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お迎えが来るまで  作者: 大島周防
吸血王子
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11

返事を待たずに、勝手に口入屋のドアを開けて様子を伺う。


苦虫を噛み潰したような顔の男と、髪を振り乱し、痩せ細った女性が、ほとんど掴みかからんばかりの近さで顔を突き合わせている。


男性の方はちらっと私を見やったが、すぐに女性に視線が戻った。女性の方は私を見もしない。彼女の目は大きく見開かれており、両手を揉み絞りながら、男性に再度言い募っている。


「街の名前だけでもいいんです!雇い主の方にご迷惑はおかけしません。娘と相手の男の噂を聞いて回りますから。とにかく行方を探さないと。娘は騙されてるかもしれないんでしょう?」


そんな女性を、男性(この人が口入屋なんだろう)は、冷ややかな目で見下ろしている。


「あんたが話を聞いて回ることで、雇い主に迷惑が掛らないとでも思ってるのか?男にたぶらかされるようなことが許される仕事場だなんて評判が立ってごらんなさい!不名誉にもほどがある!駄目だ、駄目だ。とっとと帰ってくれ!」


取りつく島もない。女性は震える手を伸ばして、口入屋に掴みかかった。


口入屋さんの手が振り上げられる。拳骨だ。


殴られる!と思った瞬間に体が動いていた。女性を抱え込むように引き離す。


「まあ、まあ、旦那さん、女を追い出すのに、お手を煩わせることありませんよ。私にお任せくださいな!」


にこにこ、明るく笑いながらさらに女性を抱き込んだ。


口入屋さんはあげた手を振り下ろすところがなくなって、キョトンとしている。


「お前、誰だ?」


「私ですか?私、最近亭主を亡くしましてね。そろそろ生活も大変になってきましたんで、仕事を探そうかと。住んでた田舎じゃなかなか仕事がないもんで、街に子供と一緒に出てきたんですよ・・・」


口入屋さんの顔から緊張が少しほぐれた。


「こちらでお仕事を紹介してもらえるって聞いて。すみませんねぇ、お忙しい時に押しかけて来ちゃって。旦那さん商売繁盛でなかなか捕まらないよって、言われたもんで。ここがチャンスともう、取るものも取り敢えず来ちまいましたよ。」


もうお節介おばさん全開で話しかける。口入屋さんは、ようやく振り上げた腕を下ろしていた。


私の腕の中の奥さんを見下ろすと、


「まあ、まあ、奥さん、貴方大丈夫ですか?随分お疲れのご様子ですね。」


そういって、キョロキョロ見回すと、近くに椅子がある。そちらの方向に奥さんを優しく押すと奥さんが崩れ落ちるように、座り込んだ。


奥さんは私の顔を訝しげに見つめている。


「お水でも・・・」


と、言うと、私を遮って、口入屋さんが声を荒げた。


「知るか!早くそいつを追い出してくれ!」


そんな義理は毛頭ございません、と思いながら、お節介おばさん(わたし)は捲し立てる。


「いやだ、旦那さんたら、そんな評判の悪くなるようなことしなくても。働き手が寄り付かなくなったらどうするんです?穏便にお帰りいただけるならそれでいいじゃないですかぁ。」


そう言いながら、私は奥さんの手をさする。


渋い顔で口入屋さんが、


「それができるなら苦労せんよ。この女は、『娘を出せ、娘を返せ』って一歩も引かん。


俺に言われてもな。知らんもんは知らん。」


私はもう、好奇心一杯の顔、ウキウキしながら尋ねる。


「娘さん?どうしたんです?」


「いや、勤め先から、若い男と逃げたらしいんだよな。こっちもいい迷惑だ。信用ならん娘を紹介したって、お叱りを受けたよ。」


私の手の下で、奥さんの手がビクッと震えた。私はその手をしっかり握りしめる。


余計なことは言わないで、そう奥さんに心の中で念じた。どうせこの男は、雇い主の情報は一切漏らすつもりはないのだ。そっちを聴いても無駄だ。


「あら、娘さんの所為で、旦那さんが叱られるなんて。理不尽ですよねぇ。


娘さんも若かったんでしょうから、世間知らずだったんじゃないですかねぇ。そんな悪い子じゃないでしょうに。」


そういって、母親に媚びを売る。


「旦那さんも沢山の人をみてらっしゃるから、そんな簡単に騙されて、雇ったりはしませんよねえ。旦那さんの御目に適うようないいお嬢さんだったんでしょう?じゃあ、変な男に騙されてたぶらかされたんじゃないんですか?」


渋々口入屋さんが答える。


「まあ、そうかもな。」


口入屋さんの同意を得て、私は勢いづく。


「随分色男だったんでしょうねぇ。田舎の娘なんてイチコロでしょうよ。まったく今時の子は、直ぐ容姿に騙されるから。」


口入屋さんに、いかにもと頷きながら同意を求めると、


「いや、それがそうでもなかったらしいぞ。なんだかひょろっとした、気の弱そうなつまらない男だったらしい。」


あんた、タークィン先輩のことを言ってるのかい?


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