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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第一章 「勇者を解雇されたので、辺境で静かに妹と暮らしたい」
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19話 俺たちの分岐点

 俺とロゼが戦場へ来ると既に戦闘が開始していたことが分かる。メノアもケンタも最前線へ行く勢いでゴブリンどもを殺しまくって奥へと進んでいた。

 最前線では、カイルやゾアス、ギルマスのバートンがゴブリン相手に奮闘していた。

 カイルは、自前の剣と瓦礫の中から見つけた剣との2本の剣で、ゾアスは魔法と斧で、バートンは魔法は使わずに持ち前の剣技だけで戦っている。

 そこへ行こうと横から出てくるゴブリンを狩っては、メノアとケンタはお互いをライバル視しているのか、もの凄いスピードで走っていた。


「女はどいてなよ、ここからは俺たち男の戦場だ」

「うわっ! もの凄い差別発言じゃんそれ、モテないでしょ。そういう顔してる~」

「なに!? お、俺だってな~ゴニョゴニョ……」


 あいつら、無茶してんな……。


「何を惚けてるの? わたしたちも行くよ!」


 さっきのことで何かを振り切ったのか、物怖じしないロゼは俺より先に戦場を駆っていく。

 全体を見ると、街への被害は少なく済みそうに見えた。

 誰かが広範囲の魔法を使用したのか、戦場の中央にはゴブリンが少なく、おかげで街の冒険者でも戦場で役に立っている。

 このまま早く終える事ができれば、被害を少なく済ませられる。俺がやらなければならないのは、オークロードの討伐だろう。ゴブリン達もボスが死ねば動きが鈍るか、撤退を考えるはずだ。


 俺はロゼに続いて、中央スペースを走っていく。

 ロゼはどこから出したのか、短剣を持っていた。それを使い、寄ってくるゴブリンの首を丹丹と切っていき、走るスピードを落とさず進んでいる。


「お前、その武器どこに隠してた?」


 俺はロゼに追いつくと、そのことについて問いただした。気掛かりがあったからだ。


 まさかこれって……?


「気づかなかった? 瓦礫の中でアンタの腰から取ったの」


 やっぱり……。


「……それってあの時俺のこと殺そうとしてたってことか?」

「さあねっ!」


 その時に俺の横から出て来たゴブリンもロゼが短剣で殺す。


「これでチャラでいいでしょ? さぁ、やることはまだまだ山積みなんだから、しっかりしなさいよね!」


 そう言って俺のことを置いていく後ろ姿は逞しく見えた。


 ……性格変わった? あれが本当のロゼ?


 ラキウスは少し遠くからゾアスたちをバックアップしていた。

 弓を引き、目標へ矢を向けている。魔法陣は展開していなかったが、ゴブリン相手にはそれでも十分だった。


「おいおい、これがレイド戦だって? 簡単すぎだロ!!」


 ラキウスが矢を放つと、矢は百発百中の如く必ずゴブリンの眉間中央に刺さる。すると、ゴブリンは力が抜けるように倒れる。


「ケンタがいうところのイージーゲームだヨ……」


 ラキウスは簡単な相手ばかりなことに対して肩透かししている。本当はもっと緊迫した状況を予想していたのだろうか。

 そのラキウスには守護役が三人付いていた。


「すげー!」

「あんたすごいな、その調子でどんどんやってくれ!」

「おいサボんな二人共! ……はぁ……俺ばっか仕事してないか?」


 この街のギルドのパーティの一つ、『トーニング』の三人だ。


「イイね三人共、イエーイ!!」

「「イエーイ!」」

「い、いえーい……」


 一人だけノリきれていないようだな。でも、それが普通だと思うけど……。


 ラキウスが狙うはゾアスたち最前線で戦う三人の傍の敵だ。特にラキウスとゾアスの連携は完璧、ゾアスはラキウスが撃つ場所を見ずとも分かるようだった。


 ゾアスは背後にいるゴブリンを無視するが、そこに寸分違わずに矢が飛んでいっている。ゾアスは疑似的に死角を消せている状態――ラキウスとゾアスの連携は経験あってこそのものだろうな。あの連携は見習うところだ。


 走っている最中、俺は戦場を上空から見ているような感覚に襲われた。メノアやケンタだけでなく、ゾアス、カイル、ラキウス、バートン、他の冒険者達も含めて正確な位置が分かる。


 そこらじゅうで放たれる魔法による衝撃もゆっくりだ。これは……集中しすぎているのか? 今までにない感覚だ。何かを……感じているのか?


 いきなり俺の体は無意識に後ろへ跳ぶ。


 どうしたんだ、俺の身体……!?


 自分でも何故こんなことをするのか分からない。何かの病気なのかと疑う程だ。

 次の瞬間、俺の目の前に何かが落ちて来た。大量の土や泥が舞い上がり、視界が塵や砂埃で阻まれ、それが何か分からない。


 俺は、これを避けようとしたのか? 野性的勘ってやつが働いたのだろうか。


「やぁ……見ずに避けるなんて……なかなかいい条件反射だね!」

「っ――誰だ!!」


 人が落ちて来たのか?


