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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
娼館の乙女達
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「お母さん、この仕事、向いてないわぁ。」


パトリシアが笑顔のまま続ける。


「女の子に甘いし、経費は読めないしねぇ。客からの取り立てだけはちゃんとしてるけど、パトロン候補が出てくると、店の収益より、女の子がちゃんと大事にされるかどうかの方を優先しちゃってるわよねぇ。」


ぐっ。


「今だって経営トントンじゃない。もっとしっかり稼いでくれなきゃ、結局長い目で見て泣くのは女の子たちよ。その辺ドライにやれるようじゃなきゃ困るのよ。だから、私が取って代わるつもりだけど。


一応他の女の子たちの様子は見張ってたのよ。ちゃんと私に付いてきてくれるか見極めるために。ラヴィニアは踊れればそれでいいみたいだし、ダイアナは・・・なんか別の方向向いてるしねぇ。私がやればいいか、と思ってたの。


で、この騒ぎでしょう?私も乗っけさせてもらうことにしたの。


どうせ始めるんだったら、しっかり資金を投入してテコ入れしたかったのよね。今みたいに馬車を外付けにするんじゃなくて、馬車で乗り込んでも身元がわからないような作りにしたり、各部屋を季節ごとにテーマを変えて装飾したり。踊る場所ももっと広いところが必要よ。ダンサーを増やしてね・・・とにかく、隣を買い取って潰して、うちを広げなきゃね。


そのためにウエスコットに大々的に支援いただけるように、私も手助けさせてもらうわ。私のコネクションだって捨てたもんじゃないしね。」


確かにパトリシアのクライアントには、騎士、軍関係者が多い。パトリシアの一見優しい振る舞いの裏で、女王然とした言動や、容赦なく振るわれる鞭、そして束縛具が、騎士様たちに・・・なぜか人気なのだ。


「まあ、うまくいかなくても、お母さんは、トッドと一緒に、無理なく合法的に追い出せるでしょう?」


きっと一文無しでほっぽり出されるんだろうな。ホント腹黒いな!


私は返事もそこそこに考えこんだ。この子たちと一緒なら、ウエスコットに一矢報いる事が可能なのだろうか。


ネルが戻って来たとして、トッドが娼館の息子で、(パットに追い出されなかってとしてだが)一緒になれるのだろうか。今度こそ幸せになれるように、最善の環境を用意しておくことを考えるべきなのだろうか。


その時、トントンとドアをノックする音が聞こえ、乳母を呼びに行った下働きの子が顔をのぞかせた。


「乳母のペトラさん、連れて来ましたー。」


私が返事をする前に、ラヴィニアが、声をあげた。


「トッドを預かってもらって頂戴。ペトラの自宅で面倒見てもらって、こっちが通うからって伝えて。」


ええ?私は住み込んでもらうつもりだったのに。


パトリシアの冷たい視線が飛んできた。確かにトッドを娼館にいさせる意味はない。けど・・・


ダイアナが衣装ケースから立ち上がってトッドの入った籠を抱えると、有無を言わさず、下働きの子に渡した。


ドアを閉めると、


「乳飲み子なんだから、危険のあるここで養育する必要はないわよ。」


と、いいながら、衣装ケースに戻った。


その通りではある。覚悟を決めて、トッドにとって、最善の道を選ぼう。いざとなれば、死んだふりして迎えに行けばいい。


私は背筋を伸ばして、ラヴィニアを見つめた。


「で、作戦はあるの?」


ラヴィニアが頷く。


「ウエスコットが新しい女の子を探していることは言ったわよね。幸いあいつの趣味はよくわかっているから、その年頃の女の子を用意して、ここにおびき寄せるわ。」


つまり、10代にもならない子を?!私は、怒りのあまり、自分の顔に血が上ったのを感じた。


「私の目の黒い内は、絶対にそんな事はさせません!」


ラヴィニアを睨みつける。断じて許さない。


私がこれだけ睨みつけているというのに、ラヴィニアは、半目になりながら、むしろ間延びしたような声で言った。


「ああ、それだけど・・・その、貴方の『目の黒い内』って、どれぐらいの期間のことを言うの?」


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