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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第六章 「嚮後占う絢爛な花婿争奪戦」
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276話 自分にはできない自己犠牲

 ミナミは、ドゴウと同じく笑っていた。


 血が沸き立つのがわかる……これが自分の限界を超える瞬間って奴か。いいねえ……! 死ぬかもしれないってのに、ワクワクするねえ……!!


「んじゃあ……ゴー!! 武具錬成――《妖刀ムラサメ》!!!」


 何も無いところからミナミの手に刀が出現する。

 おびただしいほどの黒い邪気を纏ったあやしい刀剣だった。

 乱雑に振るうのをドゴウは咄嗟に避ける。

 未知の武器だが、絶対に斬られてはいけないと本能が反射を促していた。

 次の瞬間、刀が振るわれた空間が抉られるようにして衝撃が流れた。まるで空間そのものを斬ったように亀裂が入る。


「ダメだこいつは……切れ味良すぎだぜ!!」


 もう一度振るわれたら堪らないとドゴウはすぐさま半身になり、そのまま体を反転させミナミの背後に回る。


「シールド!!」


 すると、ミナミとの間に見えない壁が現れた。

 どこからともなく聞こえた女性の詠唱。第三者による防御であることは明らかだった。

 しかし、その存在を見つけることが出来ない。

 いくら領域内が暗くとも、これだけの長い時間中で動いている。目が慣れていないはずはなく、少なくとも気配、呼吸音といった物音は出てしまうものだ。だが、それが全く感じられなかった。


 この領域………まさか!

 先程フクジョウジが目の前にいるのに気づかなかった。このミナミも……。

 俺の感覚が悪くなったわけではない! この領域は、単に亡者もうじゃで動きを制限するだけでなく、味方の気配を隠すことができるのか!!


 ドゴウはシールドを壊そうと拳を振るう。その一撃でシールドにひびが入った。


「どうしたミナミ! 仲間に守ってもらって俺に勝てるつもりか!!」


 その間にミナミは距離を取りつつ体制を立て直す。


 領域の能力に気づいたか。そりゃあ早く一人でも倒しておきたいよな……。だって、いつどこからオメエの首を狙ってくるかわからないもんな!!


「さあやろうぜ、命の削り合いをするんだろうが!!」

「くっ……!」


 ドゴウは、二撃目で透明な盾を完全に粉砕する。

 それでも、ミナミが既に体勢を直したことを理解してか、直ぐには飛び出さなかった。


 あの剣は厄介だ……直ぐに手放さなければ、扱ったことのない愚か者でも常人離れした力を放出する。それほどのプレッシャーを感じた。ミナミではなく、あの禍々しいオーラを持った剣にだ!

 闇市に偶にあんな武器が売り出されることがあるが、あんな年端も行かない少年が持っているなんてな……。

 この領域も今しがた厄介であることに気が付いた。浮遊している亡者がそれを隠す為のものなのではないかと思ってしまうほどだ。

 我々が殺しを行う時、闇に紛れ気付かれないよう細心の注意を払う。それは勿論場所や天気、風向きなどあらゆる状況を考慮する。しかし、この領域はそれを嘲笑うかのようだ。いつでもどこでも気づかれずに背後を取ることができる、まさに我々向きの能力だな。

 今はまだどこかに身を潜めて魔法でサポートをする程度だが、この闇の中にもう一人――俺を凌ぐ者がいたらと思うとぞっとするな。


「こないのか? だったら、こっちから行くぞ!!」


 ミナミは刀を腰に構えて前に出た。

 その所作一つ一つを注意しながら動きを見るドゴウ。


 先程俺が言った言葉をぬけぬけと……。

 武器は一級品だ。触れた瞬間に全てを持って行かれる闇の武具。

 しかしそれを扱う者は青二才。あの剣がどういう動きで俺の首を狙ってくるかが丸判りだ!


