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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第一章 「勇者を解雇されたので、辺境で静かに妹と暮らしたい」
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16話 窮地の中で語り合う二人

 メノアとカイルがギルドのすぐ傍まで迫ってきていた――。



 そこまでの距離を走ったわけではないが、カイルは31という歳とこれまで辺境の地での仕事であまり動くことがないこともあってかもう息が上がっている。対してメノアは先程ラキウスと戦っていたはずなのに疲れている様子はなく、変わらぬスピードで駆けていた。


「まだ燃えてる…………お兄ちゃんはもう出てきているよね?」

「はぁ……はぁ……きっと大丈夫さ、バロウのヤツはこの街で一番の冒険者だぞ」


 メノアに付いてきたのは結局カイルだけだった。途中他の冒険者とすれ違ったが、他の冒険者は補給物資を運んでいる為そちらを優先させたのだ。



 ドガ――――ン!!



 その時、二人の目の前でもの凄い爆発音と共にギルドが爆発した。

 爆発の衝撃でメノアとカイルは吹き飛ばされ、地面を転がっていく。


「わっ!」

「きゃあっ!!」


 それは先程の爆発とは桁違いだった。一瞬にして建物の残骸をそこら中へバラ巻き、もはやそこにはギルドの形は跡形も無かった。

 元の場所に残るのは燃えた木の残骸があるだけで、爆風によって火はほとんど消えていた。残るはギルドを形作っていた焼け焦げた瓦礫のみ。


「そ、そんな……この街一番の建物が……」


 ギルドは比較的最近できたもので、使っている木材や材料も値段が高い物ばかりを使っていた。それだけ耐久性もあり、最初の爆発では倒壊しなかった要因にもなっていたのだが、二度目の爆発を耐えることはできなかったようだ。

 既に炎が燃え広がって耐久性は落ちていたが、それでも今度の爆発は威力が違いすぎた。最初の爆発がなくても同じように倒壊していただろう。


「おにちゃ……お兄ちゃんっ!!」


 起き上がったメノアはすぐに駆け寄って呼びかけるが、誰の声も、音もせず、その場にはメノアの叫び声しか響かない。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! お兄ちゃんっ!!! ……バロウっ!!!!」


 メノアは爆発によってキーンと耳鳴りがしていた。その為、自分の声が出ているのかどうかも分からず、誰かの声がしたとしても聞こえなかっただろうがそれでも呼びかけ続けた。

 カイルは、一生懸命に声を張るメノアを見て、自分もと声を出す。


「バロウ!! どこだバロウ!!」


 耳鳴りが治ってきて、なんとか自分たちの声が聞こえるようになった。

 メノアは声を出しながら爆発の影響でフラフラとしているが、それでもと少しずつ炭となった木をどかそうとするがほとんどが熱く、触ることができない。


「アツッ!!」

「メノアちゃん! ……まだ触るのは無理だ。それにこれだけ呼んでいないってことはもう逃げた後かもしれない」


 メノアはカイルの考えに首を振って否定する。


「ううん、ここにいる。この中にお兄ちゃんが……」


 メノアは無言で熱いはずの瓦礫を素手でどかしていく。


「メノアちゃん!」


 メノアちゃん、絶対熱いはずなのにそこまでして……。


「ンッ!」


 見ると、メノアの手は火傷を負ってボロボロになっている。それを見たカイルはすぐさまメノアに駆け寄った。


「メノアちゃん! もういい、君はよせ!

