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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
王の娘
81/92

3

ダイアナが自分のこめかみを、両手の指でグリグリマッサージしながら私に問いかける。


「で、どうしてお母さんがこのかなり望み薄な『ラブラブ』計画に参加してるの?」


どうやら頭痛が起きるぐらいの進展状況らしい。私は早口に答える。


「レベッカ様には借りがあるのよ。レベッカ様というよりは、レベッカ様の前世にね。彼の方は、リーア様という、精霊王の娘だったのよ。人間に恋して、精霊王の罰を受けて魚になったところを、私がうっかり食べちゃったのよ。」


ダイアナの目が2倍に開き、グリグリしていた手が止まった。


「へ?」


「鯉だったわ。家族で食べようって、亭主が釣ってきたから、私が料理して。ちょっと味見までしちゃったのよね。そしたらいきなり精霊王が現れて。」


ようやく口がきけるようになったダイアナが呟いた。


「お母さんの言っていた、精霊王の呪いって・・・」


「そう。リーア様を殺したから、ってことで、受けたのよ。因みに、レベッカ、いえ、リーア様が恋した相手が、トッド・・・の前世のトッドって人だったらしいわ。」


「へっ?」


ダイアナは、驚きの声をあげると、再び黙り込んでしまった。


「今世のトッドに、トッドって名前をつけちゃったから、ややこしいんだけれど、リーア様と恋に落ちた若者が、トッドって人で、その若者が何度も生まれ変わって、今のトッドなの。」


私が正気なのか確かめるために、ダイアナが横目で見る。混乱するわよね。ごめん。


「リーア様はそのトッドの生まれ変わりをずっと追いかけて、輪廻転生しているんですって。その度に精霊王の横槍でうまく行かなかったらしいんだけれど、今度こそ結ばれたい、ってことで協力しているの。」


ネルの話は飛ばした。ダイアナがどんな風に受け止めるか、ちょっと気になったからだ。


ダイアナは、しばらく上を見ながら考え込んでいる。


「レベッカ様が精霊の生まれ変わり・・・精霊・・・」


こちらをいきなり向いた。


「レベッカ様って、前世の事を全部覚えてるってわけ?」


「そう。」


短く返事をすると、それを聴いたダイアナがまた上を向く。


またこっちを向いた。


「今までうまく行かなかったのよね?精霊王のせいで。どうして今度はうまくいくと思っているの?」


「勝算があるらしいわ。詳しくは知らないのだけれど、いざとなったら助けてもらえるらしいの。今のところなんの横槍も入っていないから、大丈夫だって本人は言っているわ。」


ダイアナが腕を組んで眉にシワを寄せている。


「精霊ねぇ。それであんなおかしな性格なのかしら。」


そうれはどうだろう。よくわからない。


だが、私がレベッカ様推しなのは、はっきりさせておこう。


「まあ、何度生まれ変わっても、探し当てるぐらいトッドに惚れ抜いているんだから、ここは一肌脱ぐわ。


『ラブラブ作戦』をもって、トッドへの最後のご奉仕にするつもり。人の口に戸は立てられないから、私もこの地を離れる時期に来てるのよ。」


なるべく人に会わないようにしていても限界だ。元々いい年だから、皆、老化しない私に当初はあまり疑問を持たなかったろう。しかし、そろそろ他の使用人たちも首をかしげている。


トッドには何度か暇を申し出たけれど、許されなかった。家族と呼べる人は貴方しかいないのだから、自分に家族ができるまで、待っていてほしいと言われると、なかなか踏ん切りがつかなかったのだ。レベッカ様とうまくいけば、トッドにも自分の家族ができる。


ダイアナの瞳が心配そうに曇った。


「こんな田舎にいるから目立つんじゃないの?王都の私の屋敷に来たら?都会じゃあ他人の事なんか気にしないだろうし、まだ大丈夫じゃない?」


「いえ、ラ・ロッシ関連の人たちにいつ会うかわからないから、とてもじゃないけど王都には行けないわ。」


それを思い知らされたのは、リディアとの邂逅だった。


トッドが辺境伯の爵位を受けとる際、私もトッドについて、久々に王都に出かけたのだ。王都で買い物をし、休憩に立ち寄った評判のカフェでそれは起きた。


「あら!お母さん!」


色とりどりに揃ったケーキを眺めていたので、カウンターの後ろにいた女将さんにまで注意を払っていなかった。


「おかわりなく!元気そうで!懐かしいわ!」


リディアだった。溌剌とした下町のパン屋の女将さんになっていた。


あの透き通るような年齢を超えると、リディアは本当に、普通の女の子に育っていったらしい。ふっくらして、陽気な、どこにでもいるような。いや、そこまで普通ではない。なんとか小町と呼ばれるぐらいの美しさはあったのだ。


だが、高級娼婦としては、


「才能ないわぁ。」


というパトリシアの判断により、早々に嫁に出された。それがこのパン屋であり、手を広げて、カフェも出した、ということだった。楽しそうにやっているのは、良い事だ。だが、私は肝が冷えた。


王都にいる限り、どこで女の子たちと会うかわからない。以降、ずっと領地でこもっている。


ダイアナの声で我に返った。


「まあ、あの子がそこまで執着しているのなら、ここは一つ頑張っていただきましょうか。」


ため息混じりにダイアナが呟いている。


そう、あの子だけでもトッドと共に、無事安寧の地を見つけてもらいたいものだ。絶対に手に入らぬ物を求めて彷徨い続けるのは私だけで良い。


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