22話 絆の助人
現在、オークロードは怒りを露わにして怒気による咆哮を奮い立たせている。
対して、ケンタたち冒険者はAクラスの魔物を前に物怖じせずに迎え撃つ構えを示していた。
「こやつを倒さぬ限り、我等ミシネリアの民に安息の文字はない……。この場において、片付けるのは至極同然のこと。例え相手がAクラスの化物だったとして、それに背を向けることはあってはならない。なぜなら、我等はこの街の最後の砦であるからだ!!」
バートンが最後の言葉を言い残すように演説をした後、ここに集まる全ての者が武器を構えた。
バートンの役目は先程と変わらぬ盾役。しかし、さっきとは違って一人のみだ。その為、バートンが先陣を買って出る。それを合図に指定の位置から攻めるカイル、ラキウス、ゾアスは移動を開始した。
オークロードと戦うに当たって、戦力はバートン、カイル、ケンタ、ゾアス、ラキウスとトーニングの三人の計八名のみ。
「わしの第二の故郷に土足で踏み入ることは許さん! 今ここで滅ぶがいい!!」
先陣を行くバートンはオークロードの懐に入り込むと、一対一で善戦する。その動きは引退したようには見えない身のこなしと、剣技から見て取れる一閃一閃のキレがオークロードを釘付けにしていた。オークロードの上からのパンチをいとも簡単に剣や身のこなしであしらい、攻撃を受けずに堪えている。
「あのギルマス、結構やるな。一人で時間を稼ぐと言われた時は驚いたけど、案外一人で相手をするというのは盲点だったかもしれない」
バートンが時間を稼いでいるうちにケンタは先程使った魔法を準備している。
この魔法は数を重ねるだけ準備に時間が掛かる。さっきバロウに使ったから本日二度目……。魔法の威力を損なわないように使うには魔術式の構築に時間を割かないといけない!
ケンタの目の前に魔法陣の核となる核式を作り上げている。更に魔術式の非定義術式を重ね掛けしながら構築を目で見える形で具現化させ、魔法陣としての論理を再現させようとしていた。
エクストラ魔法は一朝一夕で完全制御できるものではない。魔術式の理解度が高ければ高いほど展開する時間を短縮できるが、まだ三カ月経たないケンタでは、一からの構築になってしまう。だからその他の者達がその時間を稼がなくてはならない。
ゾアスはオークロードの斜め後ろの位置に着くと、地面に魔法陣を展開させ、トラップ魔法の類である『ベータ』を使用していた。
茶色の魔法陣からは泥が出現し、オークロードの腕を捉えて引っ張る。
ベータは基本低級の魔獣や魔物に使うお手軽魔術で、魔力を通して地面に置くだけでいい。あまり出回ってはいないが、裕福な国の近くの村などは重宝している優れ物だ。
これでギルドマスターの時間稼ぎの手助けとなりつつ、他の者が準備する時間が延びる。
続けてゾアスは斧を構えて、詠唱を始めた。目的に合わせた魔術文と呼ばれる羅列を詠唱することで、それを成すことができる。
カイルの指定位置は少しオークロードから離れた場所だった。カイルは、剣をケンタの前に突き刺して置き、無防備で詠唱を開始する。
ラキウスは持ち前の鞄から長い紐を取り出して、矢に付ける作業をしていた。
バートンに疲労が見えてきた頃、オークロードは力づくで泥を振り払い、口からヘドロ液を出す。
「ボロッハッ!」
「ムンッ!」
バートンはそれを剣でガードするも、受けた剣は融けて刃が柄の先から全部なくなってしまった。バートンはその武器が使えなくなったと判断して即座に捨てる。
くそっ、早くもギルマスがやばそうだ、まだこっちは少し時間が掛かるってのに……!
ゾアスとカイルは今更詠唱を途切れさせることもできず、応援は期待できない。
用意を続けている他の者を見て、バートンは覚悟を決めたかのようにオークロードと向かい合う。
「貴様はわしの街に手を出そうとしている害悪だ! ここで貴様を倒すと決めた以上、わしがこの場から引くことはない!! いいか、これを聞いている者たちよ……必ずこやつを倒し、街を守れッ!!」
まさか!!
バートンは、力を込めたその拳を振るった。
「オォオオオオッ!!」
バートンの右の拳がオークロードの拳とぶつかり合えば、なんとか吹き飛ばされないように踏ん張り、痛みを我慢して左の拳を突き出し、またぶつかる。
「ムンッ! なんのォオオオオッ!!」
ぶつかり続けながらバートンの足場が砕けて沈み、視線がどんどん上昇していく。バートンにとって、どんどんオークロードがデカく見えていった。
それが十回を超える頃、なんとかその場に留まろうと踏ん張る事はできたが、身体が思うように動かず、フラフラになってしまう。そこにオークロードの拳が顔面に直撃しバートン吹き飛ばされる。
結果的にそれまで何とか踏ん張ったバートンの功績は時間稼ぎとして成った。
オークロードは止めを刺そうと、口の中に赤い魔力を溜めていた。先程のヘドロ液とは違って、魔法めいたもののように見える。
「ッ――始めろッ!!」
まだケンタの魔法は構築を完成させてはいなかったが、我慢の限界を迎え、皆が待つ指示を叫んだ。
ゾアスの斧は光を帯び、形状が変化して刃の部分が長くなっていた。
「任せろ!!」
ゾアスはとび出すと、回り込んでオークロードの左肩関節に斧の刃を当てた。
詠唱によって武器そのもののスペックを底上げしていたが、オークロードの肩を切断することはできなかった。しかし、オークロードの口に溜めたものを射出することを止めさせ、気を引かせることはできたようだった。
「フーンッ!! まだまだァア!!!」
ゾアスは肩を切断するのを諦め、腕に刃を向けた。
それでも、腕を切り落とすことはできない。
オークロードはゾアスを掴みにかかるが、その瞬間オークロードの顔面に炎魔法が飛んできて爆発する。
「フレア・ボール改!」
カイルの詠唱による中級魔法のフレア・ボールを強化した魔法を当てることができ、オークロードの動きが止まる。
「炎系統の魔法なら自信があるんでね。倒せはしないが、俺だって役に立ちたい! ギルマスの雄姿を無駄にしない為にも、俺にできることをやるんだッ!!」
ゾアスは、力の抜けたオークロードの腕をそのまま引っ張って背中へ持っていく。
「今だ、ラキウス!!」
「分かってるヨ……。貫魂一点――フォーカス・アロー!!」
ラキウスは長い紐が付いた矢を射る。
それは緩やかな放物線を描いて斜め上からオークロードの背中に突き刺さった。
「一点集中なら刺さると思ったけどヨ、刺さってよかったヨ。さぁ出番だヨ、オラの守護者たち! 上げてくヨー!!!」
「「イエーイッ!!」」
「りょ……いえーイ……!」
「引け!!」
ラキウスとトーニングの四人は紐を掴んで引っ張った。すると、どんどんオークロードは引っ張られ体重が前のめりになり、体勢が沈む。
その時、ようやく魔法の構築を終えたケンタが自身で創った魔法陣を通り、目の前の地面に突き刺さったカイルの剣を引き抜いた。
「カリエンテ・オーバーフロー……最後は、俺が切る!!」
ケンタは魔法にものを言わせた超加速から跳び上がって剣を振り上げる。
ギルマスの時間稼ぎ、カイルさんの敵の行動抑制、ゾアス、ラキウスと他の奴らの体勢崩し――これらがあって今、俺はこいつを倒すことができるっ!!
「ラアッ!!!」
勢いよく下ろした刃はオークロードの首を切断させた。




