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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第一章 「勇者を解雇されたので、辺境で静かに妹と暮らしたい」
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17話 ミシネリア魔物大騒動

 ミシネリアの冒険者は、全員街の入口へ向かっていた。補給物資の調達で様々な所へ駆り出されていた冒険者の一人がここへ向かってくる数百を超える魔物の集団を確認したと報告が来たからだ。

 その為、ギルドの爆発で街の住人を避難し終わったことは大きく、冒険者達はすぐに行動に移すことが出来た。


「おい、本当に魔物どもが攻めて来たのか!?」

「らしいぜ、でもほとんどがゴブリンだのの低級の魔物だからそこまで怖がることじゃないらしい」

「まさか魔物の巣窟から出て来たのか!!?」

「いや、なんでも魔物は崖の方から進軍してきてるってよ」

「それってどういうことだよ!? あそこには何もなかったはずだぞ。魔物もあまり出たことはないし、橋も無いからあっち側から魔物が来るなんてこともなかったはずだ」


 冒険者達は、めまぐるしく変わる状況に困惑していた。ミシネリアではこんな事態に陥ったことは今まで一度もなく、平和主義者の冒険者達はどう対処していいか分からなかった。

 ここはギルドはあってもほとんど冒険者はいない。他の街から来る冒険者が少ないせいでここ出身の冒険者がほとんどだ。パーティ数も単体含めて7と、他のギルドの3割程度しか常駐していない。その為、このようなレイド戦には不向きであるどころか、体験している者さえほとんどいないのだ。


 メノアも魔物の襲撃の話を聞いて同行した。街の入口へ向かうのにはギルドも通り道になる為、カイルがまだ捜索を続けているなら報せることができるからだ。


 ここにきて、魔物の集団? ギルドの爆発といい、これといい、何者かの作為を感じる……。

 そういえば、ギルドの爆発は遠距離からの魔法が直撃したのが原因だったって聞いた。その魔法が外部の者の仕業と考えるほうが妥当だったけど、最初の爆発からこれまでこれといった敵が出て来たわけではないから可能性が薄くなってた。

 でも、この魔物の襲撃……さっきの爆発で魔物の数を減らしたくなかったから、ここまでの時間で何もしなかったとすれば…………お願い! わたしの勘違いであって!!



◇◇◇



 カイルは黙々(もくもく)と瓦礫をどかしていた。時間が経って炭も熱くなくなったが、瓦礫の中からでてきた鉄製の剣は瓦礫をどかすのに有用だった為にそれを使って作業を続けていた。

 カイルは魔物が攻めてきていることを知らず、ただ瓦礫掃除に邁進まいしんしている。カイルの脳内にあるのはメノアの想いに応えたいという意思と、少しばかりバロウを心配する気持ち。


「おーい、バロウさーん出ておいでー。カイルさんだーよー?」


 カイルは半信半疑で探していた。ここにバロウがいるかという確証がなかった為に焦りが出てこないでいたのだ。

 そこへ街の入口へと向かう冒険者達がぞろぞろと通り掛かる。


「カイル! お前なにしてんだ?」

「おい、ギルドこんなになっちまったのか!?」


 カイルを発見した冒険者がカイルに話しかける。


「さっきの爆発音、聞いてなかったのか? 二度目の爆発があってこの有様さ。それでここん中に――」

「おい! 来たぞ!!」


 カイルが返事をしている間に足を進めた冒険者が魔物を目視で確認した。

 それを聞いたカイルも瓦礫の山から下り、確認しに行くと、目を疑う光景が広がっていた――。

 それは目視で千体はいることが分かり、歩いてここを目指してきていた。奥にはデカい魔物が一体おり、それがその集団のボスに思える。


 ぞろぞろと歩いてくる足音が鳴り響き、後ろの方でこの光景が見えていない冒険者でも、何となく察しはついているだろう。

 緑色の身体に、尖って長い耳、鬼のような顔が何百メートルをも埋め尽くしていた。


「おいおい……マジかよ……」

「ゴブリンばっかりとは言っても数が違いすぎる……」

「それだけじゃない! あのデカいの、ゴブリン種じゃないぞ!!」

「あれは……オークロードだ!」


 オークオードは、オークの三段階進化した先にある存在で、そのクラスはAにあたる。

 Aクラス以上には更に細かくクラスが分かれるが、それでもAクラスに変わりはない。基本的にAクラスに該当する魔物はAランク冒険者一人か二人でどっこいどっこい、Bランク冒険者なら単体のパーティで五、六人以上のパーティは必要となる。

