にゃーんSF(試し書き)
連載予定しているもののトレーラー(?)映像(?)です。
「にゃーん!」
そう喋りながら、茶虎が嬉しそうな表情を丸い顔いっぱいに広げて、駆けて来た。
俺は思わず目尻が下がり、頬が緩む。
「にゃ、にゃーんっ!」
飛びついて来る。胸に飛び込んで来るそのもふもふとした生き物を、俺は抱き締め
どごぉっ!!!
目が覚めた。
ベッドから落ちていた。
「ゆ……夢……」
俺はみんながすやすやと眠る部屋で一人、呟いた。
「なんて恐ろしい夢を見てしまったんだ……」
☆ ☆ ☆ ☆
「ミチタカくん。ゆうべ、うなされてたわよ」
共同の洗面所へ俺が行くと、由木マコトさんが話しかけて来た。
「なんか怖い夢でも見たの?」
「あ。なんでもないです。……っていうか、起きてたんですか?」
「まーね。あたしあんたの上の段だから。寝言がよく聞こえて、思わず起こされちゃったわよ」
俺は申し訳ない顔を作って見せながら、マコトさんの口を眺めた。形のいい赤い唇が白い歯磨き粉に濡れ、歯ブラシの動きがやたらと魅力的だ。
「すみませんでした。実はネコが夢に出て来て……」
「ネコが!?」
マコトさんは歯ブラシを口から急いで抜き、俺の顔を睨むように見、
「それはとんでもない悪夢だったわね。あたしだったら必死で逃げようとして、そこらへんのものをブッ壊してたかも」
気を落ち着けるように歯磨きを再開する。
★ ★ ★ ★
「由木くんから聞いたぞ」
山原隊長は司令室に呼び出した俺を敵のように睨みつけた。
「憎むべき敵の夢を見るなどと、恥を知れえっ! 貴様は人類を裏切ってネコ好きにでもなるつもりかあっ!?」
「すすすすみません! すみません!」
俺は全力で謝る。
「俺の無意識がどうにかしていたんです!」
「その無意識の中で貴様はネコを愛しているな? そうだろう?」
「まっ……、まさか! そんなあり得ないことは……」
「そうでなけりゃネコの夢など見るものかあっ! 貴様はゴキブリの夢を見たことがあるのか? ネコが胸に飛び込んで来て、顔がふにゃけてしまったとか抜かしていたが、ゴキブリが胸に飛び込んで来る夢を見ても嬉しがるのかあっ!?」
「あああああり得ないですっ! ネコは我ら人類の敵であり、嫌悪しかすべきでないものでありますっ!」
「よし」
山原隊長は俺を許すと、本日の任務を俺に言い渡した。
「食糧がそろそろ少なくなり始めている。山へ入って食えるものを採って来い」
☆ ☆ ☆ ☆
ネコが地球の支配者になってから、生態系が狂ってしまった。
キャベツもジャガイモも畑では出来なくなり、山に自生している。しかもその味は、大昔には『シャキシャキのキャベツ』とか『ほくほくのジャガイモ』と呼ばれていたらしいそれが、今ではアク抜きをしないととても食べられない。食感もとてもシガシガしている。
「おっ。トウモロコシ見ーっけ」
一緒に食糧調達に来た花井が言った。
見上げると、高い木の上からまるまる太ったトウモロコシが一本、ぶら下がっている。
「高いな……」
俺は見上げながら絶望した。
「あれじゃ届かない。地面からバナナが生えてないか、探そうぜ」
「俺を見くびるなよ」
花井は笑う。
「どれだけ俺が木登りが得意か、お前も知ってんだろ、ミチタカ」
「気をつけろよ」
するすると気を登りはじめた花井に俺は声をかける。
「木の上にネコがいたりするかもしれないぞ」
「こっ……怖いことを言うなよ」
止まりかけた足を動かし続けながら、花井は苦笑した。
「勢いつけて登らんと、さすがの俺でも登りきれんのだからな。足を止めさすな」
その時、
「ウウ〜……」
とっても嫌な声がした。
生理的に人間を笑顔にさせてしまうものの声だった。
木の上にいたのは黒ネコだった。
サバイバルジャケット一枚を羽織り、そこに銃を差している。
「はっ……はわわわわっ!!」
花井がかわいいものを見て笑顔に恐怖の色を浮かべる。
「でっ……、出たあああーーっ!!!」
「はっ……花井ぃいーーーっ!!!」
俺は見た。かなり高くまで木を登ったところで、花井がネコの銃が発射した光線に体を撃ち抜かれ、こちらへ向かって落下して来るのを。
俺は咄嗟にやつのために身をクッションにした。花井の体を両手で受け止めると、柔らかい腐葉土の上に、一緒になって倒れた。
「にゃにゃんにゃん、にゃにゃにゃん、うー」
木の上にいた黒ネコは、俺達をバカにするように笑いながらそう言うと、枝からぶら下がっているトウモロコシを口にくわえ、木から木へと飛び移りながら、遠くへ消えて行った。
「花井っ!」
俺はやつの体を揺する。
「大丈夫かっ!?」
「う、うふふ……」
花井が目を覚ました。
ネコの使っている銃に殺傷能力はない。ただし……
「う、うにゃあーん」
花井は人間の言葉が喋れなくなっていた。
はっきり言うと、バカになっていた。
呆然とする俺の前で、花井は地面を手足全部を使って駆け出すと、それは楽しそうに蝶々を追い回し始めた。
まあ、3時間も経ったら元に戻るのだが、俺は恐怖した。そして逃げ去った黒ネコを睨みつけ、憎しみを強くした。
「遠い昔、地球は人間様のものだったんだぞ……!」
思わず誰も聞いてないのに、口から言葉が漏れた。
「地球で遊びやがって……! 絶対に、地球の支配権を、俺達人間はネコから取り戻す!」
風が吹いた。木々の揺れるざわめきが、ネコ世界最高権力者『マオ』の甲高い笑い声に聞こえ、俺は強く拳を握りしめた。
『ざわざわざ……にゃわにゃわ……にゃーっはっはっは!』
その笑い声とともにあの、かわいすぎる顔をした、茶トラのマオの顔が頭に浮かぶと、俺は思わず拳が緩み、ああ、撫でたい、あのもふもふした頭、とつい、やつらの魔力に自分からかかってしまいそうになるのを、どうしようも出来なかった。