20話 蘇った復讐心
外に出ると、メノアが家の壁に寄りかかって倒れていた。
「――メノア!!」
俺はメノアも殺されたかと思って大声を出して駆け寄り、抱き寄せる。
「ん……? お兄ちゃん、どうしたの?」
良かった……。
安堵した俺は大きく息を吐く。
メノアは寝ぼけているようだった、待ちきれなくて寝てしまっていたんだ。さっきまで遊んでいたから仕方がないけどビックリさせられた。
「なんだぁ? 生きてる奴がいるぞ」
俺の背後から男の声がして、俺の背中に旋律が走る。
ゆっくり振り向くと、黒い服で身を包んで顔も仮面で隠している男が血の付いた鎌を持って立っていた。
俺が大声を出してしまったせいで気づかれた……。だけど、俺にとっては好都合だ!
「どうせ、近くの家の子供だろ。放っておけ」
男は二人いて、もう一人は格好は同じだが、武器のような物は持っていないように見えた。
「えっ、どちら様? お父様のお友達?」
寝ぼけているメノアには血の付いた鎌は見えていないのか変な事を言っていたが、俺の頭には『復讐』しかなかった。
俺は立ち上がるとすぐ近くにあった切り株に刺さってある斧のところへ走っていき、引き抜く。
「お前らが父さんと、母さんをっ!!」
斧を持ったことがあるとはいえ薪を切るのにしか使ったことはなく、俺はいつものように斧を持った。
恐れなどはなく、おれはこの二人を殺すことしか考えられなくなっていた。俺の体は復讐心だけで動いていた。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
ブツブツとそれを繰り返し、集中する俺。
「ハッ、この小僧……俺らとやりたいってよ、ガキのくせにイカれてやがる」
イカれてる? 俺がイカれてるならお前らはなんだ? 俺たちの父さんと母さんを殺すことはイカれてることじゃないのか? ふざけるな、ふざけんなっ!!
「はぁ……さっさと始末しろ、早くしないと誰か来るかもしれない。早々にずらかるぞ」
「分かってるっての」
鎌を持った方の男が面倒くさそうな様子でこちらへ出て来るのを確認する。
「え? え? どうなってんの!? お兄ちゃん!?」
状況を理解できていないメノアはただただ戸惑っていたが、どうやら相手が俺を殺そうとしているというのは分かっているようだった。
「うぁあああああああああああっ!!!」
ぶっ殺す!!
俺は斧を振り上げて仮面の男に向かっていくが、男は鎌でキーンという金属音と共に、いとも簡単に俺の手から斧を吹き飛ばす。
その反動で俺は尻を地面に突いてしまった。手はその斧がぶつかった衝撃でビリビリと痺れ、恐怖から立ち上がることもできない。
……死……。
ただただ男が自分を殺すところを見ているしかなかった。
「お兄ちゃん!!」
「待ってな、お嬢ちゃん。小僧の後でお嬢ちゃんもパパとママのところへ連れてってあげるからね」
「おにぃいちゃあん!!」
メノアは俺へ向かって手を伸ばしている。俺が殺されることを察したのだ。
男は鎌を振り上げて、ただ見ている俺に切りつける。
ああ……こんなことならメノアたちと遊ぶのは止めて父さんと母さんの手伝いをするのに忙しくて断った近くの教室でやっている武道入門を俺も教わっておけばよかった。こんなことなら色々と知識をつけて魔法を学んでおけばよかった。こんなことなら今日はもっと森で遊んでもっと遅く帰ればよかった。
こんなことなら……
こんなことなら…………
こんなことならって泣き言を言う前にできる事をしろ!! 俺はこれ以上何かを失っていいのか!!! 妹を、メノアを殺されていいのかよっ!!!!
