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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第三章 「虫食われた国と未来を見るエルフ」
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60話 希望覚醒

 シンシヤは手に持った剣で倒れているケンタの喉を突き刺そうとしていた。


「――何やってんだバカ野郎!!」


 オックスを気絶させた俺は、それを見過せる訳も無く、無策でその剣先へと向かう。

 その結果、シンシヤの剣によって自身の肩を刺されてしまう始末。

 それでも立つことができた俺は、牽制として赤辣を打とうとシンシヤへ向けるが、難無く身を引くことで躱されてしまった。その後、シンシヤは俺から距離を取る。


「ケンタ! 勝手にやられてんじゃねえ!!」


 俺がケンタに気を取られてしまっている間にシンシヤは魔法を行使していた。

 ただの光弾に思えたが、痺れを引き起こしていた。

 魔法によって、俺は地面に膝を付いてしまう。


 しまった、また小技みたいな魔法を!


 その隙に俺へと向かってくるシンシヤは剣を突き立てて俺を刺そうと殺気を示すような鋭い目つきをしていた。

 俺は笑う。シンシヤが剣を刺しに来るという事は、俺の赤辣の有効範囲にシンシヤが入る事を指すからだ。


 これでやっと一発入れられる!!


 そう思った俺は片足を下げて腰を低くし、拳で赤辣の準備をしていく。

 その瞬間、俺の肩に切り込みが入った。


「いっ!?」


 俺へまだ辿り着いていなかったはずのシンシヤは、俺のすぐ目の前で剣で俺の左肩を斬りつけていた。


「しゅ、瞬間移動……?」

「残念、幻術です」

「っ!!」

「誰が、民間人を操っていると思っていたのですか? それを可能にしていたのが、私の幻術という事ですよ。

 勇者候補さんを倒せば、貴方に攻撃を当てる事ができるのは容易に推測する事ができました。勇者であれば、先程後輩と言っていたように勇者候補を見過ごす訳は無い。

 しかし、まさか幻術に対して全く無防備とは…………ある意味驚かされました。もっと色んな魔法を用意していたのですが、残念です」

「誰だ!!」


 ケンタが起きたようで後ろでケンタの声がした。


「……な、なんだよコレ…………何が起きてんだよ!!」


 ケンタは俺の有様を見たようで困惑していたようだった。


「貴方のせいですよ、勇者候補さん。貴方を庇って勇者バロウは死ぬのです」


 シンシヤは俺を突き刺す為に剣を振り上げる。

 俺は、それに対しての防御策を持っていない。完全な俺たちの負け――そうとしか考えられなかった。


 バロウが死ぬ……? 俺のせいで…………――





『こっちも準備はできてる、英雄になる準備ならとっくにな!』

『仕方ないから、この波に乗ってやるよ』

『マジ……?』

『役者が違うぜ? 白服のお二人さん。こっちは元勇者と勇者候補、誰が相手でもぶっ飛ばしてやるよ』

『そうだよ。いずれ勇者となり、この世界を救う者だ!』

『二対一をやるってカッコつけた割にかなりやられてたじゃんか。それじゃあ安心して見ていられないね』

『おい! 名を改めてもらおうか。俺の名は大山健太、世界最強の異世界人(よそもの)だ!!』


 あんだけ言葉を並べておいて…………俺は、誰も守れねえのかよ! 誰の英雄にもなれねーのかよっ!! 逆に殺されちまうんじゃんか……。この! 使えない! クソ野郎がァッ!!

 ……クソ……野郎…………。


 ケンタは俯き、涙を地面に零す。

 その時、地面に落ちた涙の雫が地面に波紋を投げかけ、時が止まったかのようにケンタは何も聞こえず、何も感じなくなった。


 ――あれ?


 ケンタは顔を上げると、シンシヤが剣を振り上げて止まっているのが見えた。

 先程まで聞こえていた風の音、中央広場の方であった解放戦線の雄叫びのような騒ぎようなど、何も聞こえなくなってしまっていた。


「どうなってんだ、コレ?」


(君がしたい事は何かな?)


「へ?」


 ケンタはどこからともなく聞こえる安らぐような子供の声が脳内に響いたのを感じる。


「だ、誰だ……?」


(今、質問しているのは僕だよ。さぁ、君が今したい事を僕に教えてよ)


 何故かその声に対して、これ以上の反発や反論などの行為をする気力が湧かなかった。むしろ、どこか受け入れたいようなそんな感覚になり、すっと心からの意思が口から出てきていた。


「――英雄になりたい。

 ……ただの俺の身勝手な欲望だとか、皆に褒められたいとかそんなんじゃない。俺は皆を助けられる、希望を見出す事ができる存在になりたいんだ。だって、そしたらもう誰も悲しまずに、誰も心を折られずに済むだろ?

 俺は、確かに元の世界に帰りたいけど、だからって今目の前で戦っている、希望を見出す努力をしているこの国の人達やバロウの意志を放っておけるわけねーよ。

 だから、俺は皆の希望を見出す一歩を踏み出せるような存在(えいゆう)になりたいんだ!」


(そっか! じゃあ、僕の思っていたとおりで安心したよ。だから、僕が君に力を貸してあげる。でも、それは仮初の力、どんどん強くなって君が元の世界に帰るまでには僕を使いこなして見せてよ)


「……それってどういう事――」



◇◇◇



 シンシヤの剣が振り下ろされる。

 俺はもう死――


 次の瞬間、俺の目の前に閃光が走った。そう思った。


「《闕歩げっぽ示威じいかん》」


 それは――音も無く現れる。後ろにいたはずの、オーラが光り輝くケンタだった。

 ケンタの飛び蹴りがシンシヤの腹に命中し、シンシヤは剣を手離して城の壁の方に飛ばされていく。


 なんで、そんなに速く動けるんだ……? 魔法はケンタも使えないはずだぞ?


