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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第一章 「勇者を解雇されたので、辺境で静かに妹と暮らしたい」
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13話 異世界から来た神の遣い

 最近では前みたいな事が無いように知らない場所を減らす為、森の中の行動範囲を広くしていた俺たちは少し森を出るのに時間が掛かった。

 森を出ると、街までの何もない草原で横に流れる強めの風に髪を靡かせながら俺たちの目の前に道を阻むように男が三人待ち構えているのが分かった。それは見知らぬ男達で、一応の警戒として腰の剣の柄に手を乗せる。


「……知り合い? この街では見た事ないけど」

「お前の知り合いじゃないなら、俺の知り合いじゃないな」


 俺のコミュニケーション領域は、メノアの領域の中にあるのがここ最近の普通。メノアが知らないとなれば、俺の知るようがない。

 俺たちは、男達の目の前に立ち止まる。明らかに俺かメノア、もしくはその両方に要件があると思われた。男達は俺たちから目を背けずこちらを凝視し続けている。


「アンタがバロウか?」


 俺と同じくらいの歳に見える真ん中の若めの少年が口を動かす。

 他の二人の服はまだしも、コイツの服装はどこでも見た事が無い。装備ではないようだが、ほとんど真黒でスーツにも見えなくはない。中にはシャツを着ているのか見た事ない黒い服の袖からはみ出している白いシャツが見える。頭の天然パーマが印象的な少年だ。

 それだけでなく、その少年の右隣にいる髭のおっさんはどっかでみたことがるあるような気がした。ギルマスと張れるほどの髭のワイルドさ。


「……えっと……誰?」


 見知らぬ人に話しかけられれば、誰かと思うのが常識だろう。俺は疑いの目を向けながら訊ねた。


「俺は大山健太おおやまけんた。こことは違う世界からやってきて、神様に言われてからずっとバロウって人を探している。アンタがそうだとありがたいんだけどね」

「……オオヤマ?」


 珍しい名前だ。俺が行った国とは違う文化のある場所から来た人なのかもしれない。


「ん? あ~、名前はケンタの方だ。こっちの世界だと外国みたいに名前が前にくるんだったね」


 ガイコク? なんだそれ? まぁいいか……。

 違う世界とか、神様とか、話自体ぶっ飛んでいるが、もしそれが本当だったとしたら……クソみたいなことだな。俺が知っているどっちの神の差し金かはわからないが、今更何があるというのだろうか。自分から俺を投げ出したクセに。

 しかしまぁ……極論は関わらないに越した事はないだろう。


「そうか、ケンタ。俺はテラネイアだ、バロウは今日は見ていない。力になれなくてすまないな」

「……」


 俺と同じ考えだったのだろう、メノアは俺の反応に安堵していたようで胸に手を当て、息を吐く。

 しかし俺はうっかりしていた。どうせ他人を演じるなら、別の適当な名前にしておくべきだったと後で後悔することになるとはこの時は思わなかった。

 ケンタは俺に変な眼差しを向けていた。それはバカを見る目のように思えた。


「……お前、バロウ・テラネイアだろ」

「……」


 ……嘘だろ、ファミリーネームも知ってたのかよ!

 図星を突かれた俺は、開いた口が塞がらなかった。


「何やってるのよ、お兄ちゃん!」

「まさか、フルネームを知られているとは思わなかったんだよ!」


 自分のバカさ加減に失望し、落胆して額を押さえる俺。そして、今にも説教したそうなメノアの形容し難いワキワキの様子が見て取れた。


「コイツが目的の奴かヨ……」


 呆れた様子のサングラスを掛けた鶏冠頭にそんな残念そうな声を受け、より恥ずかしさを感じる。


「コイツ……バカだろ……」


 それだけは言われたくなかったっ!!


「割と若いように見える。だが、聞いてた情報とは少し……少し何かがないのである。もっとこう……ラキウスみたいな奴だと思ってたのだが」

「おい! こんなのとオラが同じわけないヨ、こいつにはオラみたいな熱さが足りないヨ!」


 もう一回やり直しさせて欲しい! 今のところを無かったことにしてくれ……っ!!


「お兄ちゃん……もうあの人達、話進めてるからいつまでも自分責めてないでよ」


 メノアの言葉に現実へと戻り、ようやく目の前の三人の顔を見る。


「あ、ああ……。それにしても自分が情けない。

 こんな簡単なトラップに引っ掛かるなんて……」

「いや、自分で話してたんだヨ?」

「……話を進めていいか、バロウ?」

「あー……ご自由にどうぞ」


 これじゃあ、どうせ逃げられないからな。イドラさんとの約束があるし、さっさと終わらせてくれ。

 適当な返事をすると若い少年が本題を切り出す前に紹介を始める。


「まずこいつらは左がゾアス、右がラキウスだ。うるさいから気にしなくていい、ここまで送ってくれただけの奴らだ」

「……酷い言われようだヨ。ゾアス、言い返しなヨ!」

「お、おう……バカ野郎……」


 覇気のない声でケンタへ向けて罵倒をとりあえずの如く発言するゾアス。


「そんなんじゃゼンゼン足りないヨ!」


 二人の話を聞くと長くなりそうだと思った俺は、ケンタの言う通りに二人を無視して話を続けることにした。


「それで、神様の遣いが何の用だ? 俺はもう用済みだったはずだが?」

「うん? そうか、神様のことはアンタも知っているのか。そっかそっか……」


 ケンタはそれを聞いて何故か腕を組み、ニヤケ始める。その目線がメノアを見ているようで、何となく察しはついた。


「お兄ちゃん、この人ちょっとっていうか……かなりおかしいよ」


 確かに急にニヤケて怪しい。関わらない方が良かったな。今更だが、後悔している。まさか、メノアにそんな目線を向けるなんてな。

 ケンタは我に戻ると、コホンと咳払いを入れて話を続けた。


「俺はアンタを探していた。アンタを倒せば勇者になれると聞いて、訳も分からずアンタを探すしかなかった。だからこうしてやっと、アンタに会えたことが嬉しいよ」


 倒す? 勇者になれる? コイツ……神が差し向けて来た勇者候補か何かか!?