 周りの冒険者達は目の前の敵に集中しているのと、爆発がそこら中で起こっているために今の事に気付いていない。

 もし人だったら、並の人間のはずがないと思った。こんな勢いで落ちてきたら、まず命はないだろうから。


 土煙が止むと、そいつは姿を現す。


 その格好には見覚えがあった。黒いマントと胸には竜を模したマーク――憎き親の仇と同じ組織。


「――ゾオラキュールの牙(ファング)……」

「おっ! 勇者だけあって、僕たちのこと知ってるんだ? 光栄だよ、勇者と戦える日がこんなにも早く来るなんてね。初めまして勇者殿……僕はゾオラキュールの牙が一人、狂犬クレイジー・ドッグ


 不気味な笑顔を浮かべながら、小さな身体には似つかわしくない魔力を纏い、そいつは俺の仇の組織の一員として現れた。


「……決めていた――お前らは誰一人許さないってな!!」


 俺の怒気が一気に限界を超えてきたのが分かった。相手がゾオラキュールの牙(ファング)と分かったからだ。



◇◇◇



 ゾオラキュールの牙(ファング)との因縁はかなり前にさかのぼる。

 これは、俺とメノアが幼い時の話だ。


 俺はテラネイア男爵領に捨てられた孤児で、零才でテラネイア男爵のネフトデリエルに拾われてからその男爵領にネフトデリエルを義理の父として一緒に暮らすようになった。

 俺の義理の母のイシトマとネフトデリエルは俺を本当に可愛がってくれ、すくすくと育った。


 そして、俺が8歳になったある日に事件は起きた――。

 俺とメノアがテラネイア男爵領近くの森にいる子供の魔獣と遊びに行っていて、帰ってきた時だ。

 その日は、ついつい遊ぶのに夢中になって帰るのが遅くなってしまい、日が暮れそうになっていた。

 家に帰ると、ドアが開いていたのに気が付いた。


「誰だよ、開けっ放しにしてんの。不用心だな……」

「きっとお母様だよ、私達のこと探しに行っているんじゃない?」


 6歳だったメノアはとても可愛らしかった。この時は冒険者のような格好ではなく、お嬢様のような可愛らしいドレスを着ていたものだ。


「あ~、そうかもしれないな。一度お父さんに聞いてこよう」


 ……違和感はあった。父さんは男爵の爵位を貰っているから強盗の類が来てもおかしくはないといつも言っていた。だからうちの家族は皆、戸締り等はしっかりしていた方だった。

 家に入ると、散らかっていた。そこらじゅうが――荒らされていた。


「すごい散らかってるね、魔獣でも入ったのかな?」

「あはは……そうかもな……。

 それかあれだよ、きっと母さんか父さんが怒って散らかしたか、中でゴルフでもやっていたんだろ。ホントやめてほしいよな~……」


 父さんが家の中でゴルフなんてやったことはないし、怒ったからと言ってここまで散らかる事なんてありはしない。それを分かっていたが、俺は今の状況の先を考えるのが怖かったから愛想笑いして誤魔化したんだ。


 俺は万が一の為、


「……メノアは外で待ってろ、ちょっと中散らかってて危ないから兄ちゃんが様子を見てくるからな」

「う、うん……早くね」

「分かってるって」


 メノアを外で待機させた。


 俺はどんどん家を散策しているうちに考えたくないことが脳裏で強くなっていくことに不快感を覚えた。


 そんな、やめてくれ……。勘違いだ、俺の勘違い……そんなはずない、メノアが言ったように魔獣だ。それも小さい魔獣で害はなく、少し暴れてどっかへ行ったんだ。


 そんな考えをしている中で廊下を曲がった。

 すると俺は赤い液体が引きずられて付いたような跡を見た。


「……ははは……あれでしょ、魔獣の血だよ。父さんが退治したんだ。そうだ、そうに違いない……」


 俺は自分に言い聞かせるようにそんなことを言い、足に血を付かせない為と、頭によぎったイメージが俺の足を震えさせるから壁に寄り添って血が続いている父さんの部屋を目指した。


 父さんの部屋もガラ空きで壁際を沿って行けば、廊下からでも中は見える。

 俺は恐る恐る部屋の中を覗きに行った。


 俺の目に映ったのは、全身から血が出ている父さんと母さんが机の前に無造作に置かれている有様だった。

 それはもう体中から出る血が床に流れていて、まだ血が出て間もないように乾燥していない。

 俺はもう立ち続けることはできなくて、その場に座り込んでしまった。


「――やめてよ……父さんっ!! 母さんっ!!」


 俺がさっきイメージしたまんまの光景がそこにはあって、絶望のあまり目から涙が次から次へと流れてくる。更には過呼吸におちいり、目の前がぐらついていた。


「冗談でしょ、はは……俺をびびらせようと、してるんだ……。きっとそうさ、それ以外ないんだ。父さんは強いんだ、魔獣なんてなんのその……前だってテクノベアーを仕留めて来たし。どんなに相手が強くたって、負けやしない……。ありえないんだ、そんなこと……」


 俺は震える足は放っておき、手を使ってなんとか前へ進んだ。父さんと母さんの所へ辿り着くと、母さんの頬に触れる。


「……冷たい……?」


 冷たいって…………――死?


 その時、分かっていたけれど信じたくなかった現実が俺の頭に一気に押し寄せてきた。


「あ……ああ……ああああああああああああああああああ!!!!!」


 この赤いのは父さんと母さんの血だ。散らかっているのは魔獣じゃなく、人のせいだ。魔獣ならここに二人を持ってこない。

 それなら近くに二人を殺した奴が潜んでいるかもしれない。今俺がするべきはメノアの命を守ることだ。早くしないと、メノアまで……。


 理解したことにより、自分の思考が一気に変わった。まるで別人のような早い思考力、さっきまで震えていた足が静まって地に足を付けて急いで走った。

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