 こんな辺境の地にいる冒険者では到底太刀打ちできない、格上の存在だった。

 今の状況にただ唖然とする冒険者達を縫って急いで来たメノアがカイルを見つけた。


「ねぇカイル、お兄ちゃんは……」


 メノアがカイルに質問すると同時に目の前の光景を確認する。

 その軍勢は以前、最前線で戦っていた時によく見た光景にそっくりだった為にここが本当に辺境の地だったかを疑った。


「なに、コレ……」


 その場に立ち尽くすメノアを含む冒険者達。誰もが、どうするればいいか対抗策が思い浮かばずにただ目の前の光景を信じることができずに佇む。

 無言が止まず、静寂の最中を後ろより三人の者達が冒険者をどかしながら前へ出た。


「どうしたのだ? ここにはしけた面、略して『しけ面』しかいないのか?」

「お~、その略したやつイイね! オラも使ってあげるヨ! やーい、しけ面ども!」

「煽るのはその位にしろよー……」


 少年が一番前へ出ると、振り返って冒険者達に悟らせる。


「戦わない人がいても構わない、ただここを守りたいと思う奴だけ前へ出て戦えばいい。俺たちも手伝ってやる。

 ここへ来た目的は違うけど――これでも冒険者やってんだよ、このくらいの危機に怖気づくようじゃ……英雄には一生なれないぞッ!」

「いい覚悟である。俺もお前のその覚悟に乗せてもらおうか」

「元々オラたちはこういう方が向いてるいるんだヨ!」


 その三人はゾアスとラキウス、そしてケンタだった。

 ケンタは、バロウにやられた傷が万全とまではいかないが回復しているようであり、それでも戦う覚悟だった。


「まだバロウとの決着が付いていない。邪魔なんてされちゃあ困るし、この街の英雄になるのも悪くない」

「あなたたち……」


 三人の言葉を聞いて見直すメノア。


「勘違いするなよ、俺たちも冒険者なだけだから……」

「……へー? 怪我している割にその虚勢きょせいが出るのがすごいね。お兄ちゃんにやられたんでしょ」

「そうだけど……それよりキミの兄貴はどうした? まさか逃げたとかじゃないよな?」

「そうだ! 今瓦礫の下に埋もれてて……」

「瓦礫?」


 メノアは思い出したように振り返り、冒険者の間を縫ってギルドの方へ向かっていく。


「……ゾアス、ラキウス、少し時間を稼いでくれ。ちょっと行ってくる」


 ケンタはメノアの言葉が引っ掛かり、追うことにしたようだった。

 それは逃げる時の怯えた目ではなく、勝ちへと立ち向かう勇姿の目であるのをゾアスは悟る。


「お前が戻ってくる時には全部終わっているかもしれんぞ?」

「任せなヨ!

 ――よっしゃー、やる気のある奴はオラたちに続け!! イエーイ!!!」

「イエーイ!!」

「ゾアスも珍しく乗り気じゃん。バロウの奴と話してから少し感じが変わった気がするか? でも、これなら任せられる」


 ケンタはメノアの後を追い、同じく冒険者の間を縫ってギルド方面へ向かった。


「よっしゃー! この街の冒険者の意地、見せてやるぜー!!」



「オォオオオオオオオオオ!!!!」



 その場に魔物の軍勢の足音にも負けない奮起の声がとどろいた。皆、腰の剣を抜き、空高く掲げる。


「行くヨ、ゾアス」

「さっきのバロウ殿の妹とは本気でやらなかったのであろ、今見せてやるといい。ラキウスの本気をな」


 ラキウスは背中の矢を取り、セットすると弓を引いた。


「見てろヨ、これが本物のオラの魔法だヨ。熱いから気を付けなヨ~……」


 矢の先端に赤い魔法陣が現れた。

 色は魔法陣の系統を表している。そして赤色は炎属性魔法で、魔法陣を使う魔法は上級以上の魔法が大体だ。

 息を整えるように息を吐き、鋭い眼を弓と矢の延長線上に向ける。


「ラキウスの魔法は殲滅力があるのだ。それ故、こういう戦場ではより際立って目立つ」



「不死鳥のフェニックス・ヴェクター――」



 ラキウスが矢を放つと矢は魔法陣を通って炎を纏い、やがて炎は鳥の形を模って大きくなり、飛んで行く。

 低空を行くそれは、地面を抉りながら最前列のゴブリンを抹消しながら進んでいった。

 燃え盛るような炎がゴブリンへと感染し、どんどん燃え広がる。

 やがて矢の炎が途切れると、その威力が見て取れた。


「なかなかだな」

「百体くらいやってれば御の字だったヨ、割と後ろの方には避けられちゃったからヨ」


 ラキウスの攻撃はゴブリンを百体程度抹消していた。上級以上のこの魔法は低級のゴブリン相手にはオーバーキルもので、塵も残さずかき消している。


「す、すげぇー! あんたナニモンだい!?」

「ただの冒険者だヨ! だけど、サイコーだロ? お前らもやるといいよ」


 今日一のドヤ顔を披露するラキウス。自分でも会心の出来だった為、自慢するような態度を取っている。


 しかし、他の冒険者からすれば――


「いや、無理だヨ……」



◇◇◇



 メノアはギルド跡に到着すると、必死に瓦礫の撤去を始めた。

 カイルの貢献もあってか、ある程度崩れて物置にあった武器や防具が露出していた。そこに遅れてケンタが走ってやってくる。


「何をしているんだ……?」

「ここにお兄ちゃんが埋まってるの! 早く出してあげないと!」

「ここにバロウが? ――どいてくれ!!」


 ケンタは掌に魔力を集中させる。


「ちょ、それ、大丈夫なの!?」

「いいから、巻き込まれても知らないぞ!」


 メノアはケンタの魔法に巻き込まれたくないと、焦って瓦礫の山から下りる。


「テンペスト・ウィンドウ!」


 ケンタの掌から風魔法が放出された。

 テンペスト・ウィンドウは中級魔法だが、威力は抑えられ、一気にバラすにはこの方法が手っ取り早いとケンタは考えた。

 激しいまでの竜巻が瓦礫を空中へと押し上げていく。


 瓦礫の山はケンタの魔法によって一気に舞い上がり、そこに瓦礫の渦が巻き起こる。その中で人の形をした瓦礫が二つあった。


「――いた!」


 メノアがそれを発見して指を差した。

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