あとがき……のようなもの 3
ウィッグについて
多くの女性にとって(最近は男性もだが)、抗がん剤による副作用で一番いやがるのが脱毛だ。
わたしは楽しんだ。職場の男性にハゲ頭を見られても、全然気にならないほどに。
だから、ウィッグのパンフレットは見たが、購入は最初から一切考えていなかった。ある程度まで伸びる一年ほどしか使用しないのに、お金をかけたくないとも思っていたし。
作製した帽子はすべてゴムがついていないので、生えてきた髪の毛により作業中にずれるのが鬱陶しかったこともあり、仕事先の担当場所が変更したと同時に、仕事中(仕事用)は被らず、帰宅時や休日の外出時(外出用)のみ帽子を被るようにした。(出勤時は被らなかったが、帰宅時は近所の詮索好きでいいふらし屋の老女に遭遇するため被っていた)
当初はまったく気にならなかったのだが……。
10月頃から年末まで、午後の休憩時間も帽子を被るようになった。
直接の原因は他業者の女性のせいだが、その背景に一人の女性アスリートが存在する。
その女性(あぁ他業者の女性)は、帽子を被っているときから、会うたびに同じことをいってくる。
「鉢がいいから」「頭の形がいいから」「ずいぶん伸びてきたね」と。
そのときは、しつこい人だなとしか思わなかった。
さて、ここで女性アスリートが登場するようになる。はじめに断わっておくが、彼女にはなんら含みはない。逆に尊敬すら覚える。(だが、まぁ正直いえば当時はヤラセ? と思ったことも事実だ)
彼女がウィッグをつけず地毛でマスコミの前に姿を晒したことによって、いってくる言葉が一つ増えたのだ。「○○○ちゃんみたい」と。
最初のうちは、あーそーですね~と受け流していたのだが。
そのうちにわたしのことを「○○○ちゃん」と呼ぶようになった。(同時期に夫婦で話題になっていた女性議員の髪型とも同じだったが、そちらの名前では呼ばれたことはない)
会うたび会うたび、別の名前で呼ばれることに苛々してくるのだ。ちょうど新しい作業場所でスムーズに遂行できるように試行錯誤している段階であり、まだ女性ホルモンを補充していなかったので、いわゆる更年期の苛々と重なる時期でもあったため、激しい嫌悪感を抱くようになってきた。そのうちに休憩後に嘔吐するまでとなった。
こりゃ駄目だと、体重が一月で3kg減って(なんと40kg切ってしまった)危機感を覚えた次の日から、午後の休憩時に帽子を被るようになった。
一回だけバッグに帽子を入れ忘れた日があり、ハンカチを軽く縫って帽子の形にするほど徹底して地毛の状態を見せなかった。
この日、さすがにおかしいと思ったのか同僚の女性に聞かれたので、「これ以上ストレスを溜めたくないので」と返答し、遠回しに忠告してくれるようにした。
そのおかげで、話しかけてこなくなったのである。穏やかな休憩時間を過ごせるようになり、体重もまた増えてきた。万々歳である。
すべてはタイミングの問題だ。女性アスリートが地毛を晒した時期が重なったことによる。(ウィッグを使用していたのだから、競技していないときはウィッグをしてほしかったと思ったのは私のわがままだ)
なので、周りに抗がん剤投与を終えた方がいる方へ。なにが引金になるかわからないので、話しかける言葉には細心の注意を払ってほしいです。
痩せたとか太ったとかいう体型に関することはもちろんだが、(髪が)伸びたねとか切らないのとか、普段なら何気ないことでも以外とカチンときてしまうものです。