「フレア・ボール! ウッド・ゴーレム!」

「なっ……!」


 中くらいの炎の玉を放出したかと思えば、連続して木製ゴーレムを地面から生えさせる。

 ドゴウは、炎の玉を避けるも枝を伸ばしたゴーレムに捕まった。腕から肩を掴まれ、自分に引き寄せて両腕両脚を枝で縛り上げる。


「連続魔法では飽き足らず、土魔法に水魔法、火魔法に木魔法だと!!?」


 土魔法と木魔法はまだわかる……自然属性系統だ、類似属性を使う者はザラにいる。しかし、水属性と火属性は対極だ! ありえないとは思っていたが、こいつまさか全属性持ちか!!?

 まずい……動きを封じられた! あの剣で斬られたら――


「これで終わりだ――ッ!!!」


 ミナミが刀を振り上げドゴウに迫っていた。両手で持ち、跳び上がって袈裟斬けさぎりしようとしている。


「させるかぁあああああ!!! 爆炎海ばくえんかい!!」


 背中の木ゴーレムを焼き焦がし、炎の勢いでミナミを押し飛ばす。更には領域内全域を炎の海で支配した。

 ドゴウから流れ出す炎の波が周辺一帯を燃やしながら範囲を広げていった。

 そこにはカズナも紛れており、炎の波から逃れる事ができずに脚を焼かれる。


「うわぁ――――!!!」

「――そこかあッ!!」


 悲鳴に反応してドゴウが向かった先にカズナがいた。


「領域で身や小さな物音は隠すことはできても、先程から詠唱などの声だけは聞こえていた。悲鳴となれば――闇の中でもくっきりとわかる!! やっと捉えたぞ、お前の存在そのものを!!」


 ドゴウの拳がカズナの中段を突いた。

 続けざまに顔を乱打し、極め付けに胸部を蹴り押す。

 ものの数秒で意識を飛ばすほどの剛撃に耐えることができず、カズナの展開していた領域が効力を失う。

 天井から暗闇の空間が消えていった。


 闇がなくなり、光が入って見えるのは焼け野原となった市街地の街並みだった。

 更に、カズナ以外に二人、ミナミとラムが火傷を負って倒れていた。


「大人げないとは言うなよ、少年達。俺はあくまで敬意を持ってこの魔法を使った。お前達が俺を追い詰めた強者としてな!!」

「い……言い訳、がま……がましいんだよ、グラ、サン……。なあに勝った気になって……げほっ、げほっ……語っちまってんだよ!」


 ミナミは、刀を立てて立ち上がった。


「無理はするな、肺に火が入ったのだろう。その掠れた声では、もはや凄むこともできん」

「バアカ……うっせんだよ……」

「そうか、わからんか。そりゃあそうか、死ぬまでやる勝負。またもや俺はお前達に気付かされる、この体を止める事は愚弄する行為だった……!!」


 ドゴウは、地面を蹴ってミナミへと向かっていく。

 ミナミとラムの目が合った。

 その瞬間にラムは気付く。


 嘘……ハスハス、アーシの事庇う為にわざと挑発して……! 動けないのに無理矢理立ち上がって、少しでも時間稼ごうとしてんの!?


「来゛い……!!!」


 ハスハス、いつもそうじゃん。うわべだけなにもしてないみたいにカッコつけて、本当は裏で努力してんの知ってるし!

 こんな時でも、アーシより自分を犠牲にすんの!!?


