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奥さんと一緒に、街の小さな飯屋に入った。とにかくこの今にも倒れそうなのをどうにかして、体力をつけてもらわないと。
「あの、お子さんは?」
奥さんは、心配そうな目をこちらに向けた。ヴァンも見かけたことがあるのだろう。
「宿で休んでます。陽の光のアレルギーでね。昼間は外に出れないんですよ。」
女将さんにずっと言い続けてきた嘘だ。
「そうですか。そういえば、お見かけした時も夜でしたね。」
ヴァンが無事なのを聞いて安心したのだろうが、未だ、心ここにあらずという風だ。
私は、奥さんに、二、三、確認することにした。
「女将さんが、娘さんがいなくなったお友達の奥さんのことを話してらっしゃいましたけど、それって・・・」
「はい。私のことです。女将さんには私も色々相談してまして。」
「確か、世話人の人に仕事を世話してもらって、って話でしたよね。」
「ええ。世話人って、あの口入屋です。近隣の村を巡回していて、仕事の世話をするって皆に声をかけてたんです。何人か口入屋に紹介されたところに仕事に行ったし、私たちからお金を取るわけじゃなかったので、世話人さんって、呼んでましたけど。
娘も、『1、2年下働きのお仕事させてもらえるから、行ってくる。』って。そう言ったきり、連絡がないから、『どこに仕事に行ったのか教えてくれ』ってお願いしたら、男と逃げたって・・・
そんな娘じゃないんです。家も娘ばかり三人で、主人の稼ぎだけじゃなかなか生活が成り立たないんです。娘はなんとかして私たちの暮らしを少しでも楽にしようって。長女だから妹たちのためにもって。そういう子なんです。」
奥さんの目から落ちた涙が、テーブルの上に染みを広げた。奥さんは涙を拭うつもりもないようだ。
「どこに勤めに行ったか、なんの手がかりもないんですか?」
奥さんが首を振る。
「ちゃんとしたお屋敷で、行儀見習いもさせてくれるから、ってだけ。貴族のお屋敷の使用人ばかりを斡旋してるって言われました。こういった人たちは、とにかく秘密厳守なので、名前は明かせないって。」
いやだ、きな臭い。
「あの、こんなことを申し上げてごめんなさいね。でも口入屋が騙して、若い女の子を売っ払ったりしてないですか?」
奥さんが震えている。
「一度だけ、お屋敷に着いたって、いいところだから安心してって手紙が、あの子の字で口入屋を通して送られてきました。だから安心してたんです。
でも、主人が体調を悪くして、娘に会いたがったんで、お暇をもらえないかと思って口入屋に連絡を入れたら・・・」
行方不明と言われたと。ふん。で、娘を騙くらかしたのはタークィン先輩だと。へーぇ。
「で、口入屋が紹介したほかの人達はどうなったんです?それもみんな女の子なんですか?」
「女の子だけかどうか、わかりません。ほかにどんな人を雇ったのか、知らないんです。いろんなところで人を雇っているみたいで。でも人がいなくなるっていう噂はあって・・・で、顔のきく女将さんに相談したんですけど。女将さんも噂だけじゃあ、どうしようもないねって・・・」
だよね。こうなると、どうしてもあのリストを手に入れる必要がある。きっとあそこだ。
「奥さん、これが大掛かりな陰謀だとしたら、直接口入屋に聞いたって、返事がもらえるわけがありません。まずは手がかりになるものを私の方で探してきます。ちょっとお待ちいただけますか?」
奥さんが頷く。
「私も一緒にやらせてください。もう何度も口入屋にはお願いして、ダメだってことはわかってます。何かお考えがおありですか?」
はい。ございます。
「口入屋には、世話した人たちのリストがあるはずです。口入屋は世話した方からお金をもらうんじゃなくて、人を紹介したお屋敷からもらっているはずです。何人、いつ、誰を紹介したか、どこに紹介したか、それが彼らの命綱ですからね。リストはあるはずです。まずはそれを盗みます。」
ものすごく違法な行為だが、奥さんは尻込みしない。
「わかりました。盗みは私にやらせてください。捕まったって構いやしません。」
奥さんの目には決意が溢れている。しかし、口入屋に盗みに入ったことを悟られるわけにはいかない。
口入屋の尻に火がついていることを知られて、証拠隠滅とかいって、女の子たちの行方が分からなくなったら困る。
「奥さん、捕まるわけにはいきません。ここから、手がかりをえて、娘さん達を探すんですから。とにかく、ここは私に任せてください。」
口入屋のあの伸びた腕を思い出す。その先にあった机の引き出し。あそこが一番怪しい。
ヴァンが起きたら直ぐに取り掛かろう。