表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お迎えが来るまで  作者: 大島周防
娼館の乙女達
68/92

10

ダイアナが口火を切った。


「その子がネルの赤ちゃん?」


私が籠を掲げて、トッドの顔をそっと見せる。


「トッドっていうの。男の子よ。」


ダイアナがそっと手を伸ばして、トッドの拳に触った。


「ふうん。トッド・ウエスコットね。」


私がちょっと慌てて、


「いや・・・」


と言いかけると、ラヴィニアが、それを遮った。


「部屋で話をしましょう。」


それもそうかもしれない。


私の部屋にはまだネルの亡骸があると伝えると、ラヴィニアが、自分の部屋では狭いので、一番広い、ダイアナの部屋に移動することを提案した。


了解してダイアナの部屋に向かいながら、いずれはラヴィニアとは話をしなくてはならないと思っていたが、なぜこの3人が揃っているのだろうかと不思議に思った。


トッドは眠ったままだ。すぐにお腹を空かせて起きてくるだろうけれど。乳母が間に合うかどうか、とか、服やオムツは準備したもので十分なのか、そんなことを考えていたので、3人が私に話したがっている内容まであまり深く考えないままだった。


「えっ?」


ラヴィニアがなんといったのか、聞き返した。


「とにかく座ってと言ったのよ。」


「ああ、はい、はい。」


パトリシアは、ベッドに腰掛け、ダイアナは、ベッドの足元にある衣装ケースにクッションを置いて座った。私が一番良いアームチェアを独占したので、ラヴィニアは、私の前に椅子を引っ張ってきて、座った。彼女はこういう、上下関係とかを全く気にしない。


「ネルは残念だったわね。」


そこから入るところが、一見冷たそうに見えても人情家のラヴィニアらしかった。


「そうね。でもこうなることはネルも覚悟はしてたから。」


私もネルが逝ってしまうのは半ば諦めの気持ちとともに受け入れていた・・・と思う。


ラヴィニアが続ける。


「それで、お母さん、これからどうするの?」


どうするか、あまりよくは考えていなかったが、一つだけはっきりしている。


「ネルに頼まれたの。トッドは私が育てるわ。とりあえずの手配はしておいたし。私にも育児の経験がないわけじゃないしね。」


ここまで言ったところで、ラヴィニアにため息をつかれた。


「トッドを娼家育ちの子にするつもりなの?」


私はムッとする。


「あんた達に迷惑をかけるわけじゃなし。なんでそんなこと言われなきゃならないの?」


ダイアナが会話を引き取る。


「いや、ウエスコットとして生まれたんだから、その恩恵は受けるべきよね。母親が命がけで産んだのに、ここで育てて、平民、いや、平民以下の人生を送らせるのはどうかと思うわ。」


ダイアナ、その言葉、そのまま貴方にお返ししたいけど。貴方だってもっと良い生活が選べたと思うのだけど?だからきちんと理論立てて反論した。


「ウエスコットが、この子のことを認めるわけがないじゃない。実子どころか、庶子としても認めないでしょうよ。そこらへんの養護院に捨てるつもりで王都に来てるんだから。」


ラヴィニアが答える。


「ウエスコットがどんなやつかは、私もよく知ってる。だけど、幸いあいつには後継らしい後継もいないんだから、うまく仕掛けて、トッドを後継者にして、その上でウエスコットを葬り去れば?この子の将来を考えれば、それしかないんじゃない?」


私は言葉を無くした。そんな事ができるわけがない。


ダイアナが、足をプラプラさせながら、言葉を続けた。


「で、ウエスコットの領地を私が牛耳るの。」


ラヴィニアにギロッと睨まれたダイアナが、


「・・・私たちが牛耳るの。」


に、言い換えた。


なんだ、冗談か。私がほっとしたのを見て、ラヴィニアが言い募った。


「夢物語をしてるわけじゃないわ。あいつを放っておけないのはお母さんにもわかるわよね。マニーによると、すでにあいつは次の女の子を物色してるらしいわよ。また新たな犠牲者を出すつもり?」


いや、貴方のお怒りはもっともです。私だってできる事なら、ウエスコットを潰したい。苦しんで、苦しんで死んで欲しい。だがそんな事ができるものか。


「ただ暗殺するだけなら、マニーと私でやれるだろうけど、それじゃあ、全く私たちの利にはならないの。トッドをうまく・・・コホン・・・利用させていただきたいわ。」


ダイアナが引き取る。


「私たちには、情報と人脈があるから、それをうまく活用できるわよ。お母さんなしでもやるわよ、もちろん。でも、お母さんもうまく立ち回って、トッドの乳母にでもなった方が良いのじゃないかしら?その上でウエスコットの領地の管理は私たちにまかせてちょうだい。」


待ってよ。まず、どうやってウエスコットを倒すのかさえ見当がつかないのに、なんで領地の管理の話をしてるのよ。


焦る私の目線の先に、パトリシアがいた。相変わらずニコニコしながらラヴィニアとダイアナの話を聞いている。


「貴族のダイアナの人脈を使うっていうのはわかるし、ラヴィニアがウエスコットに復讐したいっていうのも理解できるんだけど、なぜパトリシアが?パットはなぜこの計画に参加しているの?」


時間稼ぎもあって、私は矛先を変えようとした。


パトリシアが、ちょっと驚いたように目を開く。


「私?私はもともとお母さんを追い出して、この店を乗っ取るつもりだったから。お母さんが子育てのために、穏便に出で行ってくれるなら、御の字よ。」


・・・アンタが一番黒いな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