 女の子のやることじゃない……ここは僕がやるから、君は男手を連れてきてくれ! 暇な冒険者もいるはずだ」

だ!」


 再び熱い瓦礫に手を伸ばそうとするメノアをカイルは腕を掴んで止める。


「やめるんだ! 君がそんなことをすれば、バロウが悲しむ!!」

「……」


 メノアはカイルの言葉で動かなくなる。それは誰よりもメノアが分かっていることだったから。


「……バロウは君のことを本当に大切に思っているんだ、他の誰よりもな。だから俺は君を止める。誰かを大切にしている思いは俺にだって分かるからだ。君もそうだろうけど、これ以上は俺の仕事だ」


 少しの静止の後にメノアは静かに頷き、ゆっくり瓦礫から降りると走りだして、他の人手を探しに走り去っていった。

 カイルはそれを見送ると腕を捲り、火傷を負いながらも素手で瓦礫をどかしていく。


「くっ……」


 バカ野郎、メノアちゃんにあれだけかっこつけたんだ。これくらいどうってことない!!

 かわいいメノアちゃんのあれだけの想いがあるんだ。バロウ、生きていないと承知しねえぞ!!



◇◇◇



「……ちゃん……お……ちゃ……」


 誰かの声がする……。でも、よく聞こえない。


 暗がりの中でパラパラと音が聞こえてイドラが目を覚まし、ゆっくりと目を開く。すると目の前が暗く、自分がどこにいるのか分からないように困惑したようだった。


「はっ! ここは……」

「う、ごく……な……」


 隙間から射す光で見えたのは俺がを庇って覆い被さったイドラの姿だった。

 俺は、背中には瓦礫を乗せ、肩には残骸の中にある釘が刺さって固定されている状態なのが感覚で分かる。

 俺を認識したようで、イドラと目が合った。光が眩しかったのか、目を細くして俺を見る。

 神妙な表情で俺に質問を投げかける。


「なんで……」

「はぁ……はぁ……さっきよりか、煙が薄くなった気はするけど……ゲホゲホッ! 息はしずらいな……はは……」


 この中は爆風による残骸の砂埃が蔓延まんえんしていて、息をするだけで気管支に埃が入り、咳が出る。


 あの時、咄嗟に俺は爆発直前にイドラを庇って抱き寄せてからニトロパージを反転魔法にして逆流させ、爆発から身を守った。なんとかシールドの役割を担った魔法のお陰で生きることができたが、爆発から守るのが精一杯で今はこんな状態になっている。


 俺の何気ない言葉にイドラは反応してくれなかった。さっきの疑問がまだ続いている。


「どうして……」

「さっき、言っただろ? 大丈夫だって……。

 お前を、守りたかった。でも……お前、まだ何1つ助かってないよな……。

 シュクリンゼルが、まだあるだろ? それもぶっ壊して、やるから、だから大丈夫だ」


 自分で言っておきながら、何を自分勝手な事を言っているんだろうと思う。シュクリンゼルがどこにいる組織かもわからないし、イドラがどんな思いかも知らないのにな。それでも今のイドラを放っておいたら、また自分が前に戻るみたいで嫌なんだ。


「何を言って……あなたにそこまでする義理なんて無いじゃない!」


 高圧的な物言いをするも、さっきよりその迫力が抑えられている気がした。


「それを言われると、無いとしか、言えないけど……俺はもう、傷ついている奴を見捨てることはしないって……ゲホゲホッ!」

「っ……もう喋らなくていい。もういいから……」


 イドラは俺の言葉を悲しそうな表情で遮る。


「ハハ、そんな顔すんな……」

「何、言ってんの……?」

「お前今、悪い事したって……思っただろ」

「お、思ってない! わたしが後悔だなんて、ありえない……」

「だってお前、俺の方が苦しい状況、なのに……そんな顔してたら、分かる」


 少し瓦礫の中に隙間があるのか、太陽の光が射してきて、イドラの顔が見える。


「…………」


 イドラは、手で覆って顔を見せないようにした。

 確かに顔は見えなかったが、耳が仄かに赤くなっている気がした。それを俺は気にしないようにしてイドラの顔から目を背ける。


「俺も昔、バカやってさ……そんな感じになったことが、あるからさ」

「だから、喋んな……バカ……」


 迫力は無かったが、痩せ我慢には十分の態度。元気であることは見て取れた。

 そもそもこんな状況じゃ、治療なんて事もできるはずもないが。


「そろそろ体力も戻ったし……俺も本気で、上のやつどかすから…………少し我慢しろよ」


 上の瓦礫をどかさないと、俺たちは助からない。助からないと、何もできない。この街でも強い方の俺が、こんな所で油売ってていいわけはない!


