不良教師にパンツを見られる話
学校法人私立真藤高等学校。
これが俺の新しく通うことになる学校だ。
その職員室の前に俺は立っている。
……名前からしてあのサイコロリの息がかかっていることが明白なんだが。
俺は1週間の間に全力で女子について学んだ。
家に置いてあったファッション雑誌と少女漫画を死ぬほど読み込み、動画配信サイトで地雷メイクについて学び、取り揃えられた衣服一式で時間の許す限りひとりファッションショーをした。
当初は自分の裸にも興奮したものだが、今となっては自分の体だ。
もう抵抗感はないと言っても過言ではないな。
ただ、トイレだけは……トイレだけは未だに慣れん……。
とにかく! 俺はこれで完全版女子だ。
ひらひらのチェックスカートのシックな制服に身を包み、俺は職員室の戸を開けた。
「すみません。本日転入することになった諫早ですが……」
少し大きな声で中に呼びかけると無精髭のジャージに身を包んだ30代くらいの教師が部屋の奥から出てくる。
「っあー……そういや今日だったか転入生。確か……諫早有紀、であってるか?」
頭をボリボリかきながら大あくびをする教師。
その目やにと寝癖、さっきまで寝てたんじゃないだろうな。
「はい。諫早有紀と申します。はじめまして」
「俺はお前の担任の真藤遥だ。っあー……お前煙草とか吸う?」
真藤、だと?
珍しい苗字ではないが、あいつの息のかかった学校である以上関係者であることに間違いはないだろう。
それにしてもいきなり何を言うのか不良教師。
ツッコミたい気持ちは抑えつつなるたけ穏やかに返答をする。
「未成年ですので……差し出がましいかもしれませんが、学校で煙草はいかがなものかと」
「ククク! いいんだよココ私立だから! うちの兄貴がやってる学校なんだけどよ? ほぼ治外法権だぞ? よし、ちょっくら付き合え」
そう言うと襟首を掴まれずるずると引きずられる。
おい、ちょっと何をする!
いたいけな女の子を連れ去るなんて事案だぞコラ!
もしや、この野郎……俺があまりにも可愛いからって何か如何わしい事でもするつもりじゃねえだろうな!?
「何をするんですか! どこに連れてくんですか! エロいことするつもりですか!」
「人聞き悪いこと言ってんじゃねえよ。こちとら教職員だぞ、生徒の模範なめんなよオイ」
学校で寝起きしてるであろう不良教師に言われたくないんだが!?
男の頃なら話は違っただろうが、女の俺には抵抗するような力はない。
不満そうな顔をしながらずるずると引きずられていくしかないのである。
やがて裏口から外に出るとぺいっと放り捨てられる。
「ただの喫煙所だよ……あれ、点かねえな。お前ライター持って……っあー吸わねえんだっけ。くそ、ああ、やっと点いた」
ライターに苦戦しながらいつの間にか咥えていた煙草に火をつけると口から紫煙をもくもくと吐き出す。
ぱんぱんと土埃をはたきながら立ち上がる。
折角の新品制服が薄汚れちまったじゃねえか。
「で、なんでこんなとこまで連れてきたんですか」
「ん? 俺ぁ寝起きは煙草吸わねえと落ち着かねえの。俺がお前くらいの時は悪い先輩に捕まって無理やり吸わされたモンだけどなあ。本当に吸わんのか?」
「吸いません。女の子は煙草吸わないんです」
「クク! 今日び女だって煙草くらい吸うだろうが。ちっとばかし幻想が過ぎるんじゃねえのか童貞くん」
「だ、誰が童貞じゃー!」
はっ、ついツッコミを……。
ていうか、こいつのこの言い方もしかして……。
「……おい不良教師。俺のこと知ってんな?」
不良教師は咥えていた煙草を噛み潰しながらクククと含み笑いをする。
その底意地の悪い笑い方には覚えがあるぞ……!
やっぱりお前あのサイコロリの家族かなんかだろ!
「自分の正体が男だとバレているとも知らねえで女のふりをしてるお前は滑稽だったぜェ……!」
「てっ、てめぇー!」
この不良教師め!
俺の渾身のライダーキックを喰らわせてやる!
天誅じゃ天誅でござるー!
しかし悲しいかな今は非力な女子の身の上。
ぱしっといとも簡単に足首を掴まれてしまう。
「お転婆かよ? まあ、同じアイツに巻き込まれた身としちゃ同情しなくもないがな」
「同じ……?」
「ああ。俺は元女だよ。なんつったっけか、試作第1号被検体とか言ってたっけかな。まー、お前の先輩ってことだ。仲良くしよーぜユキちゃん」
そう言いながら顔を近づけてくる。
やめろ! 顔を近づけるな!
俺はそっちの趣味はねえんだよ!
ん? いや、本当は女だっていうなら問題はねえのか?
それに今は俺が女で不良教師は男で……。
あーもう! 頭おかしくなっちまうよこんなの!
「……煙草臭えんだよ」
「ククク、恥ずかしがんなよユキちゃん。俺はお前の契約内容についても知ってる。事情も分かってるんだから案外優良物件かもしれねえぜ?」
確かに言われてみれば……。
速攻で終わらせるのであれば我慢してこの不良教師と関係を持つのもありなのでは!?
姫ちゃんのことを思えば早く終わらせるに越したことはない。
よし、これは渡りに船だ。
是非ともその申し出受けさせていただ……。
「いや、男だってバレてる時点でだめじゃねえか! あっ、お前知っててからかったな!」
「クハハッ! 望みもねえのに真剣に悩むお前の姿は滑稽だったぜェ……! でもよ、俺は性別とかに頓着しないんでね。イイと思ったら食っちまうぞ?」
「はいはい、それも冗談なんだろ……」
「クク、どうだかね?」
ところで……いつもで俺の足首を掴んでるんですかねえ。
ちょっとずつスカートがずり落ちてきてるんですけどォ!
「もうちょっとで見えちまいそうだな?」
あっ、コイツ! 気づいててわざと!
「ぬおーっ! 離せーっ! 何が悲しくて転入初日にパンツ晒さにゃあかんのだーっ!」
「暴れんなよ、ホイ」
「ぎゃーーーー!?」
いきなり離すなバカァ!?
俺は勢い余って派手にすっ転ぶ。
「いってて……」
「ふーん、中々女の子してんじゃねーの」
あ、何言って……。
あーーーーーーっ!?
俺のスカートは派手にまくり上がり綺麗にパンツを外気にさらしている。
それを蹲み込んだ不良教師にまじまじと観察されていたのだった。
「何見てんだよっ! 金とるぞバカー!」
びゅんと立ち上がってスカートを押さえつける。
うぎーっと威嚇するも不良教師はどこ吹く風で煙草をふかしている。
「勝手に見せたくせにぎゃあぎゃあ言うなって。んじゃ、そろそろ行くか」
ポケットから取り出した携帯灰皿で煙草を押し消すと、不良教師は裏口の引き戸を開けた。
「どっ、どこに?」
「決まってんだろうが。朝はHRだ。さあ、お前の新生活が始まるぜ。気合入れろよ?」
ククク、となおも底意地の悪い含み笑いをしながら不良教師は歩き出す。
俺は火照った頬をぱたぱたと仰ぎながら仕方なくその背を追うのだった。
バカー、って言う女の子って可愛くないですかね。
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