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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
吸血王子
48/92

12

「いやですよぅ。若い女の子が騙されるのなんて、旦那さんのような色男に決まってるじゃないですかぁ。」


目をぱち、ぱち。畜生、私も魅了の術が使えれば。


口入屋さんはまんざらでもない顔をしている。ちょっと口が軽くなった。


「本当さ。顔じゃないんだろうな。冴えない奴なのに、随分女を侍らせていたらしい。それで頭にきた親たちが、家に乗り込んで、叩き出したらしいがな。


未だにあちこちの村を回って、若い女に声をかけてるぞ。」


やっぱりタークィン先輩のことだね。


しばらく黙っていた奥さんが、思い余って声を上げた。


「そいつなんですか?そいつがシャーリーを連れ出したんですか?」


口入屋さんの口が歪む。


「知らんな。そいつがこの近辺の村で、女に声をかけているのを、2、3度見かけただけだ。俺もあちこちを回るからたまたま行き合ったんだ。どの女が引っかかったのまでは知らんぞ。」


奥さんは考えこんでいる。私といえば、若い男の容姿にしか興味のない噂好きのおばさんを続行中だ。


「ええ!そんなに冴えないのに、引っかかる女がいるんですか?何が・・いいんでしょうねぇ。」


ぐふふ、という笑いがうまく出てこない。練習の必要がある。けれど、口入屋さんには、うまく伝わったようだ。口元がニヤニヤ笑いに変わっている。


「知らんなぁ。口がうまいんじゃないか?女にしかわからん色気ってのもあるだろうしな。男の俺じゃあ、わからんよ。まあ、綺麗な目をした奴だったがな。」


ふーん。


「吸い込まれるような目とか、言いますもんねぇ。そんな感じですかねぇ。」


そう水を差し向けると、


「まあ、青白い顔してるから、目が目立つんだな。こう、キラキラっとさせながら、にっこり。これで若い女はイチコロなんだろうさ。」


口入屋さんも目をパチパチしている。


「いやですねぇ、人の悪い。女の子が引っ掛けられるところを眺めてるなんて。じっくりご覧になったんですか?」


薄笑いを浮かべながら、私は横目で口入屋さんを睨む。


「まあ、あんな堂々と真昼間から公道でやられちゃあ、嫌でも目に入るさ。俺もいい働き手を求めて、あちこち行ってるからね。そんなのを見掛けることもあるのさ。」


はい、アウト。なんで、タークィン先輩が日中行動してるのよ。息が止まりそうになった。


次の言葉を探していると、口入屋さんは、私の相手もそろそろ飽きたようだ。


「近々また出かけなきゃならん。そろそろお引き取り願いたいんだがね。」


口入屋さんは追い払うように手を振った。


「そうですか。じゃあ、私の仕事の・・・」


全部は言い終えることが出来なかった。


「今の求人は、あんたにはちょっとねぇ。元気のいい、若い子探してるんでね。」


と、鼻であしらわれる。


「あら、私は足腰達者でよく働きますよ。そこらの若い子には負けません。若い子のようにフラフラもしてないし。なんか私にあった仕事が来たら、ご連絡願えませんかねぇ。旦那さんだって、いっつもかっつも若い子ばかり世話してるんじゃないんでしょう?」


そういうと、ちょっと不審そうな目つきで、口入屋さんを睨んでやった。疑われないようにしなさいよ。まったく。


ようやく口入屋さんも私の目つきに不吉のなものを感じたようだ。


「あ、じゃあ、連絡先だけ書いて・・・」


口入屋さんが、部屋の隅に置いてあった机に向かい、その手が、引き出しに掛かった。だが、何を思いついたのか、手が一瞬さまよったかと思うと、机の上の紙とペンに向かった。


紙とペンを渡され、私は適当な名前と住所を書き込む。どうせ連絡なんて来やしない。居場所を教えるだけこっちの損だろう。


紙を口入屋さんに戻すと、奥さんに話しかけた。


「旦那さんもお忙しいようだし、奥さんもお疲れでしょう?よろしければ、お昼でもご一緒しません?何か食べないと頑張れませんよ。」


黙ってついてきてくれる自信はなかったけれど、とにかく座っている椅子から引っ張り上げた。奥さんは、思いの外すんなり立ち上がってくれる。これがチャンスとばかりに戸口に向かった。


「じゃあ、旦那さん、是非ともよろしくお願いしますよ。」


そう言って、口入屋さんに片目をつぶった。奥さん連れ出してあげるんだからね。恩に着なさいよ、とばかりに。


口入屋さんはちょっとホッとした様子だ。


私たちはそのまま戸口から出ると、大きな通りの方へ向かった。家から十分離れた頃、それまで黙っていた奥さんが、私の方を見上げた。


「女将さんのところで働いてらっしゃる、ドロレスさんですよね。一度、宿でお見かけしたことがあります。」


奥さん、随分素直に着いて来てくれたと思ったら、どうやら私の人間的魅力に惹かれたわけではないらしい。


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