30話 ダンジョンは気味が悪い
俺たちは昨日、カマナンのギルドマスターからとある依頼を受けた。
それはダンジョンで見つけた未発見のルートの先に蔓延る魔物の掃除だった。Bクラスの魔物を確認し、俺が勇者と知って依頼してきたというわけだ。
こんな街の冒険者ではBクラスの魔物を倒すことは難しい、というか無理だろうから。
報酬も高額にすると言われ、俺はそれを了承した。メノアとロゼの意見は聞かずに。
メノアとロゼに依頼内容について説明すると、メノアには危険と言われた。俺に紋章が戻ったといっても、未だ制御は紋章自体に任せきりでちゃんと扱えるか疑問であるのが理由に挙げられる。
しかし、ロゼは別にいいと言ってくれた。俺の力の制御も実践で培われるから、それをするのにも今回の依頼は好都合ということらしい。
なにより今回はメノアと2人きりではなく、俺を含め4人のパーティだ。
俺の説得を了承したメノアは俺に危ない事はしないと条件を付けてきた。
その日はそんな大事な依頼を受ける予定はしていなかったので、準備期間とした。俺の武器も鉄製の剣一本では心許ないし、ロゼにおいては武器をもっていない。俺から盗った短剣も前回の戦いで壊してしまったらしい。
ポロは武器を必要としない魔法重視の戦闘スタイルをしているが、魔力の素となる食べ物は持っていった方がいいだろうから、簡単な食べ物を買いに行った。
メノアには前にゾアスが持っていたような小さい盾を提案した。小さい盾ならばメノアの俊敏な動きに差し支えなく、防御魔法を使うこともないと思ったからだ。
この日はそんなこんなで装備を一新した俺たちは、明日のダンジョン探索へ向けてカマナンの宿で過ごすことにした。
次の日――。
俺たちは目的のダンジョンへと来ることになった。カマナンから徒歩で一時間掛からない程度の割と近い場所だ。
今回のダンジョンは地下型のダンジョンだ。
地上にあるのは昔敵を見張る塔として使用されていたらしく、古びて所々崩れてはいるが、味のある雰囲気を醸し出している。
中に入り、抜けた穴から階段を降りるとそこがダンジョンになっているらしい。
「……不気味…………」
俺は、ロゼが弱気なのが気になった。
「なんだ、ロゼはこういう場所は苦手なのか?」
「ち、違うわよ……。
でも、何度来てもこういう所は好きになれないってだけ」
……ロゼの言いたいことは分かる気がする。ダンジョンに入る前はいつも冷たい風が中から吹き抜け、多分これがそう思う原因なのだろう。
「ダンジョンってどこもこういう感じだと思うけど、別に好きになる人はいないと思うよ?」
「いえ、そういうことじゃないけれど……まぁいいわ。さっさと入りましょう」
「そうだな」
早く終わらせて報酬を貰い、さっさとこの街からおさらばしよう。
昨日の準備を受け、全員の装備が少し変わっている。
俺は元々持っていた鉄の剣を1本増やして2本になっている。1本増やすだけなら安く済むと思い、こういう形にした。1本は折れても代替が利くし、2本持ちでの戦闘もできるから。
メノアは俺の提案を受け入れて、小さめの盾を購入していた。兄として妹の身を案じるのは当然のことで、少しは足しになるだろうから受け入れてくれて良かったと思う。
ロゼは短剣より少し長いナイフを購入していた。前に使ったことがあって、使いやすいらしい。
ポロには少し資金の面で協力してもらった。流石に俺の持っていた金だけでは足りなかったから、ポロは素手でも十分強いからそのままということで……。
「マスター、ポロが前を行きましょうか?」
「いや、最初は俺が行く。罠があれば俺の方が対処できるからな」
ダンジョンには偶に罠が仕掛けられている場合がある。そういう場所は十中八九、ボスが弱いから逆に助かる気はするのだが……。
俺たちは俺を先頭に階段を下りていった。
階段は足音などの音が反響し、それら1つ1つが鬱陶しく感じる。まるで、帝国にあったお化け屋敷にでも入っている気分だ。
「お兄ちゃん、この依頼が終わったらどうするの?」
「そういえば、どこへ行くとかってちゃんと決めてたの?」
「……言ってなかったか?」
メノアの一言で俺が皆に目的地を知らせていない事を思い出す。
「街から出る、しか言ってなかったわね……」
「ポロは、どこへでもマスターに付いていくのです!」
ロゼの言う通り、確かにミシネリアを出る時に街を出るってしか言ってなかった気がするな……。
「なんというか、今更だな……」
「わたしも今気づいたけど、ちゃんとパーティになったんだし知っておかなくちゃいけないんじゃない?」
メノアの意見がもっともだと思った俺は皆で階段を下りながら話し出す。
「そうだな。俺としてはまだシュクリンゼルの奴らと対峙するのは早いとは思うが、動向くらいは知っておきたかった。
ロゼならそれを知る手がかりがあると思って聞こうとしていたんだが……モノから依頼受けて忘れてたな」
「わたしの情報はあまり期待しないでよね、今のわたしは死人として認識されているはずよ。契約していたゾオラキュールの牙の2人も死んでるし、同様にわたしも死んでいるものと思っているはずだわ。
シュクリンゼルからは一方的な連絡しか来なかったし、わたしの居場所も知らないようじゃ連絡してくる手段もないでしょうね」
「でも、お前って奴隷紋があるって言ってたよな。奴隷紋は契約者と繋がりがあるからそれで探られたら分かるんじゃないか?」
俺の考えを聞いて、後ろにいたロゼは呆れながらに返答を返してくる。
「アンタ、何も知らないのね……。
