19
「ヴァーン!!」
あんたがとっくに逝く覚悟はできているのは知ってたよ。でも私はあんたを逝かせる決意なんてできちゃいないんだ!
「ヴァーン!」
この孤独を、どうすればいいの?全ての人に置いていかれて、あんたにまで、先に行かれて、独りぼっちでどうしろというの!
奥様が手についた埃を、さも嫌そうに眺めている。ヴァンの懐に手を伸ばした時に付いたのだろう。
「やあねぇ。吸血鬼ってみんな考えることが同じなのかしら。吸血鬼にして殺しましょうって。」
ああ、あんたはタークイン先輩も同じやり方で消したのか。
奥様は、鏡をもう一度見ながらにっこりする。
「鏡に映った自分の姿も見れない生活なんて、誰が望むのよ。」
テレサがその手を丁寧にぬぐいながら尋ねる。
「奥様、あの女はいかがいたしますか?血を絞るために取っておきますか?」
奥様はフン、と鼻を鳴らした。
「あんな醜いものからの血なんていらない。まだ今の子、何度か使えるでしょう?そのうち新しい子も来るだろうし。破棄しておしまい。」
・・・皮肉なことだね。あんたのいう醜い血っていうのが、ひょっとしたらあんたの求めているものに一番近いかもしれないのにね。
そんなことを考えていると、私の背骨にさらに力が加わったのを感じた。
ボキ、ボキッ。ゴキッ。
真っ暗。
+ + +
目が覚めても真っ暗だった。
目を開けても真っ暗だった。
あの子がいない、あの子も私を置いていった、と、暗闇の中思い返している。
そっと首筋に触ってみる。ここにあの子が生きていた印があるのだろうか。
動く気が起きない。床はでこぼこで、自分がどこに横たわっているのか、見当もつかない。
カサ、カサ、カサッ。
どこかで、小動物が動く気配がする。
+ + +
どれぐらい時間が経ったのだろう。いきなり頭上から音がして、灯りが差し込んだ。
「ひっ!」
私を取り囲む凸凹したものの正体がようやく判明した。骨、遺体、死体、髪の毛、ボロ布・・・
・・・私はいなくなった女の子たちに囲まれてるんだ。
天井で開いたドアからは、7、8メートルはあるだろう。再び物音がしたかと思うと、水が落ちてきた。
ドドッ。
飛沫が顔に掛かる。
糞尿?匂いがする。
ああ、ここは下水なんだ。あの子たちの上に、あんたたちは糞尿を流すんだ。
頭上のドアが閉まって、また真っ暗になる。
もう横たわってはいられない。ノロノロと起き上がる。
手探りで、手近な頭蓋骨を探り当てた。
ポキッ。
胴体から頭蓋骨を外すと、そのままそっと胸に抱いた。
「ごめんね。」
もう一つ。バキッ。
遺体の山から少し離れる。チョロチョロと、微かに水の音がする。その音に向かって、ゆっくり私は歩き出した。