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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
娼館の乙女達
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おっと、不意打ちだ。いきなりで、頭の中になにも浮かばない。


「え?何をいうの?・・・もちろん私がここを仕切っている間ってことよ!」


そうだ。いいながら安心し始める。パトリシアに追い出されるまでは私の采配に任せていただこう。


ラヴィニアの半眼は開かない。


「いや、普通は『私が死ぬまで、それはゆるしませんよ』って言う意味じゃないの?『就職中に限り』なんて聞いたことないわ。


そもそもお母さん、死ぬの?少なくとも老衰では死にそうにないわね。化粧で誤魔化してるけど、私がここに来てから・・・10年近くなるけど、1日たりとも年とってないわよね。」


これだから、女の子たちをできるだけ早く回転させてたのに。ラヴィニアったら、なかなか腰を上げないから。


「そ、そう?お褒めに与り嬉しいわ。日頃の精進のおかげ・・・」


誤魔化そう、と思ったが、そうは問屋が卸さないらしい。私の話は遮られた。


「お母さん、与太話はやめてちょうだい。ロバータにも確認したのよ。あの人にもロマの血が流れてるから。ロバータは、貴方と私より長い付き合いだけど、やっぱりお母さん、老化してないって、言ってたわね。どういうこと?」


出て行く潮時なのかねぇ。人恋しくって、なんか思いの他居座っちゃったよ。まあ、出て行かなくても追い出されるか。


頑なに口を閉じていると、ラヴィニアが続けた。


「貴方、カカヴァの救世主(メシア)じゃないの?」


へっ?救世主?私は何も救えないわよ。


「なあに、それ?」


ダイアナが問う。


「ロマの伝説。ロマを救う、不老不死の神様。」


ぶぶっ。吹き出した。いやはや。娼館の神様かい。つまらない嘘をつく気力がぽっかり抜けた。


「不老不死ではあるけど、神様じゃないわよ。死なないだけで、なんの能力もないわ。」


ダイアナの目が大きく見開いている。パトリシアは全く信じていないらしく、笑顔のままだ。


とりあえず、説明するために、パトリシアが持ち歩いているナイフを借りる。パトリシアがガーターにいつも挟んでいるのはファッションのためと信じたいが。


そのナイフを右手で持ち、左手の手のひらをざっくり切る。いてててて。


痛みはあるが、傷は5分もしない内に綺麗に消えた。


3人はその様子をずっと黙って見ていた。


「いや、ほんとに。もし何かを救えるなら、とっくの昔にネルやネルみたいな子を助けて、ウエスコットに罰を与えてるわよ。雷かなんか落としてね。」


私は傷のあった方の片手を顔の前で振る。


「ない、ない。他の力はなーんもないの。なんなら試してもいいけど。殺しても死なないわよ。やってみる?」


ラヴィニアの目が開いた。


「いや、そのうち確かめる機会もあるでしょうけど、無駄な血は流したくないわ。というより、死なないなら無駄な労力だわね。」


その顔をまじまじとみていたダイアナが、呆れたように


「いや、まさかと思ってたけど。」


と、呟く。普通の人の反応はそうでしょうよ。どうやらラヴィニアは、ロマの信仰から何らかのヒントを得ているらしい。


ダイアナがブツブツ言っている。


「えー、不老不死って、永遠に若くって、歳を取らないっていう意味じゃないの?」


ごめんね、イメージに合わなくって。


「死なないって・・・年取らないって・・・それってどんな祝福よ。」


私は一応言い訳する。


「恩恵ではないわ。間違って妖精王の娘を殺してしまったので、その罰なの。この姿のまま、ずっと彷徨え、っていう罰よ。」


そう言ったところ、ダイアナがまじまじと私を見た。


「そう、その姿で・・・」


随分気の毒そうな言い方をなさいますわね。それもムカつく。


ここでようやくパトリシアも私の話がまんざら嘘ではない可能性を考え始めたようだ。


「殺しても死なないってことかしら。」


「そうね。酷い死に方でなければ、2時間から3時間で元にもどるらしいわ。バラバラ死体とかになったら、もっと時間がかかるだろうけど。」


魔物に踏み殺された時を思い出す。


パトリシアはなにか計画を練っているようだ。


「そうなの。だったらその性癖、うまく使えないかなぁ。うーん。」


性癖ではございません。


そういえば、この子たちの計画を聞いていない。


「私のことより、貴方たちは一体どうしようと思ってるの?計画のほどをお伺いしたいわね。」


できることなら、次の人生に突入する前に、ウエスコットを潰したい。この子たちなら何かやり遂げるかもしれないと、一縷の希望を持たずにはいられなかった。


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