貧民の子
本日より「クリッカー転職物語」を書かせて頂きますが、基本「ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-」を中心に書いていくつもりです。
一応ストック分は毎日投稿させて頂きますが、ストック分が無くなり次第、かなり不定期な投稿になるかと思われます。
それでも読んでいただければ幸いです。
ある港町の貧民区でボロボロに薄汚れた服を着た幼い子供がゴミを漁る。
今日を生きるために、飢えて死なない為に恥も外聞もなくゴミを漁る。
この子はこの港町の貧民区で産まれ、そして数年前に親を亡くした子供。
幼いながらも一人、掃き溜めのような場所で必死に生きている孤児だ。
誰にも助けてもらえず、力も知恵もない子供は人知れず死んでいくもの。
ただただ奪われるだけの存在であった。
だが、この子はそんな力ない子供達とは少しだけ違っていた。
この子は一人であって一人ではない。
力が無くとも、力がない者の生き残り方を知っていた。
仲間を集めるほどのカリスマ性も話術もなく、友と呼べる者はいない。
孤独で涙することはあっても、孤独死するほど弱くはない。
なぜならば、この子の頭の中には色々な人が潜んでいるのだから。
「どくいもだ・・・食べられるのかな?」
『ほ~ほ~、その芋は芽が食えて実の方は食えねぇのけ? ほ~ほ~、じゃがいもと逆なのじゃな。ほんに面白き世界よなぁ~』
「・・・芽が食べれるんだ・・・ふ~ん」
声を掛ければ時々誰かが答えてくれる。
この子に話しかけているのではなく、どこかの誰かとお話するような感じだが、それでもこの子は一人であって一人でない状況にいつも喜びを感じていた。
疑問を口にしたりすると、答えてくれる人がいる。
この声が何なのか知らないし、なんで自分の頭の中にだけ聞こえてくるのかもわからない。
だけどそんなのどうでもいい。
今までこの声の人達に助けられてきたのだから。
子供はそう納得しており、何の疑いもなく毒芋と呼ばれる芋の芽を毟ると食べ始めた。
「むちゃむちゃ・・・うえぇぇ、にが~い」
まあ食べられると言っても、美味いとは言っていない。
子供はあまりの不味さに顔を歪めながらも吐き出すことはなく、必死に吐き気を抑えながら無理やり飲み込んだ。
貧民区に暮らす子供にとって食べてもお腹を壊さない食べ物と言うのはそれだけ貴重なのだ。
少しでも飢えという苦しみから逃れられればそれだけで幸運であるのだから。
ガラーンゴローン
マズイ毒芋の芽を顔を顰めて食べていると、大きな鐘の音が街中に響き渡る。
冒険者や兵士などの戦闘職の人達に陽が沈みだしている事を伝え、ここからは魔物が徐々に活発化する時刻だと知らせているのだ。
ただ魔物が活発化するとは言っても森や海などに魔物は存在しない。
魔物がいるのはダンジョンと呼ばれる可笑しな場所にいるのだ。
その可笑しなダンジョンは街のあらゆる場所に存在し、その中に魔物達が潜んでおり、基本的にダンジョンの魔物達は外には出てくることは無いので、ダンジョンに入らなければ危険はない。
「むちゃむちゃむちゃむちゃ・・・うえぇぇぇぇ・・・・・うぇ?」
故に街の、それも貧民区に住んでいるこの子供には鐘の音など無意味であったのだが、その日の鐘の音は、この子供にとって人生の転機が訪れる祝福の鐘の音となった。
「なに・・・これ?」
目の前に行き成り浮かび上がった透明な板が現れる。
子供は目を丸くしながら惚けた顔でそれを眺めた。
名前 シオウ
年齢 8歳
種族 人族
身分 なし
スキル クリッカー(隠蔽中)
それは己の名前と歳と種族名が記載されているステータス画面。
8歳を迎えれば身分問わず与えられる摩訶不思議な力。
故にステータス画面が現れたことは別に可笑しなことでは無い。可笑しなことでは無いのだが、この子供の・・いや、シオウは他の人とは違いあるモノを与えられていた。
「??・・くりっ・・・・かー?」
名や歳の他にクリッカーというスキルが書かれている。
聞きなれない言葉にシオウは首を傾げながら、見慣れない文字に手を伸ばした。
それがシオウの人生を大きく変える始まりになるとは知らずに・・・。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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