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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第六章 「嚮後占う絢爛な花婿争奪戦」
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閑話:渡り人のクリスマス?(1)

 俺は、急にフェルに呼びつけられた。

 メイドを通して「来い」とたった一言が書かれた紙を渡され、憂鬱ゆううつになりながらもフェルの部屋を訪れることになった。

 フェルの部屋とは言っても、仕事部屋だ。初めて入るが、簡素なものだった。

 公爵といえば、自室には本棚があってそこに書物がびっしりと敷き詰められている、カナリの部屋を更に居たたまれなくしたような場所を想像していた。

 俺の想像とは違い、ソファーが一つあってその周りに杜撰ずさんにクッションが捨てられている。公爵というにはアレだが、フェルの部屋と考えればむしろしっくりくるといった具合だ。

 部屋に入ると、第一声に「遅い」と横柄おうへいな態度。

 こいつは俺をなんだと思っているのか……。

 いや、これはフェルなりの挨拶なのかもしれない。

 フェルはいつも忙しそうにしているので、食を共にすることもなく屋敷内でも顔を合わせるのも珍しい。冗談に興じようとするのも頷ける。

 案の定、俺のへの字顔を嘲笑する。


「なんなんだよ一体……」

「実は頼み事があってな。少々面倒事なのだが、貴様なら適任だろう?」

「俺を便利屋だとでも思ってんじゃないだろうな」

「思っているさ! なにを今更?」

「……はあ……。

 で、なんだよその頼み事ってのは?」

「話が早くて助かる。流石はバロウだな!」

「言っとくが、聞いたからってなんでもやるわけじゃないからな!」

「そうは言っても、結局やってくれるのだろう。それが貴様、バロウ・テラネイアという男の性だ。アタシはもう知っている」


 反論する事もできるが、結局言いくるめられるのが目に見えているので、それ以上の口出しはしなかった。俺はこいつに口で勝てる気がしないのだ。

 フェルに座るように言われてソファーに腰を下ろすと、後ろから何やら一冊の本を開いて出された。

 古い文献らしく、色褪いろあせた書物だ。途切れ途切れの線で絵が描かれている。

 城のような建物に見えるが、見たことが無い場所だ。これほど堂堂たる建造物ならば、どこかの国の城だと思われるが、どこのものとも合致しない。そもそも造りがどことなく変わっている気がする。

 城は大抵縦に長く高いものが多いが、この絵からするに横に長い。スリット王国やサーナタン王国の王城と比較すると高さは然程無いのではないかと思う。


「どこだよこれ、昔あったどっかの国の城か?」

「正解だ」

「俺は歴史とかはうといほうで、まったくわからないんだが。頼み事ってのは、これに関わるもんなのか? だったら、カナリか……」

「いや、頼まれて欲しいのはそれに関わるものだが、力仕事になりそうでな。

 それは昔ここ近辺にあったとされるヒアルーデ独立国なのだが、隣国に滅ぼされてな。滅ぼされる直前に国の宝をどこかのダンジョンに隠したらしいのだが、それが最近現れた北の密林にあるダンジョンなのではないかという噂が出回っているのだ」

「噂? お前、そんなもんを信じる方だったっけか? ていうか、俺に噂程度のもんの調査を頼むつもりかよ……。もし本当だったとしても、とっくに誰かに先越されてるんじゃないのか?」

「それは無いな。そのダンジョンは高難易度でな、Bクラスがごろごろいるらしい。なので並みの冒険者では太刀打ちできん。その点貴様ならば、仲間も含めて帝国冒険者以上の面々だろう?

 それにアタシ自身、実は信憑性の高い噂だと思っている。そのダンジョンは年単位で周期的に現れたり消えたりする性質を持つダンジョンで、ヒアルーデ独立国があったとされる場所から逃げるにはうってつけの道の途中にある。本当にダンジョンに隠すのであれば、あそこ以上無いと考えたわけだ」

「へえ……。宝って見つけたら貰っていいのか?」

「ああ、構わない。貴様の物はアタシの物だからな!」

「なんでだよ!? あ、いや、いい、言わなくていい……」


 もうこいつの口から「婚約者だから」という全てを収めてしまいそうな魔法の言葉を聞きたくない。


「ちなみにそのダンジョンは明日また消えてしまう。周期的に言えば、次現れるのは40年後だそうだ」

「40年後ね…………明日までで40年後!!?」

「だから今すぐ行って来てくれ、あ・な・た♪」


 マジかよ……。



◇◇◇



 俺は、仲間を連れてフェルの言っていたダンジョンへと足を向けた。

 場所を見つけるのはそれほど難しくなかった。というのも、三日前にダンジョンが現れてからすぐに近くの雑草や木々を切り倒して場所を判りやすくした者がいたようだ。冒険者関係の仕業しわざだろうが、当の冒険者達は徘徊はいかいする魔物が強く引き返したらしい。だが、おかげでダンジョン探しに一日潰すことはなくなった。