さっきの変化同様に勝手に自分の身体が動いた気がした。
俺は切りつけられたけど、殺されなかった。紙一重で体を後転させて鎌を免れたのだ。
鎌は地面を抉って突き刺さっている、あのままだったら死んでいた。
「あ! やべっ!!」
失敗したことに驚く男の声があろうとも、振り向かずに俺は走って、メノアの所に行くと手をとって森へ走った。
逃げないと死ぬことが分かっていたから、必死に走った。そして、頭がクリアになっていた。
「メノア、逃げるぞ!」
相手は二人だが、俺たちを殺しに来ているのは鎌を持ったやつだけ……。それでも子供の俺たちだけじゃ厳しすぎる。
「おい、何してる? 逃げられるぞ?」
武器を持たない後ろの男が何かの遊び事の助言のように言い、それに反応した鎌を持つ男が後を追ってきた。
俺は指を口で銜えて口笛を吹く。
やるべきことが、最善の手が分かっていたようにそれを求めて脳が回転する。
「クソッ! 待ちやがれ!!」
メノアは状況に付いてこれなくて、ひたすら逃げる俺に手を引かれているだけだった。
そのせいか、なんとか森に入れると思った直前で足が縺れたメノアが転んでしまい、俺の手から離れてしまった。
「きゃっ!」
「メノア!」
マズい……早く来てくれ!
「へへ、大人から逃げられると思うなよ!」
追いついてきた男が再び鎌をメノアに向けて構えた。
何とかメノアの所へ来れた俺はメノアを守ろうと抱き寄せ、男に俺の背中を向けた。背中には寒気が走り、いつ切られるかと怯えて震えていた。
来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い……。
心の中でなんどそれを唱えただろう、俺は不意に分かって顔を上げた。
「来た!」
その時、空から突風が吹きあられ、俺たちと仮面の男の間に一体の魔獣が降り立つ。
「キュウちゃん!」
俺の肩の上から顔を出したメノアがその名を呼んだ。
振り返ると、そこには俺が呼んだいつも森で遊んでいる魔獣の親がいた。
種族名をテンタキュラス。狼の顔と身体を持ち、爪が鋭く、背中に翼を持った体長5メートル超えの幻獣。
初めて逢った時に『きゅう』と鳴いていたから俺がキュウと名付けた。
「な、なんだこいつは!?」
「バカ野郎、逃げろ! そいつはまずい!! 逃げるんだ!!」
後ろにいる仮面の男はキュウの存在を危険視して大声で鎌の男を呼ぶと、俺たちを襲ってきた男はキュウに背中を見せて逃げようとしている。
「クソツ、冗談じゃねーぜ!」
後ろを向いたところをキュウが口から風が収束されたような波動を放って男達を吹き飛ばした。
その風は突風なんて生易しいものではなく、家なんて一撃で破壊できるほどの嵐を圧縮したものだった。
吹き飛ぶ男たちはその最中に悔しがる言葉を残していった。
「バァーカなァ〰〰〰〰〰〰〰!!!」
おそらく死んではいないだろうけど、当分は寄り付いてこないはずだ。俺たちの親を殺すという目的も達しているはずだから。
危機を免れた俺たちはそれまでの緊迫感から、ものすごい汗と速い呼吸をしている。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……大丈夫か、メノア?」
「ハァ、ハァ、ハァ、うん……お兄ちゃんありがとう。キュウちゃんも」
その時、俺はキュウのおかげでなんとか生き延びることができたのだった。
◇◇◇
俺たちに残された両親の形見はメノアの首に掛けられている、紅い水晶のような宝石だけ。俺はこの時に誓っていた――いつかあいつらを殺す事を首飾りに。俺たちの親の仇を殺るまでは死ぬなんてありえない。探し出すことを目的の一つとしてきたが、これまでのゴタゴタで忘れていた。だから、こいつと対峙することでもう一度前に決めた決意を思い出そう。
あの時に親の仇は俺の手で殺すと決めてた。ゾオラキュールファングをこの手で壊滅させると決めていた。
「良かったよ、今日ここでお前に会えて……」
「そうだね、僕のおかげで今日君は死ぬことができるんだよ、お疲れ勇者」
「お前は、思い出させてくれた……俺を駆り立てる信念をな!!」




