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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第六章 「嚮後占う絢爛な花婿争奪戦」
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閑話:渡り人のクリスマス?(3)

 あの後、なかなかの深さのある所まで落ちてしまったが、そこで俺たちは当初の目的であった『宝』を見つけた、と思う。

 お古な木製の宝箱に入っており、中に日記のような物もあって、それを見るとやはりフェルが言っていた逃亡者の物である事がわかった。

 ひとまず、ダンジョンの中では調べもしにくいということで、俺たちはフェルの屋敷まで戻ってきた。

 フェルは俺の服の汚れ具合を見て全て察したかのように嘲笑を浮かべていた。

 更には第一声に「宝は?」とまるで見つける事が当然かのような口ぶりに、俺は少しイラっとした。

 宝箱の中にあった物は、帰るまでに皆が粗方調べてくれた――というか、興味津々に漁っていたので、大体どんな物なのかはわかっている。

 なので、その説明を他の皆に依頼した。俺は帰り道がカナリをおぶりながらだったので、結構疲れるものがあった。そういう意味で、ラムはずっと元気で凄いと関心している。

 俺は応接間のソファーで一人横になり疲れを取ろうと思っていたが、意外にもフェルが早々と戻ってきた。


「かなり大変だったようだな。貴様ならば簡単に片が付くと思っていたのだが、想像と違ったらしいな」

「ほんとだぜ、お前のせいで偶の休みがなくなってんだぞ。もっと功労者を労わったらどうなんだ?」

「なんだ、アタシの裸を見たいのか? そんなにアタシの体が見れなかったのが残念で仕方なかったのか?」

「言ってねーだろ、そんな事! ったく……お前は意味が分からないタイミングで色々とぶっ飛んでいくよな……」

「まあそうひねくれるな。アタシと貴様の仲じゃないか、少しくらい冗談を言わせてくれ。貴族間じゃこういう洒落は受け付けて貰えなくてな、つい貴様の前でははしゃいでしまう。子供に戻ってしまいたいという欲が顔を出してしまうのは、貴様といるこの空間を大事に思ってこそなのだ。だから、許容してくれ」

「そういう口が上手いのはお前の武器だよな。ずるいぞ」

「ふっ、そうだな。

 ところで、先程アタシも礼の宝というものを見てきた。あれは軒並み素晴らしいものだ。関心させられたよ」

「結局どんなもんだったんだ? 色々入ってるとか言ってたけど、あいつ等俺には全然教えてくれなかったんだよな……」


 妙に楽しそうというか、なんか企んでいたような気がするのは気のせいだろうか。

 特にメノアの奴なんか目を輝かせて……悪い予感しかしない。


「ふっ、さあな?」


 こいつ、知ってるくせに教える気ないだろ!


「まあ、ヒアルーデ独立国の代理人が最後に残した遺品は全てこちらで預かり、後日弔うことになる。そこはアタシに任せてくれ。とはいえ、金目の物はなかったようだ。思い出の品を大切に保管した形だな。

 どうやら生前はかなり酷い目に遭ったようだ。恨み辛みが日記に書かれていたが、なにより恩人への感謝が綴られていてな。誠実な人だっただけに、ダンジョン内で息を引き取ったらしいのが残念だ」

「けど、遺骨はなかったんだよな……まあ宝箱の中に物だけ残して別の場所で死んだ可能性もなくはないが、ダンジョンから出た可能性だってなくはないと思うぞ?」

「いや、ダンジョン内であれば魔物が徘徊する。おおむね、長い年月でバラバラにされたか小型の魔物の巣作りにされたか……詳細はわからんがな。大事な物だけを残して、その場を離れるという線は薄い。ダンジョン内で死んだ者の骨が何年も残るケースは少ない、おそらくその場に遺骨もあったのだろう、何百年も前にな」

