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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第二章 「新たな仲間と新しい旅路」
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41話 紋章との閑談

 俺は一人情報を得る為に新聞社を訪れた。新聞社はカマナンでもまぁまぁの賑わいがある大通りの一角に存在する為、外を見れば右往左往する民衆が窺える。

 新聞社ではだいたい一週間前の情報がほとんどだ。他の街からの情報がほとんどな為、それがこちらの街までやってくるのに時間が掛かる。近い街の情報ほど最近の情報が得られるが、この街でも王国から距離があるのでそれなりに時間が掛かってしまうのだ。


 俺は一週間分の新聞を購入してから窓口へ向かう。

 窓口では、情報通な役員から指定の情報が得られるから冒険者になる者には是非活用して欲しい場所だ。

 場所にもよるが、偶に偽の新聞社が存在するのでそれには気を付けた方がいいだろう。


 窓口へ来ると中で作業をしている役員を呼ぶ。


「すみません」

「はい」


 中から女性の役員が来て対応してくれる。落ち着いた感じで話がしやすそうだった。

 俺が知りたいのは、勇者一行の最近の動向だ。俺が抜けてからどういう方向へ進んでいるのか、生存状況なんかは分からないだろうが色々と気になってしまっていた。客観的に見れば俺は何も言わずに姿を消したという事になっているから、その後どうなっているのかかが知りたかったのだ。


「勇者パーティの動向について最近の情報は入っていますか?」

「勇者パーティですね。えーと――3日前に入った情報では、やっとマントラ橋を解放できたとか。ここのところの情報の状況を見ると、あまり進捗はよろしく無いようです……。

 つかぬ事をお聞きいたしますが――」


 女性の目の色が変わった瞬間を俺は見た。


「あ、あー……すみません、良く分かりましたのでこれで失礼します!」


 その先に聞かれる事は想像ができたのでここら辺で出ることにし、慌てて手で顔を覆い別れの言葉を残してその場を後にする。

 情報を得るのも俺では一苦労だ、次は誰かにやって貰ったほうがいいな。しかし新聞も買えたし、宿に戻ってこれで情報収集とするか。

 寂しい帰路に肩を落とすも俺は1人、いつも以上に冷えて感じる風の中で宿に戻る事にした。



◇◇◇



 宿に戻るとベッドに新聞を散らばせ、情報の確認を始める。

 新聞に書かれていたのはほとんど帝国の情報だった。偉い学者が魔法の属性の記述を更に細分化させた事や、帝国の地下にいてゲルシュリウム研究所の生き残りの死体が見つかったとか。はっきり言って俺はこんな情報を欲しいと思ってないから、暇だからつい読んでしまったという感じだった。

 勇者に関しては、窓口の女性に聞いたこと以外ほとんど書かれていなかった。なんでも一カ月奪還できなかったマントラ橋を、長い戦いの末でようやくアミスの功績でなんとか奪還できたと書かれてあった。それだけ敵も強くなっているのだろうと想像はできるが、これ以上俺が知る必要があるのかというところが引っ掛かっている。

 もう俺にはほとんど関係ない事なのだ。知る事で俺の足が鈍るようでは意味がない。


 俺はシュクリンゼルを倒した後、どうするのだろうか。またメノアと二人の生活に戻るのか? いや、今はポロも一緒だし……シュクリンゼルを倒した後にロゼがどうするのかのも気になる。それ次第で俺たちの未来が変わるってところか?


(よう小僧、情報収集か?)


 この感じはあの戦いぶりだろうか、どこからか声が聞こえてくる。


「紋章か? 今まで何やってたんだよ、結構呼んでたんだぞ?」


(小僧に力を馴染むよう働きかけていたのさ。その最中は、オレの意識を小僧に届けられなかったようだな。

 それに、そんなに独り言を続けなくても頭の中でオレに意識を届けれらるぞ。独り言を叫んでいて笑えるが、恥ずかしくはないのか?)


 それは早く言って欲しかった。他に人がいたら恥ずかしいなんてものでは済まなかったぞ……!!


(――力を馴染むようってのは?)