奴隷紋と言っても万能じゃないの。命令を受ければ、それを拒絶することはできないけれど……わたしを探すということも、ある程度わたしに近い位置に契約者自身がいないとできないのよ。
わたしは派遣で帝国付近から来ているからあっちとは距離があるし、まずここなら見つかることはないはずよ」
「……そうなのか。でも見つかっても怯えることはないぞ、今お前は1人じゃないからな」
「……バカ」
「ん? 何か言ったか?」
俺はロゼが何か呟いた気がして立ち止まって振り返る。
すると、それに気づかなかったすぐ後ろにいたロゼが俺のすぐ目の前にいた。ロゼはそれに驚いて躓いてしまう。
「きゃっ!」
俺は倒れそうになるロゼをなんとか腕で支えることができた。
「大丈夫か? 危ないからちゃんと前を見ろよな」
「……ううう、うっさい! アンタが止まらなければこうならなかったわよ!!」
ロゼはキツイビンタを俺にぶちかまして、先を行ってしまう。
「え、え? 悪いの俺!?」
「お兄ちゃん……」
「マスターを攻撃するとはいい度胸していますね! わたしがお返ししましょうかマスター?」
「いや、いいって」
……ロゼは今ので怒るのか、気を付けないとな。
◇◇◇
ダンジョンに入ってからは続々と魔物と遭遇した。といってもモノが言っていたBクラスの魔物ではなく、G~Dクラスの下級魔物ばかりで張り合いが全くなく、修行にはならなかった。
鬼のような顔つきをしたゴブリン。頭と足は狼、体は人間というコボルト。デカいコウモリの群れであるバットバット。正直単体ではなんの恐怖も感じない。
「ゴブリンだとかコボルトばかりで全然余裕だね、お兄ちゃん」
「ここら辺はな。まだ『未発見のルート』には入っていない。
だが警戒は怠るなよ、道的には繋がっているんだ。そこから出てきていてもおかしくはないからな」
「けど、これだけ下級の魔物が出てきているし……それはないんじゃない?」
メノアの言わんとしていることは正しい。
普通自分より格上の魔物がいれば、大人しくしているか、殺されているはずだ。
それがこれだけいて、未だ活発に活動しているとなると――道自体は繋がっているが、Bクラスの魔物はこちらに出てきていないということになりそうだが……。
「大丈夫ですよマスター! ポロがいれば百人力というところをお見せするのです!!」
ポロはさっきから積極的に前に出て、出てくる下級魔物達を魔法も使わず素手で倒している。
人造人間は接近戦においても学習が進んでいるらしく、俺も紋章の力を使わないと負けてしまうかもしれないと思うほどだ。
「あの子やるわね。小さいから甘く見ていたけれど……あれだけ動いて疲れないのは本当にすごいと思うわ」
人造人間って疲れるのか?
「大きいお胸のお姉さんに褒められると、なんだがこそばゆいのでやめて欲しいのです……。
マスターはもっと褒めてください! なんでしたら、キスなんかしてくれるとよりパワーアップするのです!」
「あ、あの子は……褒めてやっても、やっぱり可愛くないわ!」
「あはははは……」
「ポロ、あまり無理はするなよ」
「はいなのですっ!」
そう言いながら、俺たちの手を煩わせずにポロは黙々と行く手を阻むゴブリンやコボルト、バットバット等を倒していく。
ここまで罠は見られなかったし、その心配は薄くなってきたが、それでもこのダンジョン自体は何かおかしい感じがするからしっかり警戒しないといけないだろう。
ポロのことは俺がしっかり見ておいてやらないとな。
◇◇◇
ダンジョンに潜って一時間程した頃だろうか、やっと目的の未発見ルートの場所に辿り着いた。
ここまで階段を下り続けたが、特に魔物に変化は見られなかった。もしかしたら俺の感が当たっているかもしれないと思いながら、その道へ足を踏み入れる。
すると、さっきまでの道は嘘のようにフロアが暑く感じた。
「なんか、暑くなってない?」
「うん……大丈夫お兄ちゃん?」
「俺は平気だ。だが、暑くなるなんてことは聞いていなかったはず……どうなっているんだ?」
「おそらく、ここにいる魔物の生きやすい環境なのではないでしょうか。だからさっきまでいたフロアにはここの魔物が出てきていなかった……」
「そういうこと?」
俺もポロの意見に賛成だ。魔物でも生きやすい環境に身を留めるのは習性と言ってもいいほどあたりまえのことだからな。
「じゃあ行くぞ、離れるな。情報どおりならここからは格段に敵が強くなるからな」
「はいなのです!」
「了解、お兄ちゃん!」
「分かってるわよ」
俺たちは4人でダンジョンの未発見ルートを進んでいく。
少し広いフロアに出ると、情報にあったミノタウロスが徘徊していた。それを確認した俺たちは、見つからないように一度身を隠す。
「とりあえず、Bクラスの魔物が出るというのは本当だったようね」
「ああ……。最初は俺とメノアで仕掛ける。様子見をするにも、リーチが長い俺とメノアの方がいいだろうからな。
ロゼは俺たちのサポート、ポロはとりあえず待機で俺の命令を待て」
「「了解」」
「了解なのです…………」
ポロは少し残念そうだった。
一人だけ待機というのに不満だったのだろうが、ポロの独断で魔法をぶっ放されればフロアが崩れる危険性もあるから仕方ない。とりあえずここは気を落とさないようにフォローしよう。
「ポロには魔力を温存してもらおうと思ったんだ、後で活躍してもらうし、今回まったく出番がないとは言い切れないから準備だけはしておけ」
「――はい!」
一転して元気に拳を握ってみせるポロ
納得してくれたみたいでよかった。
「よし、行くぞメノア」
「うん!」
俺とメノアは共に前に足を踏み出した。