 俺を倒したら勇者になれるなどと嘘八百並べやがって……こいつの言う神ってのは若い方のようだな!


 俺はケンタの話を聞いて大体の見当が付いた。

 神の誰かが俺をコイツの当て馬にしようと考えたのだろう。俺を倒す事でレベルを上げる事ができるだろうという算段なのだと。


「メノア、臨戦態勢だ! コイツら敵だ!!」

「え、え?」


 俺は腰の剣を抜いて構える。

 コイツが勇者候補という事で、実力的には申し分ないと仮定した。相手を上級ランク冒険者と同じと位置付け、警戒する。

 メノアは困惑するも、とりあえずの構えだけはとる。剣を抜きはしなかったが、メノアは人間相手ならそこそこ体術もできるからおそらくは大丈夫だろう。


「どういうこと!?」

「おい、やる気だヨ、コイツら」

「ケンタ、どうするのだ? ラキウスもやりたいみたいだが……」

「どうせ俺じゃお前らを止めることはできないからな、勝手にしろ。

 バロウは俺の相手だけどな!」


 ケンタは武器を持っていないようで何かの拳法の、ゾアスは背中の斧を、ラキウスは背中から弓を出して構えた。


 はぁ……なんで平穏に暮らしたいのにこれだけ嫌な事が向こうからやってくるのか……。

 ここは幸い、街から少し距離がある。魔法を使用しても、それほどの被害は出さずにできるはずだ。一番の懸念は、前のように子ども達がこちらの方まで来ていないかということだな。

 今回は子供達も本当に来ないでくれよ…………。


 状況を整理する。遠距離型のが1人いた。それに援護されると、戦況がかなり厳しくなるのは目に見える、と考えた俺はメノアをそいつに当てるようにした。遠距離相手なら近距離型の方が一対一の立ち回りは楽に済むだろうと思考を巡らせた結果だった。


「メノアはあの弓の野郎をやれ、残り二人は俺がやる」

「正気? なんとかして逃げようよ、こんな勝負受ける意味ないって!

 しかも相手の方が人が多いし、勝つのも難しいって分かってるでしょ!?」


 メノアの言いたいことは分かる。森を利用できれば、逃げることも可能かもしれない。だけど、それならばせめて弓の奴だけは何とかしなければならないだろう。森に魔法を撃ちこまれても厄介だ。ケンタは武器を持っていないし、多分近接戦闘型でスピードがあるはずだから、弓の奴を倒す前に邪魔されるだろう。

 それなら、俺がそれを引き付ける必要がある。どちらにしても少しの間は戦わないといけない。


「メノアは逃げられれば逃げろ、俺ができるだけ引っ張るから」

「そんなことしたらお兄ちゃんが3対1になっちゃうでしょ。仕方ないから手伝ってあげるよ」


 いつもながらたくましい妹だ。今回もその妹に甘えるとするか。

 メノアは俺を見て頷くと、先に仕掛けていく。速い初速でラキウスに向かっていき、蹴りを相手の胸に当てて俺たちから二人して離れていく。


「ンッ!!?」


 しかし、それを見てもケンタとゾアスは気にしていないように眉一つ動かさなかった。


「アンタの妹も強いね。ラキウスもできるほうだと思ってたけど、そっちの方もやりそうだ」

「……やれやれ、二人相手でやれるつもりか?」

「何言ってんだ? どうせこうなるって分かってたくせに。

 俺に用があるんだろ、二人まとめて相手してやるよ」

「言ってくれるじゃん。

 何を上から目線で見ているか知らないけど――アンタは俺一人だって倒すことができないどころか、這いつくばって命乞いするしかなくなるのを実感するといいよ!!」


 挑発に乗ったようで、いきなり魔法陣を目の前に展開する。その魔法陣は見た事のないオレンジ色で、つ中の内容について触れられるところが一切ない。

 いくつかの魔法陣を見て来た俺でも、これが何の魔法になるか想像ができなかった。


 魔法陣か。でも、見た事ない魔法陣だ……エクストラ魔法か? 神の遣いなだけはあって、魔法に関しても能力は高いってか?


 だが、それは魔法陣を見た時の意見だ。コイツは十中八九、近接戦闘型だから使用するとすれば身体能力向上系の魔法だと検討が付く。


「カリエンテ・オーバーフロー!!」


 魔法陣は動くと、ケンタを通って魔力回路を伝い、その力を体に読み込んだ。


「そんな魔法、知らないぞ?」


 魔法陣が動いた? ただの身体能力向上系の魔法じゃないのか!? こんな魔法は見た事がない。


「こいつの魔法はすごいぞ……今に分かることだが」


 ゾアスは不敵に笑って傍観するのを暗示するように腕を組む。

 ケンタが動くと、その後ろにとてつもない土煙が巻き上がり、気づけば俺の頬にケンタの拳があった。

 やっぱり、身体能力系統の魔法か!!


「ッ……!!」


 殴られた俺は、後方50メートルを転がって、うつ伏せになる。殴られた時に剣を手放してしまうほどの衝撃が頬に残り続けている。

 骨は折れていないようだった。一瞬避けようとして、場所がズレたのが良かったんだろう。しかし、それでも相手のスピードは速く手に負えるか不安になる。逃げる事も視野に入れる必要が出てきた。


 こりゃあ……めんどくさそう……。

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