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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
王の娘
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2

「とにかく、姿形だけでも、もう少し大人になるべきですわ。」


到着早々、レベッカ様を上下に2回、睨め付けるように見て、そう判断したのはダイアナだ。私から手紙を受け取ったら、早速飛んで来た。おまけにネイトも出張先からこちらに直接来るらしい。


「何もそんな・・・」


と、私が言いかけたら、ダイアナは、


「ネイトが来るのは視察団と話し合うためだから気にしないで。」


と、言った。元々視察団が来る事はネイトにも伝えてあったが、隣国で大きな取引のための話し合いをしているので、来れるかどうか微妙、お相手はトッドで、ということになっていた。しかし、トッドからの途中報告の手紙を見て、すでにネイトはこちらに向かっているという。


ダイアナはここで、ネイトに落ち合うつもりらしい。


20年あまりの歳月は、それなりにダイアナに貫禄と小じわを与えていたが、その美しさに大きな変化はない・・・と、私は思う。本人は、


「やあねぇ。どんどんお母さんに近づいていくわ。お母さんになるまであと数年よ。」


と、ぼやいているが、どうやったら美魔女のダイアナが私になるというのだ。たとえ貴方が3人の子持ちで、 お母さんとしての年季を積んでいるとしても。


母親業の傍ら、ダイアナは、ネイトとともに、ウエスコット家に繁栄をもたらした 。フォークナー夫妻の活躍なしには、現在のウエスコット家はあり得なかったろう。私がアヘン中毒のランス・ウエスコット卿を頑張って生かしていた4年の間に、フォークナー夫妻は、ウエスコットの養女とその夫として、領土を完全に掌握した。枯れ枝のようにやせ細ったウエスコットが死んだ時には、彼らが領土を治めることについて、領内からはなんの文句も出なかった。


「悪評高いウエスコットより、はるかにましだと思われたから。前任者が無能だと楽よね。」


ダイアナは今でも苦笑いしている。


王室は私たちの事を様子見だったけれど、領内を安定させ、領民に受け入れられた夫妻を認めざるを得なかったらしい。王室がためらううちに、夫妻は、ウエスコット領から一大産業を起こした。石炭だ。かつては、ストーブや、鍛冶場でしか使われていなかった石炭を、蒸気ボイラーという新しい技術で、大きな屋敷や家の暖房を賄うことになり、石炭の需要を一気に増やしたのだ。現在は、王宮を始め、王都のほとんどの屋敷がこの石炭暖房を使用している。


けれど、フォークナー伯爵夫妻は、(その功績を認められ、伯爵籍を授与された)トッドが成人すると、辺境伯の領地経営をほとんどトッドにまかせ、現在、蒸気を工業や乗り物の動力とするための技術交渉のため、様々な国を回っている。


だから、今回のようにウエスコット領に夫婦が揃うのは久しぶりだ。


ぼんやり考え事をしているうちに、ダイアナとレベッカ様の口論が始まっていた。


「マナーはお母様仕込みなんだから、大丈夫よ!」


レベッカ様の口がへの字になっている。


「もちろんですわ。妃殿下のお振る舞いは見事なものでございます。一分の隙もございませんわ。」


このダイアナの薄い笑顔には覚えがある。やれやれ、レベッカ様、ご覚悟を。


「陛下も妃殿下も、レベッカ様を大変可愛がっていらっしゃいます。末っ子のレベッカ様を、図らずも、幼い子供とお考えですわ。ですが、トッドは、大人の女性とのお付き合いしかいたしませんわ。レベッカ様の年齢は変えられませんが、せめてお振る舞いはもう少し落ち着きましょう?」


そう言うと、ダイアナが、手早くレベッカ様付きの侍女に、指示を出す。


「御髪もハーフアップにして、そのドリルをやめて、もう少し自然なカールにしましょう。ドレスもひらひら、ふわふわばかりではね。すっきりしたエンパイアラインのものはないのかしら?」


侍女たちが、手持ちのドレスを持って来たので、ダイアナが確認した。どれもペチコートで思いっきり膨らませるタイプのものばかりで、胸元もひらひらなら、袖もぱふぱふしていた。


ダイアナが、白いドレスを引っ張りだして訝しそうに眺めている。


「それは勝負用ドレスよ!」


レベッカ様が高らかに宣う。ドレスは、モスリンの白で、何重かにはなっているが、 胸元が透けている。


あたた。


「ドレスなんですか?下着ではなく?よくこんな服を持っていくことを陛下がお許しになりましたねぇ。」


ダイアナが呆れている。


「・・・お父様とお母様には内緒で持ってきたの。大人の女性に見えるでしょ!」


いやいや、貴方。そのお胸では・・・


ダイアナがため息をついた。


「隠していても匂い立つのが、大人の女性の魅力ですわ。」


そう言うと、ダイアナは、侍女に、領内のドレス屋で至急、エンパイアラインのドレスを数着仕立てるよう指示している。


ダイアナがモスリンのドレスを処分するように言うと、侍女たちはあからさまにホッとしているが、レベッカ様はおかんむりだ。


「姿形から入るんだったら、そのドレスだっていいじゃない。もう!ダイアナったら、センス古いんだから。」


おおお、ダイアナのコメカミがピキッとした。


「古いとおっしゃいますか。痩せても枯れても、元高級娼婦、ラ・ロッシでナンバーワンを張った、この私に。」


レベッカ様がアワアワし始めた。ナンバーワンは、ラヴィニアだったような気がするが、それは置いておこう。


「そこらへんの男共だけではございません、王族から上級貴族まで手玉に取ったこの私に。」


レベッカ様は上目遣いで口を閉じた。王族って誰だっけ?と私は思い返す。


「トッドが姉とも母とも慕い、信頼する私に言いますか。」


お出かけの多い貴方に変わって、私が母代わりを務めていたと思っていましたが。そうですか。


「きゃー、ごめんなさい。もう言いません!」


レベッカ様が泣きべそをかいている。


「まずは、黙って聞き上手になることから始めなさい!!」


こうしてダイアナによる『レベッカ様改造計画』という名の二週間に及ぶ特訓が始まったのである。


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