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勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地まで逃げることにしました  作者: 天空 宮
第一章 「勇者を解雇されたので、辺境で静かに妹と暮らしたい」
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1話:プロローグ1 間違った勇気

 およそ百年前、魔王の力が台頭して世界は崩壊の道を辿った。

 世界の3割を魔王軍が支配し、世界の危険レベルが急激に増加するのを感じた神達はこの世界へ干渉するようになり、この世界に『勇者』を創造するべく『紋章』という力を作った。


 紋章は、【勇気】、【愛情】、【友情】、【誠実】、【知識】、【純真】、【希望】、【光】、【闇】の9つありそれら全てが自らの意思を持つらしい。

 意思を持つ紋章は、自分の性質に見合った宿り主を選び、その者の力となる。その力を持つ者を、人は勇者と呼んだ。



 魔王を倒した勇者達のおかげで世界の崩壊進行は止まり、平和な世が戻ったかに思われた。

 しかし、それは止められただけに過ぎず、いずれ崩壊の進行は進んでいく運命となっている。それは魔王の復活に伴い進行し、それを次は止めるのではなく崩壊そのものをなくさなくてはならない。

 紋章は元の宿り主である勇者から離れ、魔王を完全に消滅させる為に新たなる勇者を探し始めた。

 今となっては紋章の動向は分からず、それを知っているのはそれぞれの宿り主のみとなっている。


 既に魔王軍は動き出しており、今も人々に恐怖を植え付け、大陸を穢している。その魔王軍を倒すのも勇者の役目であり、最後には魔王を倒すのが使命だ。

 ……俺もそのうちの一人だった――。



◇◇◇



 魔王軍と戦う前線から遠く離れた辺境の地ミシネリア。

 水源が豊富で農業が盛んだが、近くの森から魔獣が来る為に作物が食べつくされてしまうことが何度かある。それが理由で近くの街のカマナンへ依頼を出すほどだが、交通の便が悪いこともあって冒険者も物好きくらいでないと助けに来てくれない。そのおかげで毎年いくらか魔獣に作物を取られて、ここの人々は苦しんでいた。


 冒険者達は交通の便が良くなればと思うところだろうが、街との間には大きな崖があり、大きく回り道しないと来ることができず、その回り道が魔獣の巣窟である為に来る事を拒むのが真理だ。その為、ここへ街からやってこられる者自体少なく、人が寄り付かない地でもある。


 ここに来る者は逃亡者か、変人か、はたまた――

 今の俺にはここがあっている気がした。



「ゴブリン20体の耳と、オーク1体の爪……」


 冒険者ギルドの収集品買い取り窓口で俺は倒してきた魔物の身体の一部をカウンターに乗せた。


「いつもすごいですね、こんなに倒してきてくださる冒険者はそういません……合計で250ペドリですね」


 受付嬢は手慣れた様子でテキパキと算出した代金を俺に手渡す。


「またよろしくお願いしますね、バロウさん」



 カウンターから離れると、待っていた少女が寄って来て楽しそうに俺の隣を歩く。

 こいつの名前はメノア、名のある冒険者にありがちな異名まで持つ実力者だ。

 艶のある長い黒髪にクロス型の髪飾りを付けており、動きやすい格好で腰の片側には赤いウエストポーチをぶら下げ、もう片側には鉄の剣を刺している。我が妹ながら可愛らしい顔つきでギルドではどの受付嬢より人気ともっぱらの噂である。また細い体つきの中にふっくらとした膨らみがあるのもその理由に入るのかもしれない。

 兄としては人気なのは嬉しいが――この街ではないが、偶に変な奴が寄って来るので目が離せない。

 コミュニケーション能力が高く誰とでもすぐに打ち解け、街の住民達とも交流が深いので頼りになるし、俺の心の拠り所でもある。


「お疲れ様、お兄ちゃん。今日はどのくらいになった?」

「ぼちぼちってところだな」

「そっか。今日は少ない方だったし、しょうがないよね」

「……別にいいさ」


 前とは違うレベルの敵、前とは違う安らげる環境……俺がこんな場所に来る時がこようとは、戦場を狂人の如く駆けまわっていたあの頃は全く想像しなかっただろう。

 何故俺がこんな場所に身を置いているかというと……俺がこんな辺境の地でゴブリンなどの雑魚相手に冒険者として戦っている前の話だ。



◇◇◇



 およそ一年前にさかのぼる。

 俺は勇者パーティの勇者の一人をしていた。宿した紋章は――【勇気】。

 こんな辺境の地で無かったなら俺の名前を聞いたことがある人は大勢いただろう。

 その名をバロウ・テラネイア。めったに顔を出さずに百年の間倒されていなかった魔王軍幹部の一人の『ジュペッタ』を倒したのがこの俺だ。


 勇者は、紋章が体のどこかに刻まれている。俺も一年前は胸のところに【勇気の紋章】が刻まれていた。神様にも逢って宣告を受けており、その二年後の十歳の時に紋章が俺に宿ったのだ。

 力を得た俺は最強で体から湧き上がってくるものがあった。

 あっというまに人生を駆けあがった俺は最前線で魔王軍と戦うようになり、時には仲間を従えた最高峰レベルの冒険者だった。

 最後には他の勇者とも苦楽を共にした。

 しかし、俺は力を過信するあまり周りが見えなくなっていたんだ――。


 最後の最前線での戦場で俺は仲間を連れ、兵力が十倍以上の敵を吹き飛ばし、魔王の幹部の一人を討った。

 しかし振り返った時には、俺の仲間は誰一人いなくなっていた…………。



 同じ勇者で【誠実】の紋章を宿したシンセリードと【友情】のアミスに幹部を倒した祝勝会の途中で個室に呼び出され、そこには一つのテーブルを囲んで三つの椅子が用意してあった。