「はぁ? これ以上無理する気!?」


 呆れた様子のイドラだったが、それの答えなんてのは決まっていた。


「これから魔物が来るんだろ。そこに俺がいないなんてっ……かっこっ、わるい、じゃねーか! フンッ!」


 俺は今できる力一杯をかけて身体を起こそうとする。


「きゃ! あ、あなたどこ触って!」


 力を出す上で、手がずれてイドラの柔らかい胸に触れてしまっていた。

 イドラは顔を赤くして威圧的な視線を送ってくる。


「っ……今は仕方ない、だろ……ンググググググググッ!!!」


 更に力を入れて上の物を持ち上げようと試みるが、少しきしむくらいで持ち上がらない。


「だから、触ってるってー!!」


 俺をどかそうとしたのだろうか、イドラの肩が動いた。しかし、俺の腕が邪魔でその手は出てこなかったようだ。

 イドラの涙目が光りを反射して見える。


 イドラの目に滲んでいるのは涙だろうか。そんなに嫌だったのか?

 でもこれは不可抗力というやつで……仕方ない以外説明できない。しかし、柔らかいな。女の胸なんて触ったことが……あったか。しかし、アイツのはこれほどなかったし、どちらかというと板? だったような気がするから柔らかくて大きい胸に触るのは、これが初めてだな。

 こうしていると、肩を貫いているネジに関してあまり痛みが分からなくなってくるかもしれない。まぁそれはさておき――


「くそっ、動かない……これ割と重いな」

「じゃあもうやめてよ! そしてこの手をどかしてっ!」

「あ、ああ……悪い」


 手をどかそうとすると、背中の瓦礫が動く。

 瓦礫は俺の背中で何重にも折り重なっていた。その組み合わせに支障が出ることで、予想もできない場所から別の瓦礫が出てくる。


「やべ!」

「きゃあ!! ちょ、なんでもっとこっちに!!?」


 瓦礫を動かしてしまいそうだったので、俺は手を元に戻した。それが強すぎて、イドラの胸の曲線を更にゆがめてしまうことになってしまったようだ。


「ごめ……これ以上離せられない、上のが落ちてくる気がするから」

「何言ってんの!? あなたが触りたいだけでしょ!」


 イドラは俺の手をどかそうと手で押してくる。すると、更に背中の瓦礫が動き、俺の腹のすぐ横から剣の刃先が出て来た。


「「えっ……!?」」


 二人して驚き、刺されたかと思ってシーンと沈黙が流れた。

 冷や汗が滲み、顔が引きつる。


 多分物置の部屋にあったやつだ……危なかった、もう少しで俺に刺さっていたかもしれない。


「な、な? これ以上は……無理だって、言っただろ?」

「え、ええ……。

 でも、この状況は……」


 イドラの方を動かそうにも、瓦礫の間で凹んだところに嵌まっているので身動きがとれそうにない。


「それ以上は、触らないでよ」


 イドラが恥ずかしそうに俺から目を逸らしていくのが分かった。

 俺もこれ以上それを考えるとマズくなる気がして視線を逸らす。


「分かってる……」


 変な空気になってしまった。

 瓦礫の山に下敷きになっていて身動きが取れず、更にはお互いの体勢がこんな状態で意識があればこういう事にもなってしまうというものだ。


 これじゃあ助けが来るのを待つしかないが、さっきは声が聞こえたけどもう聞こえなくなってしまったし、もう魔物は来ているのだろうか……? もし来ているなら俺たちも助からない。無事でいてくれよ、皆……!!

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