるか確認しておいた方がいいわよ。まあ肺活量も強化されているから動かなければ四十分くらい止めていられそうだけど・・・』
(おぉ!? 確かに苦しくない! 凄い凄い! お魚になったみたい!)
言われて気付いたが確かに全然息苦しくならない。
前は一分息を止められればいい方だったのに。
『言っておくけど四十分は目安でしかないわ。深く潜れば潜るほど水圧が上がってそれだけ潜れる時間が減るんだから、そこら辺忘れちゃダメよ?』
(う? 深く潜るといっぱい潜っていられないでいい?)
『それでいいわ』
水圧とかよくわからないけど、深く潜ったら苦しいってことだけは理解したシオウは、自分がどれほど海の中で自由に泳げるのかを確かめていった。
「お魚取った!『ど~!』・・う?」
海でどれほど泳げるか、そして潜っていられるのか確認しながら、途中魚の大群が横切ったので追いかけて手づかみで魚を捕まえたシオウ。
その成果を見せつけるように海面から顔を出すと天高く掲げてみせると、毎度のことながら突然変な声が聞えてきた。
「・・・・お魚取った!『ど~!』・・・う??」
『ど~』と言う言葉に何か意味があるのかと首を傾げながら、捕まえた魚が逃げないようにしっかり握る。
『どうせ意味なんてないんだから、早く上がって体を温めなさい』
「意味なら何かあるかもしれないよ?」
『そう? 私はないと思うわ。まあ今はそれより結構長い時間海の中にいたんだから、すぐに身体を温めなさい。こんなところで風邪なんて引いたら大変なんだから』
「は~い」
お姉さんに注意されるがままにシオウは海から上がる。
「お姉ちゃん、これ食べたい。食べていいかな?」
『ええ、生ものは鮮度が命だから食べていいわよ。ただシオウって魚のさばき方知ってるの?』
「ちゃんとは知らないけど、頭切り落して、お腹開いて、内臓とか全部取り出して洗ったら食べられるはずだよ? あっ! 鱗とかある魚は鱗を取るって聞いたことある!」
『大体それであってるかな? まあ、思うようにやってみなさい』
「お~!」
両手で捕まえるほどの大きい魚の尾を掴みながら手刀で魚の頭を切り落した。
まあ手刀とは言っているが厳密に言うと鉄以上の強度を誇る爪で切り裂いただけなので手刀と言っていいのか疑問だが。
「シュッシュシュ~のシュ~」
血を見るのはあまり好きではないが、相手が食材だとその認識が薄まるのか、シオウは手早く爪で魚の腹を裂き、内臓を取り除き海水で洗う。
今回捕まえた魚には鱗が無いので青物であったようだ。
この魚の名前はよくわからないが、鱗を取る手間が無いのはとっても楽である。
「お姉ちゃんできた! 後はこれを焼いて食べるだけ・・・・あれ? ここで焚火したらお船やけちゃうや。どうしよう」
『なら生で食べればいいじゃない。新鮮だからきっとおいしいわよ』
「そう? ならいただき!『はいちょっとまった』ま・・・う?」
新鮮でおいしいと言ったので早速頂こうとしたのだが、なぜか止められた。
『流石にその状態で食べるのは頂けないわ。ちゃんと綺麗に切って食べましょ』
「え~、別にこのままでいいよ~」
このままでいいとは言うが、はっきり言ってお姉さんの言う通りちゃんと切り分けて食べるべきだろう。
頭を落して腹を開いただけの魚をそのまま噛り付くとか、絵面がどう考えても可笑しい。
獣じゃないのだから最低でも三枚おろしにしてから食べて欲しいモノだ。
『ダ~メ。ほら、ちゃんと切って食べましょうね。丸かじりばかりしていると皆からバカにされてしまうわ』
「うえ? そうなの??」
『そうよ。貴族のような振る舞いをしろなんて言わないけれど、人として最低限のマナーは身に着けましょうね』
「まな~??」
『行儀よくしましょうねってことよ。じゃないと嫌われちゃうかもしれないから』
「う!? お姉ちゃんも嫌いになっちゃうの!?」
『私は大丈夫だけど他の人に嫌われちゃうかもしれないわよ。そうね。もしかしたらミラさんとかシェミちゃんとかに嫌われちゃうかもよ?』
「うやっ!? それヤダ! ミラさん達に嫌われるのヤダ!」
『ならそれなりにお行儀よくしなさい』
「あいあいさ~!」
誰かに嫌われるというより、優しくしてくれていた人達に嫌われることを恐れ、シオウは言われたとおり魚を切り分けながら食べて始めた。
ただ魚を捌くのはこれが初めての事であるので、三枚におろすだけでも身はボロボロで酷い有様であった。
まあ、ボロボロであろうとも捨てることなく食べたけどね。
勿論骨ごと。
『魚の骨は細かいから喉に引っ掛からないように気を付けるのよ?』
「大丈夫! 奥歯で磨り潰して粉にしてから飲み込んでるから!」
『ああ、骨を食べるときはそうやって食べてるのね・・・・よく噛んでと言うか、よく噛み潰して食べてるのね。流石ね』
「うへへへへ~、それほどでも~」




