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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
吸血王子
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20 ある村人視点 (1)

村長に呼ばれたのは、二週間ほど前のことだった。 何事かと館に参上したら、ドナルドとフランシーンがいた。メグの親だ。ふっくらしてよく笑うメグ。


「水飲んでも太っちゃうんだ。」


と、嘆くメグ。そんなメグが


「父さんが腰を悪くして働けない間、ちょっとだけ仕事に行ってくるから。」


と報告に来たのは、もう3年も前だ。待っててね、とも、待ってるよ、とも言っていない。お互いの厳しい生活のことを考えると、なんの約束も出来なかった。 でも、


「本当にちょっとだけだからね。ねっ!」


と言われた時には、


「うん。」


と返事をした。それっきりだ。随分時間がかかってるな、とは思っていた。でも天候が思わしくなくて、小麦の収穫が上がらない俺が、メグを迎えに行きたいとは言い出せずにいた。


ぼんやり、どうしてドナルドたちが呼ばれてるんだろう、と、思いながら、村長に、


「どうしたんです?」


と、尋ねたら、


「メグの行方がわからんそうだ。」


と、言われた。


「お前の方で何か心当たりはないか?」


村長に聞かれたけれど、俺は首を横に振った。


ドナルドが、


「メグが雇い主のところから逃げ出したんなら、ここに戻って来るはずです!うちにもショーンにも連絡がないなんてあり得ないです。」


と、力なく村長に訴えた。村長は、再び俺に、


「メグと何か約束してたのか?」


と、聞いてきた。俺はまた、首を横に振った。


俺が言うべきことなど何にもないのだ。メグのニコニコ顔が脳裏を過ぎった。


+ + +


今度は、名主様に呼ばれた。この一帯の名主様の家まで、丸1日は掛かる。けれど俺は、メグのことが何かわかったのかもしれないと、とにかく出かけることにした。


名主様の家の庭先に、たくさんの人たちが集まっていた。メグの両親もいれば、他の街から長く旅してきたのではないか、と思われる旅支度の人もいた。皆、顔に不安と焦りの色を浮かべていた。


名主さんだけではなく、隣町の医者先生がいた。村長さんも、隣町の学校の先生もいる。そのほかにも数人、俺が見たこともない、恰幅良い人たちが集まっていた。


顔役の人たちは、しばらく額を寄せ合っていたけれど、名主さんが皆に押されて、ようやく声を上げなさった。


「今日集まってもらったのは他でもない。この付近の町や村で若い娘さんたちが次々に行方不明になっている件についてだ。皆も噂で聞いたことがあるかもしれんが・・・」


俺たちの前に立つ名士さんたちが、それぞれ、頷いていた。そんな噂があったのだろうか。俺はちっとも知らなかった。


「いや、町がバラバラだったので、私たちも気がつくのが遅れてしまった・・・だが、この度、宿の女将から、ある口入屋がこの行方不明事件に関与してるかもしれないので、調べてほしい、という訴えがあったんだ。女将は、宿に泊まる行商人やら、旅人から幅広く話を聞ける機会があったので、そういう噂に共通して出てくる口入屋の名前を知るに至ったらしい。そうだな?」


名主さんが、庭先に集まる人たちの一番前にいた、恰幅の良い女の人の方を見て尋ねている。女の人は、ゆっくり頷いただけだけど。


「女将から、口入屋が世話した若い娘さんたちの名簿というのを提供された。名簿にあった名前を、調べたところ、誰も本人達を確認できなかった。提出された名前は全部調べた。名簿に載っていた 女性たちは皆、行方不明だった。」


俺は息をするのを忘れてしまった。誰も何も喋らない。


しばらくしてようやく声が上がった。


「口入屋は?口入屋はなんといっているんです?」


随分やつれた女の人だ。立つのもやっとという感じで、隣の男の人に抱えられている。


名主さんが、


「口入屋がは、『雇い先を世話したんだが、いつの間にか姿の見えなくなったり、身持ちが悪くて男と逃げたり、盗みを働いて逃げた』と言っていた。」


「そんなことが信じられるか!」


名主さんの言葉が終わらないうちに、誰かが叫んだ。俺も、


「メグ、メグはそんなやつじゃない!」


と叫んでいた。あれは自分の声だったと思う。それともメグの両親だろうか。頭がぐるぐるする。


口々に皆が叫びだした。


「口入屋をここに連れてこい!俺が、俺が決着を付けてやる!」


そう言う声が大きくなったところで、名主様の使用人たちが、後ろ手に縛られた男を連れて来た。


男は、ちょうど名主様と俺たちの間に突っ立っている。その隙間がもどかしくて、俺たちは男に詰め寄った。


「お前か!俺の娘を拐かしたのは!」


「私の子はどこにいるの?」


「どこよ!」


「返せ!返してくれ!」


俺たちの輪は、どんどん狭くなった。


「うわぁ!」


誰かが男の首を締めはじめた。誰も止めもしない。苦しさのあまり、男が膝を着いた。


畜生!俺も拳を振り上げた。


ようやく、お医者様が割って入った。


「おい、口入屋。いい加減、娘達をどこに売り飛ばしたか白状しろ!今度は皆を止めんぞ!」


咳き込みながら男が、


「売ったりしてません。」


と、囁いた。お医者様が詰め寄った。


「嘘を吐くな!これだけの人数の娘さんをじゃあ、どこにやったって言うんだ!」


お医者様と同じことを俺も恐れていた。けど、きっとそうだろう。助けださなきゃ。メグは辛い思いをしてるに違いない。あの娘の笑顔は消えてしまったろうか。いや、まだ間に合う!


男が焦りながら、


「本当です!私は女の子を紹介しただけです。ちゃんとした場所なんです!」


掠れた声で、それでも叫んでいた。


名主様が、


「誰に紹介したんだ?」


と、畳かけた。


「・・・ご、ご領主様です・・・」


名主様の動きが止まった。


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