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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
王の娘
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9

短いようで長かったなあ。久々の王都で、私は感慨深く、トッドとレベッカ様を見つめていた。


トッドがレベッカ様にお詫びをした際、二人で話しあった結果は、とにかくお互いを知ろう、ということだったらしい。レベッカ様はご不満のようだったが、


「ランス・ウエスコットなんて目じゃないわ。気にした事もない。」


との宣言に、トッドが、


「それじゃあ、レベッカ様、私を愛しているのではなく、農夫のトッドを愛しているってことじゃあないですか?」


と返して、


「ぐぬぬ。」


と、なっていた。だから、お互いもっと本人を良く見極めようということで、時間を取ることになったのだ。


その間、トッドが王都を訪れて、王都の社交界に顔を広げることになっていたのに、レベッカ様ときたら、しょっちゅう王都からの戻りの蒸気船に紛れ込んでウエスコット領に現れた。


お陰でウエスコット領では、頻繁にトッドの叱る声が聞こえるようになった。


ある日、また石炭で真っ黒になったレベッカ様を見かけて、


「蒸気船ですか?」


と、聞いたら、嬉しそうに、


「トッドがトロッコに乗せてくれたの。すっごい楽しかった!」


と言われた。律儀なことに、トッドはトロッコを引っ張って元のところに戻している最中だそうだ。炭坑長はトロッコを引っ張る領主様を見かけて、度肝を抜かれただろう。


トッドが、あの感情豊かな子供時代を取り戻したのは確かだった。笑い、怒り、巫山戯て、そしてついに2年後、レベッカ様と愛を語らった。


周りの人間()が歓喜し、涙する中、王宮で、若きトッド・ウエスコット辺境伯と、レベッカ王女の婚約の儀式が開かれる運びとなったのだ。


派手なことをしたくないという両者の願いにより、式は、陛下と王妃、ネルソン殿下とエマ王太子妃、ネイトとダイアナのフォークナー侯爵夫妻(また出世していた)そして、夫妻の3人の息子だけが集まるという、至って簡素なものだった。


遠方にお住まいの他の王子、王女ご夫妻には、後ほど二人で挨拶に回るから、ということで、今回はご参加を見合わていだだいたそうだ。臣下に降られた王家の貴族をお呼びして、参加の枠を広げると、ウエスコットに媚びる貴族たちや、反ウエスコットのきな臭い動きに巻き込まれるかもしれない、ということらしい。この子たちの前途には、これからも色々あるのだろう、と、思った。


だが、いつまでも一所にいられないのが私の運命だ。最後にトッドとレベッカ様の婚約を見届けるために、私が末席ながらも紛れ込ませていただけたのは、本当に幸いだった。


そうでもしないと、胸のざわめきが消えない。レベッカ様には、何度も


「大丈夫?本当に大丈夫?」


と、聞いてしまったが、レベッカ様は、幸せそうな笑顔で頷くだけだった。その笑顔を信じようとは思った。しかし、どうしても不安がどこからか私の胸に押し寄せてくる。


「アイツは本当に諦めたのだろうか。」


だから、この式をどうしても見たかった。


+ + +


王宮の謁見室に、皆が集まっている。天井の高いこの部屋には、ステンドグラスから、色とりどりの光が差し込み、踊っている。


中央に立つ陛下と王妃は、正規の婚約に敬意を評して、簡略なデザインの王冠とティアラをそれぞれ被り、ガウンを羽織っている。


そのお二人の前に、演壇のような台が配されており、婚約の運びを記すための証書が、無記名のまま平たく置かれていた。


ペンを取ったトッドが証書にサインする。茶色の燕尾服の胸元から、工夫してた滝のように結ばれたクラバットがのぞいている。朝、ネイトが大騒ぎをしながら結んでやった、最新のデザインだ。


トッドがペンを置くと、そのペンをレベッカ様が手に取る。レベッカ様は、今ではすっかりお気に入りのエンパイアスタイルの白のドレスを着ている。今日は、後ろの裾が、1メートルぐらい引きずられるタイプのものだ。降嫁することにより、これが最後になるかもしれない、王女のティアラをつけている。首元には、フォークナー夫妻から送られたダイヤモンドのネックレスが輝いている。


皆が見守る中、レベッカ様がトッドの名前の横に、サインをした。


王と王妃が、証人として、サインをすべくペンを取った際、地中から響くような声がした。


「異議を申し立てようか。」


畜生!畜生!畜生!


私は声にならない叫びをあげた。


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