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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
王の娘
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1

最終章をスタートいたします。よろしくお願いいたします。

「来たわよ。」


私は目をパチクリする。今、私に向かっておっしゃったわよね。


「約束通り、戻って来たわ。だから手伝ってもらえるのよね。」


そう宣ったのは、この国の第3王女である、レベッカ様だ。齢14歳。射抜くように見つめる、ちょっと吊り上がった目は、先端の鋭い青い宝石だ。よく手入れされた麦の穂を思わせる金髪は、二つに分けられ、耳の高さぐらいから綺麗に、幾つもの縦のカールとなっている。


その(宝石)が私を睨んでいる。第一印象で決めちゃあいけないと思いつつも、流石に王女様ともなると、ちょっぴり我儘そうだな、と思った。


王女様は私の執務室に飛び込んできて、請求書を机でまとめていた私の正面に立ったのだ。


「ちゃんと、ラ・ロッシで、約束したじゃない!」


あ、そうか!帳簿をつけていたペンが手から落ちた。


「ネル?」


そう問うと、レベッカ様の眉間にシワが寄った。


「レベッカよ。ネルは、その前の名前。でもそうね、ネルだった事もあるわ。」


そうかぁ。戻ってきたかぁ。王女様の姿で。懐かしさのあまり、暫くネル、ではなく、レベッカ様をじっくり見てしまった。


・・・ええ!待てよ?王女様?これはまた高貴なお姿でお戻りになりましたね。トッドを辺境伯にしておいてよかった。下手を打ったら、また、身分違いの悲劇を繰り返すところだった。


机から飛び立つように立ち上がった。


「まあ、まあ。よくぞお戻りでございました。」


感激のあまり、もう少しで抱きついて、失礼するところだった。ただの家政婦が、一国の王女に飛びついてどうする。代わりに深々とお辞儀をした。


レベッカ様はトコトコと机の前まで歩いてくると、そこに置いてある椅子にどさっと腰掛けた。


「トッドったら、全く私になびかないの。あ、そうだ。赤ちゃんをトッドって名付けてくれてありがとう。久々にトッドって呼べて嬉しかったわ。」


そう言いながら、レベッカ様は両手をお腹のところで組んでいる。


「どういたしまして。」


私は一応、お返事を差し上げた。とはいえ、あの時の赤ん坊は、もう25歳の青年だ。


私も席に着いた。


「あの、なびかないとは?トッド様が何か失礼なことをいたしましたでしょうか?」


恐る恐る尋ねてみる。


「こんなに好きだって言ってるのに、ぜーんぜん相手にしてもらえないんですけど。その上、色々態度で示してるのに、ずっと無視されてるのよ? どうしてなの?」


どうしてと言われても・・・私は、レベッカ様を見下ろした。


まず、当時母親だったネルに、トッドがなびかないと言われるのも、引っかかるものがある。


私の複雑な表情に気がついたのか、レベッカ様が、


「ネルじゃないわよ。レベッカなんだから。ちゃんと別の人間よ!」


と、おっしゃった。


「元を正せば、トッドとリーアという二つの魂なんだから。そこは気にしちゃダメよ。」


そうか。私の食べた鯉は、リーアという名前だったのね。あまりお近づきになるチャンスもなかったから、つい、最初の最初を思い起こせなかった。


頭を切り替えるため、『これはレベッカ様、これはレベッカ様』と口の中で呟いた。


当のレベッカ様といえば、椅子に深く腰掛けすぎたのか、足が床に届かず、ぷらぷらさせている。王族の一員として、ちょっといただけないマナーかもしれない。


「今回だって、トッドに会いたかったから、お兄様に無理矢理お願いして、視察団に同行させてもらったのよ。なのに、トッドったら、お兄様たちとばかり話をして、私のこと見向きもしないんだから!」


お兄様というのは、ネルソン王太子のことだ。現在、王太子をはじめとする視察団が、石炭とエネルギー関連の開発で成功しているウエスコット領にいらっしゃっている。


ネルソン殿下は、トッドと共に、早速、領内で最も大きい炭鉱の町へとお出かけになり、視察団の内この館に残っているのは、数名の騎士と、レベッカ様付きの侍女たちだけと聞いていた。私は、視察団が到着した際に、ご挨拶のため、他のスタッフと一緒に並んで頭を下げて、早々に引っ込んでしまったので、皆の顔さえよく見ていない。


トッドは、よほどのことがない限り、私を部外者に紹介することはない。何かのきっかけで、歳をとらない私に、誰かが不審な思いを抱かないようにするためだ。館の中でも、奥まった仕事をするだけで、なるべく外には出ないようにしている。


「ねえ、私のどこが不満なのかしら。」


そうレベッカ様に言われて、再度まじまじとそのお姿を拝見させていただいた。


不満そうに、睨んだその顔の・・・ほっぺたが膨らんでいるな。


「トッド様は、お父様の悪評のせいで、長く苦労していらっしゃいました。ご存知かもしれませんが、幼女の・・・」


「もちろん。前世で体験済みよ。」


そうでした。


「それゆえ、若い女性には極力近づきません。お付き合いのお相手は、大人の女性が多いと思います。おそらくレベッカ様のことは、子供すぎると思っているのでしょう。」


「貴方には負けるけど、経験値で言えば、十二分に大人なんだけど。」


はい。


「では、それに見合った振る舞いをおすすめいたします。で、レベッカ様は、過去の事をトッド様にお伝えされたのですか?」


「してないわ。頭おかしいと思われるから。」


私のことがありますから、トッドは、多少なりとも摩訶不思議なことには慣れているかと思うが。


「貴方は自分のことを話してるの?」


レベッカ様が首を傾けて私に問うた。


「はい。いつまでも年を取らないので、事実を隠しようもないですから。」


最初は乳母として、その後は、養育係として、トッドを育てて来た。トッドに手がかからなくなったな、と思ったころには、ダイアナとネイト、もとい、フォークナー伯爵夫妻が、次々と子供を預けて出張に行くので、乳母のお仕事は、なかなか忙しかった。そうこうしている内に、トッド様が、疑問を覚える年となったのだ。


「どうしてばあやはいつもおんなじ顔なの?」


そう聞かれて、妖精王の呪いであることを説明した。最初は半信半疑だったが、寝物語に、 不老不死がどういうものか、私が自分の冒険譚を語っている内に納得されたようだった。


「私のことも?鯉を食べちゃったことも?いつかは会いに来るって言った?」


ぼんやり思い起こしていた事を振り切って、レベッカ様の話に集中しようとした。


「いえ、そこは詳しくは話していません。禁を犯して妖精王の呪いを受けた身であることだけです。」


レベッカ様がため息をつく。


「貴方はそれで説明がつくけど、私は、トッドを追いかけてで、ずっと何百年もストーカーしてたことを話さなければならなくなるわ。それって、結構恥ずかしいわよね。」


はい、ドン引きだと思います。


「なるべく妖精王刺激したくないし、ひょっとしたら私たちのこと見てないかもしれないし。私はレベッカとしてトッドと結ばれるわ。だから協力してね。」


レベッカ様の、『トッドとレベッカのラブラブ大作戦』(断じて私が名付けたのではない)に参加を強制された。


どうやって協力したらいいのか、微塵も思いつかなかったので、これこれしかじかの手紙をダイアナに送ったところ、『面白そうなのですぐに行く』との返事が来た。


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