「そうか……」

「アタシは、この国をヒアルーデのようにはしない。必ず発展させてみせる。同じような者を生み出さない為にもな」


 フェルの表情から本気度が伝わってくる。本物の覚悟が垣間見えた気がした。


 ふと応接間の扉がガチャリと音を立てて開く。

 俺とフェルはその音に注意が向き、振り返った。


「おい、バロウ!」


 ケンタが俺を呼びに来た。

 ワクワクした浮かれ顔にちょっぴり不安を覚えるが、「来い」と言うので仕方なく案内されながらフェルと共に広間を目指した。



◇◇◇



 広間に入ると、簡素な室内が色付いていた。

 キラキラした星が部屋中に浮き、なにやら観賞木に飾り付けがされている。

 フェルのメイドも一枚噛んでいるのか、まだ夕食時でもないのに合成な料理がテーブル一杯に並んでいた。

 すると、浮かれた調子で呪文のような声が飛んできた。


「メリクリ!」


 赤と白の面積の少ない服を着たラムがいた。

 他にも、メノアやロゼ、ポロにララにカナリまでもが似た赤と白の服を着用し、腰にはベルト、頭には赤い三角帽子があった。

 よく見れば、白い部分は綿のようだ。しかし、それぞれ服装に少し違う所がある。

 メノアとララは臍が出た上にスカートだが、ポロとラム、それとロゼは長袖に短パンのようだ。

 カナリだけはちょっと特殊で、上着がそのまま下を隠している。これは少し大きかったのか、それともそもそもがこういう服の造りなのか。しかしこれは、ちゃんと下を履いているのか、気になってもんもんとしてしまうな。

 どちらにせよ皆下が短いので太股が見えすぎていると思う。ブーツだったり、ソックスだったりで隠れてはいるが、目のやり場に困る。

 特にロゼはかなり艶めかしい。肩も出ているし、なにより胸元が開いていて谷間の主張が強い。もじもじとしながら自分の胸を持ちあげているのが、またあざとく思える。

 意外にも一番見ていて緊張しないのがザイファだった。そもそもザイファだけは他とは毛色が違う。赤白の恰好ではないし、どちらかといえば着ぐるみのようだ。頭には作り物の角が付いたカチューシャを着け、茶色の温かそうな服を上から下まで境目なく着ている。服が一着足りなくて、もしくは着れる服が無くてこうなってしまったのか。


「ちょっとー……ぼうっとしていないで、なんとか言ってあげな? メリクリ!」


 ラムがお腹の当たりを突いてきた。


「いや、なんとかっつってもな……まだ状況を理解できてないんだが。ていうかメリクリってなんだ?」

「ふうん? お兄さんもまだドーテー? こんなんでもドキドキする感じ?」


 ラムは、自分のスカートをヒラヒラと下着が見えるかどうかのギリギリをまたたかせる。

 なんの挑発か知らないが、俺は慌てて注意した。


「なにやってんだ! 簡単に男を煽るもんじゃねーぞ!?」

「お兄さんカワイ……てか、皆で写メとるべ! 忘れてたわ、つーかダメンズも早く来いし!」

「ダメンズって……つか、写真なんてどうやって取るんだよ……」


 ラムに呼ばれ、ミナミとガタキとカズナの三人が憂鬱そうにとぼとぼ出てきた。

 鼻に赤くて丸いものを着け、ザイファと同じような茶色の恰好に頭に角のような物を乗っけている。あれは何かを模しているのだろうか。


「ダハハハハハ! なんだよお前等、それ……トナカイって、今時の高校生がやる恰好じゃねーぞ!」

「やあば! めっちゃお似合いじゃん!」


 よくわからないが、ケンタはあの三人の恰好が面白いらしい。ラムと共に腹を抱えて笑っている。


「異世界の催しみたいだよ。一年に一度、こういう恰好をしたおじさんが夜な夜なプレゼントを渡してくれるんだって。

 ダンジョンで見つけた宝の中にアイテムボックスがあって、このサンタコス? って呼ばれてる服装があったから着てみたって感じかな。そこからラムちゃんがクリスマスやろうって事で、色々教えて貰いながら飾り付けしたんだ」

「楽しそうじゃないか、お前もノリノリだったんだろ。

 にしても、プレゼント? 親切な奴もいるもんだな。どんな金持ちか知らないが、王国でもそんな事したら破産しちまうだろ。ケンタの世界はかなり金銭面的に余裕があるみたいだな」

