新たな扉を開く話
とある公園のベンチにポツンとひとり佇む少女がいた。
夕焼けが辺りを照らし、無邪気に走り回る子供たちもそろそろ家路に着く頃だ。
そんな中、特になにをするわけでもなくひたすらにニコニコと微笑みながらただ座っている。
時折胸ポケットのスマホが震え、その度に笑みを深めて画面を確認するが目当てのものではなかったようですぐにポケットにしまい直す。
やがて日は暮れ、辺りはとっぷりと夜にのまれた。
しかし少女は依然としてベンチに座ったままで動こうとしない。
また胸ポケットのスマホがぶるると震えた。
少女はスマホを確認すると、2-3操作した後にまたポケットにしまい直す。
そしてやっと立ち上がった。
ぐーっと一つ大きく伸びをし、歩き出したその顔には満面の笑みが浮かんでいた。
***
……。
…………。
………………はっ!?
う、うーん……知らない天井だ。
って、使われすぎて腐れちまったネタしてる場合じゃなかった。
寝ぼけ眼で今の状況を確認してみると俺はどうやらベッドに寝かされていたらしい。
猫ちゃん柄のやけに可愛らしい布団を跳ね除け、体を起こそうとすると体の節々が痛んだ。
インフルエンザとか高熱症状の時に現れるあの痛みにそっくりだ。
それになんだか体に力が入らないし、頭もぼーっとする。
もしかして俺熱でぶっ倒れてさっきまでのは悪い夢とか?
ハハハ、なーんだ。
よかったよかった。
ぜーんぶ夢だ。
セクハラまがいの質問責めをしてくるサイコロリなんていなかったんだよ!
フハハハハ……。
心の奥で乾いた笑いをしていると首にぢくりと痛みが走った。
手を当てると小さなガーゼが貼ってある。予防接種の後に貼られるやつだ……。
……。
はい、分かってましたよ。
夢じゃないんでしょ夢じゃ!
ベッドから足を下ろすと猫の顔がついたスリッパが丁寧に並べて置いてあったので素直に使うことにする。
ベッドの周りは病院でよく見るサークル型のカーテンで仕切られており、俺はそれを恐る恐るめくってひょっこりと顔を出した。
「やあ、お目覚めだね?」
いきなり横から声を投げられ心臓が止まりそうになる
出たな元凶サイコロリめ……!
思わず悲鳴が喉の奥から飛び出しそうになるがその時気づいた。
「ッ……ァッ………ッ」
声が出ない。
「ふんふん。声が出ないかね? なるほど君の場合はそうなんだね? まあ、心配することはないぜ〜。すぐに声は出るようになるさ〜。きっと優先度が低かったんだろ。君は実際喋るよりも頭の中で喋ってる割合の方が高いようだからね?」
そう言いながら手元のバインダーに何か書き留めている。
声が出ないことにも驚いたが部屋を観察してみて気づいた。
ここ、化学準備室だ。
よくよく見れば倒れた椅子と無造作に放られたロープも部屋の隅に追いやられている。
俺、校内で監禁されてたんか。
「ふんふん。そうともここは我輩の根城さ〜。仮眠用のスペースは自分で用意したがね? 猫ちゃんの布団かわいかったろ?」
ここが化学準備室だって言うなら話は早い。
俺は! 実家に! 帰らせてもらいますからねッ!
「まあ、ちょっと待ちたまえ?」
ぴっ、と敬礼をしスタスタとこの場を去ろうとするが首根っこを掴まれて止められる。
「君、今の状況を理解しているのかな?」
状況を理解だと?
そんなもん十分にしてるわい! と伝えたかったがなにぶん声が出ない。
何か書くもんはないか?
お、ホワイトボードがあるじゃんか。
俺はホワイトボードに駆け寄ると大きな文字でこう書いた。
『俺はサイコなロリ少女に拉致監禁された上、人体実験された哀れな少年です
!!!』
どうだ、とばかりに書き終わったホワイトボードをバンバン叩いて主張する。
「ふふん。概ね認識は合っているが〜、2点ほど間違いがあるぜ〜。今の我輩は先生だ。生徒の答えを添削するのも我輩の役目なのだね」
ススス、と近寄ってきたサイコロリが俺の手からマーカーを奪い取る。
そして、キュッキュと2箇所を消した上で新たな言葉を書き足した。
『 “私” はサイコなロリ少女に拉致監禁された上、人体実験された哀れな “少女” です!!!』
へあっ?
なにを言ってるんだこのサイコロリ。
俺が阿呆面を晒しているとマーカーを手にしたサイコロリが、こちらに向き直ってゆっくりと近づいてきた。
「まあ、気づかないのも無理はないさ〜。ここでひとつ認識を正す必要があるようだね?」
そう言うとサイコロリは俺に向かって抱きつくように体重を預けてきた。
あ、ふわっとシャンプーのいい香り……。
なんて思いながら、足に力が入らず尻餅をついてしまう。
そんな俺に覆いかぶさるようにしてサイコロリは全身をチェックするように弄ってくる。
「うん、なかなか良好な変化だね?こっちはお任せだったけど感度はどうかな?」
サイコロリは俺の胸元に指を這わせそのままくりくりといじり始める。
摘んでみたり転がしてみたり周囲にぐるっと指を這わせてみたり……。
どこをって?
言わせんな、強いて言うなら頂点部分だよ!
「ッ……ンァッ。!?」
自分から出た声に驚く。
微かな声だったが高くてまるで自分の声じゃないように感じる。
てか、なんで俺は喘いでんだよ!
おかしいだろ!
俺は誓ってそっちの趣味はねえし、開発だってされてねえからな!
クリクリ イジイジ ツマミッ サワサワサワ~
ねえ、長くないですか?
サイコロリ?
ちょっとそろそろやめてくれません?
正直なところさっきから、背中の方がゾワゾワして、気持ちいいのか気持ち悪いのかわからない状態なんですよ!
……あれ、サイコロリさん?
目がマジになってません?
ちょっとちょっと!
アンタへらへらしてないと怖ぇーんだよ!
無表情で一心に弄るな!
おい、まずいって!
ねえ!
俺、目覚めちゃうよ!
新しい扉開けて、新しい自分に出会っちゃうよ!
出会っちゃうってええええええええ!!
「ふむん、感度は良好」
ペロリと舌舐めずりしながらまたバインダーにカリカリと書き込む。
その表情は何かをやり切ったような満足感に溢れていた。
そんなサイコロリを尻目に俺は放心状態で白目を剥いている。
恐らく見るに耐えない表情になっていることだろう。
俺、汚されちゃったよぉ……。
自分の新たな可能性見つけちゃったよぉ……。
父さん、母さん、俺はもう後戻りは出来ないのかもしれません。
親不孝な息子を……お許しください……!
朝からなに書いてんだ……?
感想評価よろしくお願いします。