「もう誰も殺させねーし、もうヘマはしねェ!」


 ケンタの右手の甲に紋章が刻まれていた。



「(希望(エスペランサ)覚醒)」



「ケンタが、希望の紋章の宿り主なのか!!」


 俺は、目の前にいる神々しく輝るケンタをただ見上げていた。



◇◇◇



 サーナタン王国王城二階、ここではロゼとヴィスカが睨み合っていた。


「イドラ、まさかアンタが反乱みたいな無理難題の面倒事を起こすとは思わなかった。どんな風の吹き回し? あれだけ任務に忠実だったアンタが、あれだけ何も感じずに任務を熟すだけのロボットだったアンタが……」

「任務で色々あったのよ。そんな事より、さっさとわたしを上へ通してくれないかしら? それと、わたしの仲間に手を出さないで!」


 ロゼの答えにヴィスカは堪えられずに笑い出す。


「プハッ! 仲間? アンタのどこからそんな言葉が出るのよ? 任務で一緒になった誰かが死んでも、目もくれずに任務だけを考えていたアンタが……笑わせてくれる。

 クククッ、ふざけんじゃないよ!! 鈍り腐ったもんだなー! 仲間なんて反吐、ヘボ! そんなものがいるから腕が鈍って色んなものを失うんだぁ! そんなものが何の助けになる? 足手纏いなだけだろーが! 少し前のアンタからはそんななまくら言葉、言わせようとしても言わなかっただろうよ!!

 思い出させてやるよ、仲間なんか作ったから……アンタはウチに負けるのさ!!」

「…………」


 ヴィスカは両袖からナイフを取り出し、胸の前で構える。その武器、戦闘スタイルはロゼと似て非なる物だった。

 ヴィスカは、ロゼ目掛けて飛び出した。その途中、足を地面に付け跳び上がり、宙を舞う。そのままロゼの背後へと降り立った。

 ロゼはそれを見て、前方へと走る。

 しかし、ヴィスカは地面に足を付くと同時にロゼへ向かって行く。


 こっちは武器無し……魔法無し……体術のみ!


 ロゼは体を反転させ、ヴィスカのナイフの向かう方向ベクトルを見る。

 ヴィスカがロゼの額に突き刺そうとするのを、ロゼは紙一重で後ろ体重にし、髪を掠めるだけに抑えた。

 しかし、ヴィスカの猛攻は続く。一撃でダメなら二撃、二撃でダメなら三撃目と躱して行くロゼに対して、当たり前のようにすぐさま対応していった。


「アンタは、魔法も武器もない! 腕が鈍ったアンタじゃ、ウチの攻撃をまともに受けて生きていられる訳が無い! このままじゃ、死んで終わりだぞイドラ! もう一度、同じ奴隷にして貰え! アンタという人材がいなくなれば、この世の損害である事は明らかだ!! もう一度自分の道を見つめ直せ!!」

「――嫌!」

「何故だ! なんで……っ――死ぬんだぞ!!?

 例え奴隷だとしても、生きていなければ何も変えることができない、生きなきゃ復讐も、夢も何も追えぬままこの世に生きた証を残す事ができないぞ! これでいいのかイドラァ!!」


 どんどん速度が上がっていくヴィスカに対応が追い付かず、ロゼは腕や脹脛、頬に傷ができていた。


「わたしも仲間だから!

 この国を救うのが目的、タナテルを、この国の人達を助けるのが目的、バロウをサポートするのが目的、――シュクリンゼルをぶっ壊すのが目的!! 色んなもの背負ってんの!

 今、わたしが掌返しする理由もなければ、不利だからといって決意曲げる人間じゃ、もう無くなってんのよ!

 助けたいって、救いたいってアイツが言ってんのよ……! アイツがやりたい事を近くで助けたいってもう決めちゃってんのっ!! だから誰に何を言われても、ここを通ってわたしが背中押してあげるんだよ! 大切だから!!!」

「イドラ、アンタ誰かを――」


 その言葉で隙ができたヴィスカの腹にロゼの左拳が入った。


「っ――」


 イドラの目――…………。


「助けてもらって、それで終わりなんて――人生舐めてんじゃねーぞってヤツでしょうが!!」


 ロゼの蹴りがヴィスカの顎を捉えた。


「――……カハッ!」


 ヴィスカの体はロゼの蹴り上げによって、宙を進んだ。脳が震え、朦朧する意識の中でロゼを見ながら床へ倒れていく。

 ロゼは気付いていなかった。今、自分がミシネリアでバロウに起きた異変と同じことが起きている事を。

 ロゼの体は、光り輝いており、その状態でのヴィスカへの攻撃は威力を絶大なものとしていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……。

 むしろ、魔法が使えなくて良かったわ、アンタの十八番オハコも使えないって事だしね。

 それと、アンタは根っこの所が間違っているわよ。わたしは死なないし、この先の夢も叶えて見せる。その覚悟があって、わたしはバロウに賭けてるのよ。人生も、それ以外も」


 ロゼは倒れたヴィスカに背を向け、上層を目指して駆けだす。


 バロウを助ける、今わたしが一番近いんだから、もう勝手に先行くわよメノア、ポロ!

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