「そ、そうだね……」


 メノアが不満そうに明後日の方を向いた。

 こういう時のメノアは指導モードに入るものだが、今回はそうでもないらしい。顔を赤らめ、落ち着かない様子だ。

 長年妹の行動を見てきたが、何かを期待している時と同じような雰囲気だ。もはや指導を受けるのは卒業しなければいけないらしい。


「メノア、とても似合ってる。いつも思うが、メノアはどんな恰好でも似合ってしまうのではないかと関心させられるほどにスタイルも顔もいい。兄として、厄介な輩を警戒しなければいけないと思う程だ。ちょっと肌を出し過ぎな気がするぞ?」

「そ、そっかな……」


 メノアは体を小さくくねらせながら俯いてしまった。

 口角があがっていることから、まずまずの及第点は頂けたらしい。俺はそっと頭を撫でた。


「ちょっと……シスコンもいいけど、ちゃんと自分の女も見なさいよ!」


 ロゼが睨みを利かせてやってきた。

 俺は思わず目を合わせた瞬間に目を逸らしてしまった。

 流石の俺も、ロゼの恰好を目の前に不埒な事を考えないようにするには難しいものがある。不思議と体温が高まるのを感じていた。

 すると、ロゼは俺の胸倉を掴み、自分の顔に近づけた。


「こういう時、目を逸らさないようメノアに習わなかった!?」


 今のロゼはやけに積極的だ。さっきまで恥ずかしそうにしていたのに、俺が目を逸らしてから人が変わったように態度がいつものロゼに戻っている。

 自分の破壊力を知って欲しいものだが、俺はそれ以上抵抗しても意味がないと諦めることにした。俺の口からそれについて話すのは憚られ、理由付けができない。

 振り返ると、ロゼは誰の真似かは一目瞭然にスカートを瞬かせていた。

 自分がやっている事を理解しているのかいないのか、ピンク色の下着が俺の視点からばっちり見えてしまっている。さっきラムがやっていたのは高等な技術だったのかもしれない。ロゼにはまだ早いのは勿論だが、それを本人が気付いていない。恥ずかしそうにどこか窓の方を向きながらやっている。

 俺は他の視線に触れさせてはいけないと、咄嗟にスカートを押さえようとした。

 しかし、俺の力が強すぎたのか、スカートが下へとズレてしまい、逆に下着を露わとしてしまった。


「いや、あのこれは……ごめ――」


 次の瞬間、俺の頬に赤い手型ができた。

 ムスっとした表情の裏に羞恥心の宿るロゼは、それでもまだ俺の視界から退かなかった。むしろムキになったようで、俺からの言葉を貰うまでは許さないという布陣らしい。半分涙目に思えるが、これは俺のせいなので罪悪感が酷い。

 こんな時に何を言えばいいのか正解が判らない。それでも俺は、言葉を振り絞った。


「その……お前は……か、可愛い……んじゃないか?」


 ここまで来ると、この言葉が的確かどうかわからない。

 面と向かって言う事ができず、再び顔を背けるのは許して欲しかった。しかし、ロゼは許容という言葉を知らないらしい。


「ほんと?」


 上目遣いで再度言葉を要求してくる。自分でも心臓の音が高くなっていくのがわかる。


「今のお前が可愛くなかったら、この世に可愛い奴なんて誰一人だっていやしねーよ……」


 咄嗟に口から出た言葉だったが、我ながら恥ずかしいことを言ったかもしれない。

 反応を見ようと視線を戻せば、ロゼは俺の頬にキスをした。

 ドキッとしたが、彼女も口を歪ませ、顔を真っ赤にしている。


 恥ずかしい空気が流れると、雰囲気を壊すかのように駄々をこねるように呼び掛けられた。


「マースーターぁ! ポロは? ポロはどうなのです!?」


 ポロに子供のように腕を引っ張られる。

 まるで親の心境になったが、ポロも出番を待っていたらしい。

 すると逆側から、今度はカナリに引っ張られる。こっちは無言でやってくるので、どうすればいいかわからない。

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