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契約書を交わして名前をもらった話

真藤織ことサイコロリから告げられたルールは以下の通りだった。



前文


甲:灰崎佑哉は乙:真藤織と以下の契約を結ぶこととする。


① 甲は最低1名以上の男女と交際関係にならなければならない。なお、その際の男女の性別は問わないものとする。


② 交際をしている証拠として甲は乙の面前でキス以上の行為をしなければならない。また、この行為が金の授受や恫喝、又は薬物等の効能によって発生したものと乙が判断した場合、これを無効とする。


③ 交際期間は最低3ヶ月以上とする。なお、甲が男だということが判明してしまった場合その時点で交際関係は破綻したものとする。


④ 期間は高校卒業時までとする。期間を過ぎ、条件を達成出来なかった場合、甲は男に戻ることは不可能と諦め結果を素直に受け入れるものとする。


⑤ 期間中、乙は甲の生活費又は必要と思われる雑費について金の提供を行うものとする。但し、金の提供は月当たり金50万円を超えないものとする。


⑥ この契約内容についてみだりに他者に伝えないものとする。情報の漏洩が認められた場合、別紙機密情報保持契約の効力を持ってその時点でこの契約は終了するものとする。



長々と契約書に書かれた内容はざっくりとこんな感じだ。

口約束で済むものと思っていた矢先に、案外しっかりとした契約書が出てきて正直面食らう。


俺、一介の高校生よ?

こんな契約書なんてスマホ契約した時くらいしか読んだことねえよ。


かと言って俺の人生に関わる重大事項だ。

読み飛ばすわけにもいかず、目を皿のようにして隅々までチェックする。

別途、機密保持契約なる契約書も読まされたが、ようはお前バラシよったらその時点で女の子確定やからな? おかしな真似すんなよ? ってことらしい。


判子は勿論持ち歩いてなどいないので、拇印で何箇所か押印する。

これで、俺は悪魔の契約を結んでしまったわけだ。


控えとして契約書を一部ずつと分厚い茶封筒を渡される。


「ほら、当面の生活費だぜ? 中にいくらか入れといたから考えて使うように。これもひとつの社会勉強って奴だね? ああ、そうそう。勿論その姿で自宅には帰れないだろ。封筒の中に新しい家までの地図が入ってるからそこで生活することだね。君の私物は既に運び込んであるから、心配はいらないぜ? 抜け目がない我輩有能だよね〜ヌフ」


そっか……。

俺は自宅にも帰れねえのか……。

まあ、自由奔放な俺の両親のことだ。

恐らく心配なんぞしねーだろうが、妹だけは心配だな……。


憂鬱な気分で茶封筒を開くと万札がびっしり入っていた。

一枚取り出してみると諭吉さんが無愛想にこちらを見ていた。

試しに他の札も抜いてみると、やはり諭吉さんがひょっこりと現れる。


「少ないだろうが、100万ほど入れといたぜ? 新しい生活には先立つものも必要だからね。まあ、報酬を含めての金だから気に病むことはないのだよ」


ウッヒョー! 金だーッ!

こんなにあったらなんでも買えるぞ……!

欲しかった服とかPCとか一通り揃えられるじゃんか!


「ところで、君の彼女とやらには早いところ別れを告げといた方がいいんじゃないのかな? 後回しにすると拗れて大変だぜ?」


目を¥マークにしてよだれを垂らしていた俺は即座に我に帰る。

そうだ、俺、今日放課後デートの約束してたんじゃん!


「サイコロリ! 今何時!?」


「サイコロリとは我輩のことかね? まあ、いいが。今は5/30の22:00丁度だね」


「22時!? そんなに時間経ってたのかよ! サイコロリ! 俺のスマホどこ!?」


「呼び方はそれで固定なのだね? ほらそこの机の上だよ」


「サンキュ!」


スマホを手に取りLINEを開く。

姫ちゃんのアイコンをタッチし、神速でタップ。

猛烈なスピードで文字を打ち込んで送信する。


『約束破っちゃってゴメン!』


すると間もおかずポンと返信が来た。


『大丈夫ですよ。元気そうで安心しました』


『本当にゴメン! この埋め合わせは必ずするから!』


『ふふ、楽しみにしておきますね』


ああ、良かった……。

ひとまず怒ってはいなさそうだ……。

やっぱ姫ちゃんなんやなあって。

姫ちゃんしか勝たんな、うん。


「ほら、さっさと本題を切り出したらどうかね?」


このっ……サイコロリがぁ……!

ニマニマ笑いやがって。

こいつ絶対俺の不幸を楽しんでるだろ。


「わかってるよ……」


なんて伝えればいいんだよ……。


さっきとは打って違ってのろのろと文字を打ち込む。

出来た文面を何度も見直し、意を決して送信ボタンを押した。


『それと伝えにくいことなんだけど……暫く会えなくなった。具体的に言うと2年ぐらい。ゴメン。何も聞かないで欲しい。けど絶対に、嫌いになったとか別れたいとかそんな気持ちは微塵もないから! 信じて! 出来たら待っててくれると嬉しいかなー……って』


暫く間をおいてポンと通知音がなる。


『分かりました。何も聞きません。例えユウくんが私を嫌いになったとしても私はずっと大好きです。待ってますから、必ず迎えに来てくださいね?」


女神〜!

普通絶対不審がるだろ!

そこを一歩引いて待ってます、って女神以外の何者でもないよな!?

なあ、みんな見てる?

俺の彼女、女神なんだけど何か質問ある?


スマホを両手で握りしめて崇めていると、いきなりスマホを摘んで奪われる。


「何すんだ!」


「これは没収〜。ほら新しいスマホを用意しといたからこっちを使うのだよ。感謝するんだぜ? りんごの会社の最新機種だ」


新品のスマホを無理やり両手に握らされる。

暗転した画面に美少女の顔が映り面食らうがよく考えたらこれ俺だったわ。


「家族のアドレスは入れといたから後でメールでもしとくのだね?」


「はぁ〜……文句は言っても無駄なんだよな」


「ヌフフ、理解が追いついてきたみたいで嬉しいよ。さあ、夜も遅い。新しい自宅へ行ってみたらどうかね?」


憎らしい顔で笑いやがってメスガキサイコロリがあ……!

いつか、わからせしてやるからな覚えてろよ!


俺は新しいスマホを握りしめてとぼとぼと化学準備室を後にしようとする。

そんな俺の背中にサイコロリが声をかけた。


なんだよ。

この期に及んでまだ俺を追い詰める気かクソメスガキドSサイコロリめ……!


「そうだそうだ。旅立つ君に新たな名を送ろう。受け取りたまえ」


しゅっと何かを手首のスナップ飛ばしてくる。

カード状の何かは俺の顔にペチンとぶつかり手のひらの上に落ちてくる。


「いつつ……これ学生証か」


「君は今日から“諫早有紀”と名乗りたまえ。単純なアナグラムだが、案外洒落てるだろ?」


一体いつ撮ったのか、学生証には仏頂面の美少女が写っている。

それは紛れもなく今の俺の顔で、俺は今日から別人として生きていくのだということを痛いほどに再確認させられたのだった。

ようやくTS生活スタートできますね。

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