「シールド!!」


 魔法を詠唱し効果が発動する――はずだった。

 しかし、魔法は発現せず、代わりに体がだるく視界が回った。

 ラムは、カズナとミナミの戦闘のサポートをしていたが、それと同時に四人間の伝達役も行っていた。

 領域内では少しの物音なら消せるが、離れた人と会話する程度の声は漏れてしまう。相手は戦闘を多く熟してきただろう経験者。声を漏らしてしまえば居場所がバレてしまう。

 支援役は特に狙われやすい。邪魔立ては時に功を奏し、勝敗を分ける事もある。それを邪魔に思って、標的を変える可能性は十分あり得た。

 その為、声以外の伝達が必要だった。

 ラムの魔法――テレパスはそれに打って付きだった。

 少し離れた人と脳内で会話できる無属性魔法。これが、それぞれの場所や作戦の共有を行い闇の中でも絶えず連携を取ることができた大きな要因だった。

 しかし、使用時間が長ければ長いほど魔力を消耗してしまう。サポートに使った魔法よりもこっちの方が大きかった。

 ゆえに――


 あれ……なんで……もしかしてこれ、言ってた魔力切れってヤツ!!?

 どうして、なんでよ! これじゃあハスハス守れないじゃない!!





 アーシとハスハスは従姉弟いとこで、アーシのがお姉さん。一ヶ月早く生まれたってだけだけど。

 家が近いってこともあって、昔はよく二人で遊んでた。

 ハスハスの口癖は、「カッコイイだろう」。ナルシのやんちゃな子だった。

 中学にあがってからあいつは部活に熱中するようになって。元から人を惹きつける気質はあったけど、色んな人にモテるようになって関係も薄くなっていった。

 偶に家族間での交友はあったらしいけど、アーシもハスハスもお互いにそれぞれのトモピがいたから。こっちに来て、偶然出逢ったのが久しぶりの再会だった。


 こっちに来て初めに居たのが何も無い山の草原の中心だった。

 ハスハスは、アーシの下敷きになってた。


「うぐ……重いんだけど」

「うわっ! ごめ……あれ? もしかしてハスく――……ハスハス?」

「なんだその変な名前……。ていうか、お前もいたのかよ楽夢らむ

「奇遇じゃ〜ん!」

「この状況でよくそんな軽いノリでいられんなお前……」


 アーシらはそれぞれ一人ずつ神様とか変なおっさんと話したっぽい。あんま覚えてないけど。

 ハスハスは当然のように皆の中心になり始めた。指揮する能力が高いんだろうってサクサクも言ってたけど、アーシから見たら昔と全然変わってない。

 皆の前でカッコつけるのが好きで、なんでもかんでもそう思ってくれさえすれば自分は犠牲になってもいいみたいに。面倒な事も率先してた。


「皆の事まとめんの、面倒じゃないの?」

「なんだよ唐突に」

「サクサクはともかく、皆賢いし偉いからいいけどさ……それでもハスハスは中心に立とうとすんじゃん。

 ギルドだって怖い人多いし、路頭に迷うことなんてしょっちゅうじゃん。さっきだって宿取れなくて絶賛野宿中だけど、やる事わかってるみたいに皆を動かして。

 アーシ、ハスハスの事褒めるけど、それはアーシがやりたくない事をやってくれるからだよ。今日なんて何回なんかい我儘言ったかわかんないけど、その度になんとかしてくれんじゃん。

 だから思ったんだよね、もっとアーシみたいに我儘言えばいいのにってさ」

「お前、よく見てんだな意外と」

「まあね〜!」

「確かに面倒かもしんないけど、それで褒めてくれんなら俺はそれでいいよ。むしろその為にやってるみたいなとこあるし。

 だから、また感謝してくれっとやりがいあるかもな。女の子に褒められる方が百倍嬉しいしな!」

「うわっ、キモ……結局それ……?」

「い、いいじゃねえか……」

「まあ確かに動機が不純でも、それがハスハスらしさなんじゃん? じゃあいっか! でも、アーシはお姉さんだ・か・ら、ちょっとは弱音も受け入れるよ!」

「そ、そうかよ……」


 あの時ははぐらかされた。

 わかってたんだ。ううん、アーシもわかってた。

 きっとハスハスは、それでも弱音を吐かずに出来ることの精一杯を最後まで突き通すんだって!!

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