 シンセリードは、薄い灰色の髪に緑色の瞳をした俺やアミスより身長がある190センチ超えの細長い男。何事も心配性な性格でよく気が利き、このパーティのリーダーでもある。

 アミスは、一国の王子で王族らしいキラキラとした金髪と青い瞳を持ち、防具もお高そうな最先端なものばかりで通気性も耐久力も申し分ないものを身に着けている。どういう意味のある物かは分からないが、両耳にも黄色い水晶型のピアスを付けていて、なんともいけ好かない野郎だ。


 最近アミスと俺は意見の食い違いで衝突する事が多くなっており、顔を合わせるのが躊躇われるほどだったのだが、この三人で集まる会議に出席しない訳にはいかない。それが勇者パーティ結成当時からの約束事でもある。


 俺はそれまでの勝利の美酒に酔いしれており、一番に席に着いて背中を椅子に預ける。それに続いてアミスとシンセリードも無言でゆっくりと席に着いた。


「お前には付いていけない」


 アミスから重々しく出た言葉で俺がそれまであった達成感が吹き飛び、自分がいる空間が静まり返ったのを初めて理解した。

 こういう場は好きではなかったのだが、この時は酔っていた事もあって前のめりにアミスを睨み付けて言葉を返す。


「――どういうことだ?」



「独り相撲は一人でやってくれ! 何人仲間を死なせたのか分かっていないのか!!」



 アミスが怒鳴りながら出す言葉で何を言いたいのか大体の検討が付いた。アミスがこれまでに何度もこの事について俺に追及してきていたからだ。

 今回はシンセリードも一緒だが、それでも俺は考えを変える気はなかった。


「これは俺のやり方だ、死んだのなら死んだ奴が悪いだろう」


 俺は、またかと呆れた様子でそっぽを向きながら答える。

 そうするとアミスは立ち上がり、テーブルに拳を振り下ろして怒鳴りつけてくる。



「これは遊びじゃないんだぞ!!」



 頭に血が上って反発するように立ち上がった俺は、一方的に叱咤されるのに耐えられずにアミスを睨み付け、今にも殴り掛かろうとするような雰囲気がアミスとの間にできていた。

 シンセリードも慌てて立ち上がり、俺とアミスとの間に入って俺たちが騒動を始めないように手を広げる。


「やめろ、喧嘩がしたくて集めたわけじゃない!」



 シンセリードは俺を見ると、訴えかけるように話しかけてくる。


「……バロウ、もう君のやり方はこの先ではやめてほしい。そうでなくとも既に仲間は少ないんだ。

 これ以上仲間を失えば、魔王討伐自体が夢に消えてしまう」


 しかし、俺は自分の戦い方を変えるつもりはなかった。


「わかんないね。俺は俺のやり方を、俺の信じるやり方を突き通す。もし嫌なら俺は味方無しでも構わない」


 シンセリードの代わりに奥のアミスがシンセリードの腕に止められながらも今にも襲ってきそうな形相で叫ぶ。



「そのせいで仲間を死なせたんだろうが! キミニアも、センも、ボルデンも……お前のせいで死んだんだぞッ!!」



 いつもクールなアミスがこの時だけは声を荒げて怒っていた。

 アミスが挙げていたのは戦場で俺に付いて来ようとして死んでいった者達の名前だ。全員俺が巻き込んだ者達だ。


「もっと考えろよ、俺達は勇者でその力を持っている。だがな、他の奴等はそんなもの持っていないんだ! 簡単には怪我は治らないし、攻撃力、防御力、ありとあらゆるものが俺達より劣っている! その自覚を持てって言ってんだよッ!!」

「――それくらい知ってる! だから来れるところまで付いてくるように言ってあるんだろうが!!」


 終始不安そうに俺とアミスとの間に入るシンセリードは、俺たちが声を荒げて口論するので他の者達に気付かれたくないらしく扉の方を気にしながら止めようとしていた。


「二人共、落ち着こう? 外に聞こえるよ……」



「それは、仲間にとっては死ぬまで付いて来いってことだろうが!!」

「そんなことは言ってねーだろ!!」


 俺とアミスの口喧嘩に先には見えなかった。


「お前が言っていなくても、他はそう解釈すんだよ! お前は何もわかってないんだよ!!」

「…………話にならねェ」


 これ以上は話にならない、何を言ってもアミスに否定されるに決まっている。

 どうせ俺の事を信頼してくれた事なんて一度だってないんだからな。部屋に戻って寝て、明日に備えたほうがよっぽどマシだ!


 俺は見切りをつけたように視線を逸らし部屋から立ち去ろうとした。


「おい、待てよ!」


 それをアミスに呼び止められた。


「話は終わってねーだろ!」


 アミスがどこかの街の路地裏にいそうな不良のような目つきで近寄って来た。いつものアミスからは見られない本気の目だった。



「俺とやるってんなら乗ってやるよ。けどな、俺は俺の信念を貫くぞ、それが神と交わした約束だしな!」

「分からず屋め!」


 喧嘩腰で俺へ近寄るアミスをシンセリードが体を張って抑える。


「やめろ! 喧嘩なんて無意味なことするなよっ!!」

「…………」


 それが俺が最後に見た二人の顔だった。アミスは怒り、シンセリードは困った顔でアミスを俺へ近づけまいとしていた。

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