女になっちゃった話
「ふんふんふん。なんともだらしない顔をしているね? ただの検査だったと言うのになにを楽しんでいるのだ? 全く最近の若者の乱れは看過できないものがあるね」
ニマニマと底意地の悪い顔で忍び笑いをしながら、トントンとバインダーをペンの尻で叩くサイコロリ。
こいつ見た目にそぐわず結構なSだぞ……。
こっちは息も絶え絶えだってのに容赦ねえ。
「び、媚薬でも盛りやがったか……」
「媚薬ぅ? そんなものは盛っていないぜ? まあ、感度に関してはちょ〜っと調整したが。君に盛ったのは……TS薬だよ〜」
TS?
んだよそれ。
「詳しいことは省くがね? まあ、簡単に言えば性転換薬さ〜」
「はぁ?」
性転換、だと。
……いやいや薬打たれただけで女になるとかあり得ないだろ。
その時、ふと俺の脳裏にサイコロリの初授業シーンが蘇る。
もしかするともしかするのか……?
「体の不調も改善されてきただろ? さっき弄ってた時に調整したからね。自分で確認してみるといいのだよ」
そう言われれば先ほどまでの体の痛みは無くなっている。
恐る恐る下腹部に手を伸ばす。
男の性の象徴ともいえる息子の安否を確認せねば……。
「!?」
……まてまて。
いや違う。
俺の息子が小さすぎて偶然探り当てられなかった可能性もある。
「!!??」
ない!
やっぱりない!
俺の! 息子が! 消えてる!
チンがねえ! タマも!
ってーことは、代わりについてるのはおま、おま……。
いや!
探せ、どこかに俺の息子が!
ここか!
ここか!
こっ、あっ、ココ気持ちいいかも……。
「一人で盛り上がりそうなとこ悪いんだけど、現状理解できたね?」
ハッ!?
「お、俺は女になっちまったのか」
そう呟いた声もいつもの声じゃない。
女性声優みたいなふわふわのアニメ声だ……。
「おっぱいもあるぜ?」
そう言われて咄嗟に胸に手を当ててしまう。
そこには確かな膨らみがあった。
大きすぎず小さすぎず掌から若干溢れるくらいだ。
「……巨乳じゃないのか」
「君がお任せにしたのだろ? 見栄をはるからだ。良かったらそこの姿見を使うといい。今の自分の姿、興味あるだろ?」
サイコロリが部屋の隅を指差すと確かにそこに姿見がある。
俺は自分の心音が高まっていくのを感じながら、一歩一歩姿見に近づく。
やがて姿見の前までやってきたが、これを見たらもう認めるしかない気がして躊躇してしまう。
それはそれとして、俺が女になった顔ってどんなんだ?
我ながら中の下程度の顔だぞ。
…………ブサイクだったらやだな。
「さあ、なにを躊躇っているのかね? 君の新しい可能性をその目に焼きつけるがいいのだよ!」
ええい、ままよ!
俺は思い切って顔をあげる。
姿見の中にはアイドルもかくやの美少女がうつっていた。
ショートボブの髪は細面に僅かにかかっており、髪の間から栗色の黒目がちなアーモンド型の目が覗く。
頬にはうっすらと朱がさし、筋が通った鼻や唇はツンと強気に上を向いている。
ぺたぺたと頬を撫でるその指は白魚のように細くしなやかだ。
「これ……俺……?」
めっちゃかわええやん。
こんなんガチ恋するわ……。
「喜んでくれたようで何より。ま〜、我輩が美しくないものを作るわけはないから当たり前なんだけどね〜。さて、ここで本題だ。君を可愛い女の子にしたのにはある目的があるのだよ」
「目的……?」
可愛くなった俺が疑問の声を上げる。
嫌な予感がする。
このサイコロリは勝手に人体改造しやがるヤバイ奴だ。
俺を女にした目的……?
まさか、俺を風俗とかどっかの国のお偉いさんとかに売り飛ばす気じゃねえだろうな!?
「人身売買はやめろォ!」
「君の思考回路は意味不明だね? そんなことはしないぜ? 君にはやってもらいたいことがあるんだよ」
「やってもらいたいこと?」
「そう。だからこそ君を選んだってのもあるんだがね? 君、恋愛に興味津々だろ? ちょうどいいからその美少女の体を使って相手つくっちゃおーぜって話」
「は? そんだけ?」
正直拍子抜けだ。
もっと残虐非道な真似をされるものだと思っていたから気が抜けた。
「相手は男でも女でもお好きなようにしたまえ。そこんところの偏見は我輩ないから安心だぜ?」
「で、でも! 俺、彼女いますよ!」
そうだよ!
立て続けに色んなことが起こって頭から抜けてたけど前提から破綻してるんだって!
「んー? それは灰崎佑哉くんの話だろ? 君は今、女の子になってる。別人だ」
ハッ!?
確かに実際になっている俺が言うのもなんだが、薬打たれて女の子になりましたなんて荒唐無稽な話誰も信じねーよな!?
「今の彼女には暫く会えないと連絡しておくのをオススメするよ。あー、でも新たにカレカノ作るんだったら別れちゃうのも手かもしれないね〜」
やっぱこいつは許されざるサイコロリだ……。
苦節17年初めてできた彼女をそう簡単に手放せっかよ!
「無事カップル成立とあいなれば君を元の姿に戻すと約束するよ。君がいないのは海外へ交換留学って事にしとくからご心配なく。でも家族に心配はかけないようにこまめに連絡するんだぜ? 勿論電話は厳禁だがね」
「……わかったよ、てか他に選択肢ねーんでしょ。詳しいルール聞かせてください……後から反故にされても困るんで」
「ヌフフ、そうこなくてはね! それでは内容を詰めるとしようか!ああ、そうそう、実は君以外にも何人かに被験体になってもらったからね。誰だかは教えないぜ? ヌフフフフ」
おい、最後になんか不穏なこと言わんかったか。
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