 俺がダンジョン攻略に連れてきたのは――

 メノア、ロゼ、ポロ、ザイファ、ケンタ、ラキウス、ラムの七人。

 ケンタは誘おうと思っていたが、宝と言う言葉にラキウスが反応を示した。まではまだよかったが、他の渡り人達でも盛り上がってしまい、

 流石に全員は連れていけないので、じゃんけんで代表者を決めて貰った。それで付いてくることになったのが、瀬戸楽夢ラム・セトだ。


「本当にその子も連れて行くのか……?」

「行くに決まってるっしょ! てか、お兄さんほぼ歳変わんなくない? 助け合っていくべ!」


 この子の感じ……今迄いなかったからちょっと距離感困るんだよな。大丈夫か?


「大丈夫だってバロウ。その為にラキウス連れてきたんだから」

「はあ? なんでオラがこんな女の子守りしなきゃいけないんだヨ。オラはもっとナイスバデーのボインネーチャンが好きな――」


 次の瞬間、鈍い音がしたかと思うと、ラキウスは股間を抑えながら崩れていく。

 背後から怒り心頭のラムに男の大事なところを蹴られていた。

 彼女の冷えた真顔はなんとも迫力がある。

 まあ、ラキウスはただの宝目当てだろうしな……。


「ま、まあ、そういうのはお兄ちゃんの役目でしょ!」

「そうね、戦力的にもわたしがいればなんとかなりそうだし。アンタはその子を守ってなさい」

「なっ!? マスター、ポロに任せてください! おっぱいには負けてられないのです……!」

「その呼び方やめてくれる!!?」


 またロゼとポロの睨み合いが始まった。

 ここで手まで出さなくなったのは、成長しているんだろうか。


「はあ……ロゼお姉様素敵すぎっす……」


 ラムは、ロゼの事を尊敬しているらしい。頼もしい言葉を言ってくれた彼女を尊そうに見つめている。

 しかし、それほど接点がなかったはずだ。俺は疑問に思ったことを世間話のように訊ねる。

 すると、彼女は夢現のようにとろけた表情で話し始めた。


「ラムはロゼが好きなのか?」

「当たり前っしょ。ロゼお姉様は素のパツキンじゃん。そんなの憧れすぎるっての。マジ神々(こうごう)しいっていうか神。顔も可愛いっていうか、めっちゃ愛でたい! 好き! アーシのアイドルでしだし!

 てか、男なら皆推すでしょ! ハスハスだってサクサクだって初めめっっっちゃ鼻の下伸ばしてたかんね。あんなん危険球つか、バリヤバに現実にいねーわ!

 つーかコレ現実か!? ヤァバ! ロゼお姉様以外マジチョー勝たんわ……!!

 ああ……あのパイに挟まれながら一生顔合わせてたいわー……それ捕まっか!」


 そう言って、ラムは楽しそうに俺の左腕を叩いてきた。

 微妙に意味が分からなかったが、要約すると尊敬に近い思いを抱いてるってことだよな?


 すると、服の袖を引っ張られた。

 俺たちが足を止めたのが待ちきれなかったのか、カナリが無表情に睨みつけてきている。

 カナリは普段ぐーたらだが、余計な事に時間を掛けたくない性分だ。


「ほら、お前等さっさと行くからちゃんと付いて来いよ!」

「弟君の言う通りよ! ちゃんとわたしたち夫婦に付いてきなさい!」


 ザイファはそう言いながら俺に腕を絡ませてくる。

 豊満な胸が当たり、俺は思わず息を呑んで慌ててしまう。すると、すかさずロゼが憤りを露わに詰め寄ってきた。


「なんでアンタが指揮ってんのよ!!?」


 全然足が進まない現状を憂いながら、矛盾するが、偶にはこういう日もあってもいいかもと心の中で思ってしまった。

 いつも切羽詰まった状況にいるからな……久しぶりにこういうワイワイした雰囲気が俺たちにも必要だ。

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