(小僧……昨日力を1パーセントではなく、5パーセントで使ったな)

(あ? まぁ、全身に力を使うには1パーセントでは難しかったからな。5パーセントにしたら上手くいったって感じだった)

(1カ月前にそれをやっていたら、今頃小僧の体はバラバラになっていただろうな)

(な、なんで……!?)

(それは前に言っただろう、今の小僧ではまだ扱いきれない力なんだ。これまでオレが小僧の体に力が馴染むように働きかけていたから昨日は5パーセントの力を使っても体がバラバラにならなかったということだな)

(そ、そうなのか……礼を言った方がいいのか?)

(そんなものはいらん、オレがしたいことをしているだけだしな。だが注意しろ、今でも5パーセントを超える力はさっき言ったようになりかねないからな)

(気を付ける……。それで、あとどのくらいで完全な力を使えるようになるんだ?)

(半年は必要だが、来月には10パーセント、再来月には30パーセントくらいは使っても体がバラバラにならないようにくらいはしてやれるはずだ)

(半年ね……了解)


 それにしても、以前の俺はよく気にせず力を使えていたな。

 たぶんあれと今とじゃ色々と別個なのかもしれない。使い方も紋章から得る印象も前とは全然違う。前は自分の力というかあまり意識しないものだったが、今は俺の力とはまた別に思える。


(戦うのなら、できるだけ待つことを薦める。組織というのは人が多い、人が多いとそれだけ強い奴がいる可能性が高くなる。今の小僧はまだ万全な状態ではないからな)

(分かってるよ……。そうだ、昨日戦ったヤマタノオロチが何故こんな場所にいたのか、お前知らないか?)

(ああ、あの出来損ないのことか)

(出来損ない?)

(あれはヤマタノオロチの紛い物――いわゆるコピーのようなものだ、本物ではない。あんなものに勝ったからと言って調子に乗るなよ小僧)

(どういう意味だ?)

(本物であれば、あんなものではない。地下型のダンジョンに居座るわけはないのが一つ、あんなに小さいわけがないというのが二つ、あんなに弱いわけはないという三つが理由だ。そもそも伝説級レジェンドクラスの魔物はダンジョンに常駐しないどころか寄り付きもしないだろう。生態系が変わってしまうからな。あいつらも結構そういうところには気を使う)

(…………俺たち、その出来損ないに死にかけたんだけど?)

(それは小僧が弱いからだろう、昔はそう言っていたではないか)

(そういう考えはやめたんだよ……)

(そうか。まぁいいが、コピーなんて芸当ができるのには心当たりがある。小僧も薄々気づいているのだろうが、それで当たっているだろう。ゲルシュリウム研究所の者が絡んでいると見て、まず間違いないな)


 やっぱりか。ダンジョンの異変といい、不可思議な部分が多かったからミシネリアで起きたダンジョン事件を思い出していたからな。


(じゃあこの鍵は――)


 俺は鞄からダンジョンの宝箱にあった不思議な形の鍵を取り出した。


(九分九厘、研究所関係の鍵だろうな)

(このカタナとかいう武器も関係あるのか?)


 俺はベッドの上に置いた、昨日ポロに鑑定してもらった細い剣のような武器を眺める。


(ゲルシュリウム研究所でこのような武器を製造していたというのは聞いたことがない。オレでもこれだけは謎だな)

(そっか……。それでも研究所の事が確信に替えられたから良かったよ。ありがとうな、えっとー……紋章?)

(オレに名前はないぞ)

(そういえば、前の勇者とも話してたんだよな? なんて呼ばれてたんだよ?)

(ん? そうだな、あいつはオレのことを相棒と呼んでいた)

(それじゃあ固有名詞にならないな。じゃあ、俺が名前つけてやるよ。紋章じゃ呼びづらいしな)

(別に構わないが……)

(じゃあ、勇気の紋章だから……うーん…………適当にユウで!)

(て、適当か……)

(これからよろしくな、ユウ!)

(あ、ああ……)


 紋章って言ってもなかなか話しが判る奴じゃないか。これからもサポートしてもらえれば、メノアや皆を守りやすくなる。

 前の勇者の相棒ね……俺ともそうなれたらいいな。ユウ。

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